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1章 レノヴァティオ公爵家3

本日1話更新です。

「それじゃあ私は仕事に戻るよ。帰るときに声をかけてくれ。ミリア、頼んだぞ。」


お父様は私に念をおして書斎を出て行った。「頼んだぞ」というのは、オズリオ様をもてなせということなのか、公爵家に戻ってこいということなのかは分からない。都合の良いように解釈して返事をする。


「かしこまりました。」


お父様が部屋を出て行った後、さっそくオズリオ様が話しかけてくる。


「ミリアリア様。体調の方はよろしいのでしょうか。お身体の調子が悪いと聞き及んでおりましたが。」


オズリオ様も私の噂については知っているようだ。今、社交界での私の評判はどうなっているのだろう。

私はさらに嘘を重ねるか、今日のことをなかったことにするか、まだ決めかねていた。



「今日はこうやって本を探しに来れるくらいには元気ですわ。ご心配ありがとうございます。」


「いえ…体調が悪く社交界にも出席されていないとか。」


「そうですね。パーティーやお茶会にも参加しておりません。色々と噂されていますでしょう?」


どうせ碌でもないことしか言われていない。それをわざわざ聞くなんて、オズリオ様を困らせたいのだろうか。自分がどうしたいのか分からないが、今の状況に少し腹を立てているようだ。今まで隠してきた姿を見られたこと。お父様の思い通りに行動してしまったこと。シシリーの入れた紅茶をなかなか飲めないこと。


(…そして、目の前にいる彼が実力のある騎士だということ。)



「いえ……ミリアリア様は噂に聞いていたよりもずっとお美しいですね。初めてお姿を見た時は自分の目を疑いましたよ。」


(流石貴族。綺麗に逃げられたわ。)


「ふふっ。ありがとうございます。では、お調べになっていること、詳しく教えていただけますか?」


(記憶を消してしまうのが1番いいけれど、バレてしまった時のリスクが高いわ…最悪、家族にまで罰が下る可能性があるわね。それでは本末転倒だわ。)


「フュナンゼ国との今までの戦争歴を調べているのです。今まではセレリィブルグ王国が戦果を上げていますが、胡座をかいていれば、いつか大敗してしまう。」


「フュナンゼですか。今までは小競り合いばかりで大きな戦争に発展したことはないですわね。戦果を上げていると言っても、国交を毎回結び直すばかりで、何かを要求した、されたことはほとんどなかったはずですわ。」


(しばらく経ったら体調が悪いフリをしようかしら…でもそうすれば、オズリオ様の口から私の情報が漏れてしまう…)


「ミリアリア様は何故、セレリィブルグ王国が戦果を上げているにも関わらず、フュナンゼに対して何も要求しないのかご存知ですか?」


「詳しい理由は存じ上げません。でも予想するとすれば…まず文化の違いが大きいですわ。セレリィブルグ王国がフュナンゼを統治したとしても、相手は複数の部族・民族の集合体。言葉も文化も土地も違います。統治したとしてもいつか内乱が起きてしまいますわ。次にフュナンゼには魅力的なものが少ない。伝統工芸品は素敵ですが、農作物や特産品に欠けます。他にもいくつかありますが、最大の理由は、武力を保持していないわけではないことですわね。」


(私のことは忘れてくださいとお願いする?しかし、ただのお願いだから、オズリオ様の口から漏れる情報を防げるわけではないわね…やっぱり、記憶を消す方がいいかしら?)


「…驚きました。そこまで考察できるのですね。こちらにある本をほとんど読まれているというのは本当なのですね。」



オズリオ様は目線を書斎の本棚に向ける。私はハッとして、先ほどまでのオズリオ様とのやりとりを思い返す。考え事をしていたら、素で対応をしてしまったようだ。予想外のことが起こり、いつも通り対応できていない。それに、オズリオ様の魔力が気にかかる。



(落ち着くのよ…)



コンコンッ



「失礼いたします。お飲み物をご用意させていただきました。」



シシリーが紅茶を持ってきてくれた。落ち着かないといけないと思った時に持ってきてくれるなんて、タイミングがいい。それに、飲み物があればオズリオ様の記憶を消しやすい。やはりリスクは高いけれど確実な手段を使うべきだろうか。それにしても、シシリーは騎士団長であるオズリオ様に対して緊張しているようだ。私が一向に部屋に戻らないので、確認しにきたら予想外のお客様がいらっしゃったとかそういうところだろう。また手が震えている。


(…こぼしそうね。大丈夫かしら………!!!)



ガチャンッ



シシリーの入れた熱い紅茶がオズリオ様に降りかかる。緊張してしまい足がもたれたようだ。


私は咄嗟に魔法を行使して動く。机を挟んでオズリオ様と向かい合っているので、普通なら間に合わない。普通なら…。



…オズリオ様に紅茶はかからなかった。



「お嬢様!!」


私はオズリオ様に紅茶がかかる前に、オズリオ様とシシリーと間に移動し代わりに紅茶を被る。お客様に怪我なんてさせたら大変なことになる。


「も、申し訳ございません!すぐに冷えた布を持ってまいります!!」


シシリーはバタバタと泣きそうになりながら書斎を出て行く。


(大丈夫かしら…?)


「ミリアリア様…今……いえ!それよりも怪我を!」



オズリオ様が心配してくださる。しかし、流石は実力のある騎士。最初からバレているなと思ってはいたけれど、今回で確信を与えてしまったようだ。


「怪我は大丈夫です。大したことはありませんわ。」


「しかし、火傷をされています。早く手当を!」


「大丈夫です。これくらいは平気ですわ。それよりもオズリオ様、怪我はございませんか?」


確かに私の腕は赤く腫れている。普通の令嬢ならどういう行動をするのだろう。痛みで泣くのだろうか。メイドを叱りつけるのだろうか。しかし、腕を切り落とされたことも、身体に穴を空けられたこともある私にとっては本当に軽傷だった。私よりもお客様であるオズリオ様の無事が大切だ。



「私は大丈夫です。それよりもミリ…」


オズリオ様が私の名前を呼ぶ声に重ねるように、別方向から私の名前が呼ばれる。


「ミリアー大丈夫か?」


「お兄様!?」


まだ王宮で仕事をしているはずのお兄様が左手に冷えた布を持って書斎の入り口に立っていた。


読んでいただきありがとうございます。

次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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