1章 レノヴァティオ公爵家2
本日1話更新です。
お父様との話し合いが終わり、とりあえず公爵家の自室に戻ってきた。自室といってもほとんど利用していない部屋で、私物もほとんど置いていない。しかし、ドレスは新しいものが常に準備されていた。着用しないので数は少ないが、いつでも公爵家に戻ってこいと言わんばかりだ。
「お嬢様。本日は屋敷で過ごされるようですので、お着替えをいたしましょう。」
「あー…そうね。着替えないといけないわよね。」
私の今の格好は、上質な水色のワンピースだったが、公爵令嬢としては少し物足りない格好だった。普段は家族の食事に参加するだけなので、上質なワンピースで十分だったが、今日は1日令嬢として過ごすことになる。誰かに会うわけではないが、1日公爵家に在籍することになるので、公爵令嬢として相応しい格好をする必要があった。
「いくつかドレスを用意させていただいておりますが、いかがいたしましょうか?」
「あなたの好みでいいわ。選んでもらえるかしら?」
「え…あ、はい!少々お待ちくださいませ。」
私が公爵家に帰ってきた時は、いつも新人のメイドが私の担当をする。何故なのか聞いたことはないが、私と親しくなってしまえば、私を調べる時にそのメイドが調査対象になってしまう可能性が高い。それを防ぐために、毎回、世話係を変えているのだろうと思っている。お兄様と私の仲が悪いという噂は、敵対組織の視線を私に向けさせるためでもあった。現状、レノヴァティオ公爵家を率いているのは実質お兄様である。お兄様は、宰相補佐官・王太子補佐官・領地運営を任されているけれど、全ての業務をきっちりこなしているため付けいる隙がない。そうなると、レノヴァティオ公爵家のお荷物である私から隙を探して陥れようとしてくるのだ。つまり、私のことを調べている人間は大体レノヴァティオ公爵家の敵対組織になるということだ。ただ、そうなると私の世話係が標的になってしまう。そのため、世話係は1.2回ほどで別の者に変更する必要があった。1.2回世話係をしただけの者から私についての情報を得たところで信憑性は低い。敵対組織も世話係から有益な情報を得ることができるとは考えないだろう。
新人メイドは悩んだ末にドレスを1つ持ってきた。私が気に入るかどうか緊張しているようで、少し手が震えている。
(緊張しなくても、よっぽど変な服じゃない限りなんでもいいのに…)
「この淡い紫の布地に白地の刺繍がふんだんに使われたドレスはいかがでしょう。お嬢様の髪や瞳の色と相まって素敵だと思います。」
「素敵なドレスね。それでお願いするわ。」
笑顔を見せて了承しただけなのに、メイドはとても嬉しそうだ。着替えるだけなのにとても張り切っている。
「そういえば、あなたの名前は何というの?」
「シシリーと申します。先月からレノヴァティオ公爵家のメイドをさせていただいております。」
「シシリーね。それじゃあシシリー、着替えを手伝ってもらえるかしら?」
「はい!かしこまりました。お任せください。」
…
ドレスを着た後、シシリーは私に化粧を施した。そこまでしなくてもいいと断ったが、せっかくなのでとシシリーに懇願されたので任せることにした。どうせ暇なので時間潰しに良いかと思ったからだ。それに、シシリーもとても楽しそうだったので邪魔するのは悪いだろう。
「お嬢様。こんなにお美しい方を私は見たことがございません。本当に素敵でございます。ライル様も美しいですが、ミリアリア様はそれ以上です。」
「褒めすぎだわ。でもありがとう。」
私の見た目はお兄様とよく似ている。綺麗な顔に生まれたのは嬉しいけれど、平民として生きていくには目立ちすぎる顔だった。せめて親しみのある顔であればよかったのだけれど、切長の瞳に銀髪。親しみ易さなんて一つもない。
「この後はどうされますか?」
「そうね…本でも読もうかしら。」
「では書斎に行ってまいります。ご希望の本はございますか?」
