1章 想い人1
本日1話更新です。
「寒くなってきたけれど、いい天気ね。」
今日も窓を開けて天気を確認する。冷たい空気が部屋に入ってくるが、天気がいいため気持ちのいい朝だ。レノヴァティオ公爵家での食事会が終わり、私はいつもの日常に戻っていた。オズリオ様に姿を見られてしまったけれど、あと半年もすれば私は18歳になり、この国を出て行く。あと半年だ。
「そろそろ殿下が来られる時間ね。」
あれから殿下は欠かさず青の日に来るようになった。毎週来られると何をすればいいのか分からなくなる。今までは、だいたい街を2人で散策するか、殿下が持ってきた本について話し合うかの2択だ。しかし、今日は殿下の魔力の調整をしようと考えていた。以前に倒れた時のことを考えればそこまで体調が酷くなっているわけではないはずだ。でも、だからといって限界まで放置するのは望ましくない。彼は王太子で将来この国を背負っていかなければならない。今でもかなり苦労をされているはずなのに、体調不良でまた倒れられたら周りの人間が困る。
コンコンッ
「こんにちは。」
私は部屋の扉を開ける。何故か色々食材を持っている殿下がそこに立っていた。
「こんにちは。それはどうしたんですか?」
「あぁ。これのこと?毎週来ているからかな。広場の方たちに覚えられてしまってね。色々もらってしまったんだよ。」
「そういうことですか。」
殿下は顔が整っているし、誰に対しても分け隔てなく優しい。広場のおばちゃんたちに気に入られたのだろう。私はいつもと同じように殿下を部屋へ招く。
「アシル様。体調はどうですか?」
「君のおかげで随分楽をさせてもらっているよ。でも、少しずつ悪くなってきているね。」
「やっぱりそうですか。」
以前、本音で話さないと周りが苦労すると伝えたことを覚えてくれていたようだ。殿下は素直に体調が良くないと教えてくれた。
「アシル様の体調の悪さは魔力が原因です。自覚はありますね?」
「やはり魔力が原因と知っていたんだね。そうだよ。魔力量が多すぎるから制御が出来ていないんだ。」
「そうですか。アシル様の魔力を少し調整します。これでまた体調も良くなると思いますよ。」
「ありがとう。でも、魔力の調整ってどうやるのかな。今まで聞いたことがないのだけれど。」
本当は魔力を調整するなんて言いたくない。しかし、殿下は魔力が原因ということはもちろん知っていることだろうし、他に誤魔化しようがない。細かいことは言わずに、「調整」という言葉で魔力操作を曖昧にさせたが、やはり気になるようだ。どこまで話すのが最適なのか考えて発言する。
「私の魔力を使ってアシル様の魔力を落ち着かせるんですよ。上の服を脱いで背中をこちらに向けてもらえますか?」
(この言い方で納得してもらえるかしら?)
「ふーん。なるほどね。上の服を脱げばいいんだね。」
一応納得してくれたようだ。殿下は私の言った通りに上の服を脱いで向こうを向いてくれた。前に紅茶を飲んだ時も思ったが、殿下は危機管理能力が低いと思う。
「…アシル様は、私が後ろから危害を加えると思わないんですか?」
(思わず聞いてしまったわ。)
「こちらは体調を治してもらう立場だしね。あまり生意気なことは言えないよ。それに何かするなら、最初から私を助けはしないだろう?」
「最初にいい顔をして油断させておいて、後から大金などを要求する算段かもしれませんよ。」
「ふふっ。そういうこともありうるね。でも大金が欲しいなら、言ってくれれば用意するよ。そのかわり条件付きだけれど。」
「そうですか。」
(話が不穏な方に行ってしまったわ。どのような条件ですかとは絶対に聞かないでおこう。)
私は両方の手のひらを殿下の背中に合わせる。
「始めますね。気分が悪かったら言ってください。」
「分かった。どのような条件かは聞かないのかい?」
「聞かない方がいいと思ったんですよ。」
前回に比べて魔力は落ち着いている。それでも殿下の魔力操作は難しい。魔力量が多すぎてなかなかうまくいかないのだ。また、前回と違うのは殿下に意識があるということ。今回は殿下の感情に直接触れてしまうことになる。触れずに外から魔力を観察するときは何も思わないが、直接感情に触れるとなると…
(少し…怖いわ。)
私は少し息を吸って吐いた。
殿下の魔力に触れる。
ドクンッ ドクンッ
殿下の鼓動が私の鼓動より早い。
もやもやと不明瞭だった感情が少しずつ明瞭になって私に届く。
………だ。
私はその感情を無視して魔力を操作する。こうなることは予想していた。でもここまで純粋で真っ直ぐな想いを持っているなんて思っていなかった。
……きだ。
私は伝わってくる感情を何度も無視して殿下の魔力を操作する。殿下の中で上手く魔力が循環するように。
…好きだ。
自分の魔力だけが減っていく。なかなか魔力操作が上手くいかない。無視してるはずなのに、想いが私に真っ直ぐ届く。
…愛している。
気づけば私は魔力操作をやめていた。
心が揺さぶられる。以前にもこんなことがあった気がする。あれはいつのことだったか。あの時も、私はどうすればいいのか分からなくなって…
(そうだ…◼️◼️◼️が言ってくれた…)
前世で、真っ直ぐ想いを伝えてくれた人がいる。私はその想いに応えることはなかったけれど、何度も何度も彼に助けてもらった。何度も何度も「好きだ。」「愛している。」と言ってくれた。彼がいたから頑張ろうと思えた。彼がいたから生きていこうと思えた。でも…
「……アさん!」
(彼をもっと拒否していれば、私からちゃんと離れていれば、彼は死なずに済んだのに。)
「…ミアさん!」
(私が殺したようなものだ。)
「…ミア!!」
ハッとする。
殿下の大きな声で私は現実に引き戻された。全く気付かなかったが、殿下はこちらを向いて私の両肩を掴んでいた。
「…申し訳ございません。ぼーっとしておりました。」
前世を思い出していた。少し汗をかいてしまっている。息も乱れている。とりあえず返事をしたが、気持ちを切り替えるように深呼吸をして自分に言い聞かせる。
(大丈夫。今の私はミアで、殿下の魔力操作をしている最中。…もう大丈夫よ。)
「もう大丈夫です。」
「あ、あぁ。ならいいんだ。私も少し焦ってしまったからね。大きな声を出してしまった。申し訳ない。」
「いえ、ありがとうございます。続き…しますね。向こうを向いてもらえますか。」
殿下はこちらを向いている。つまり、殿下の素晴らしい腹筋がこちらを見ている。前世では男性の上半身裸を見るくらい普通だったが、こちらの世界では違う。基本的に厚手の服で肌を隠すのが基本だ。男性の肌を前にして女性は平気そうにするべきではない。それに、殿下と私の距離が近いので流石に目のやり場に困ってしまう。
「いや、いいよ。少し体調は良くなったし、今日はここまでで大丈夫。ありがとう。それより少し話がしたい。」
「…はい。分かりました。」
また、殿下の感情に触れるには勇気がいる。今は殿下のお言葉に甘えて、魔力操作は次回に繰り越すことにした。
「さっきはつい名前を呼んでしまったけれど、これからも呼んでいいかな?」
服を着ながら殿下は私に問いかける。
「いいですよ。ミアと呼んでください。」
了承すると殿下は嬉しそうだ。本当に私のことが好きなんだと思わせられる。
「ミア。さっきは誰のことを思い出していたの?」
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