「んー。ほとんど読んでしまっているから、自分で探すわ。ありがとう。もう下がっても大丈夫よ。」
「では、私は紅茶の準備をしてまいります。」
「…そうね。ふふっありがとう。紅茶を楽しみにしているわ。」
シシリーの提案を聞いて、確かに本を読むなら紅茶があった方が良いなと考える。食事会まで退屈だと思っていたけれど、案外楽しく過ごせるかもしれない。
…
私は公爵家の本棚を前にして悩む。レノヴァティオ公爵家は貴族の中でもトップクラスの蔵書数だそうだ。書斎は全部で3部屋あり、お父様とお兄様には個別の書斎がある。今、私が来ているのは公爵家の1番大きな書斎だ。お兄様も私も昔から本をよく読むので、読んでいない本を次々に求めた結果がレノヴァティオ公爵家の蔵書数となっている。しかし、そのおかげで、読んだことのない本を探す方が難しい。また新しい本が手に入ればお兄様が届けてくれている。せっかくシシリーが紅茶を準備してくれているのに、読みたいと思える本がなかなか見つからなかった。
コンコンッ
「ミリア、少しいいかな?」
お父様が空いている扉をノックしたようだ。
「はい。お父様。」
(待ってこの魔力反応……お父様以外に誰が…。……私をどうしても貴族に戻すつもりね…)
「紹介しよう。こちら、ワーナード伯爵家の跡継ぎで近衛騎士の第一団長をしているオズリオ・ワーナード殿だ。」
お父様の紹介に合わせてオズリオ様がお辞儀をする。身長の高い方でお父様より頭一つ分高い。
「お初にお目にかかります。近衛騎士第一団長をしておりますオズリオ・ワーナードと申します。」
「初めまして。ミリアリア・レノヴァティオと申します。」
とりあえず挨拶をする。お父様はどうしても私を公爵令嬢に戻したいらしい。その方法が他の貴族に私を紹介することのようだ。しかも、結婚適齢期の男性。どうにかして婚約者を見つけて、そのまま貴族として暮らして欲しいのだろう。このために朝から私を呼びつけたのかと納得する。また、時間を持て余した私が書斎に行くことも想定済みのようだ。そして、紹介されたのは次期ワーナード伯爵のオズリオ様。殿下の側近をされているセジル様の兄だ。若くして近衛騎士第一団長を任されるほどの実力があり、陛下からの信頼も厚い。黒髪に翠の瞳で、近衛騎士らしい落ち着いた雰囲気のある方だ。騎士になれば、オズリオ様を目指すように指導されると聞いたことがある。
(お父様の思い通りに行動してしまった自分が恨めしい)
「オズリオ殿。こちらは私の娘だ。ちょうど今日は体調が良くてね。せっかくだから紹介させてもらったよ。本のことなら娘に話を聞くといい。娘はここの本をほとんど読んでしまっている。君の力になれると思うぞ。」
「ありがとうございます。ミリアリア様、お時間いただいてもよろしいでしょうか?」
近衛騎士第一団長の申し出を断れるわけがない。貴族としての位はレノヴァティオ公爵家が上ではあるが、オズリオ様はご自身の実力が認められて今の地位にいるのだ。そんな方を、親の七光りでしかない私が断るなんて失礼な真似はできない。それにお父様が私の行動を見張っている。
「…分かりました。私もちょうど暇をしていたところです。」
「ありがとうございます。私は今、過去の戦争について調べておりまして、その資料を探しに来たのです。」
「戦争…ですか。詳しくお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。こちらへどうぞ。」
オズリオ様を部屋の奥の椅子へ誘導する。
(とりあえず、お父様が見ている間は私もそれらしく振る舞うべきね。)
私はこの後どのように対応すべきなのか、考えを巡らせた。せっかく楽しく過ごせそうだと思っていたのに、お父様のせいで計画が台無しになってしまった。
(シシリーの紅茶、楽しみにしていたのに…)
私は心の中でため息をついた。最近ため息をつくことが多い気がする。
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