2章 誘拐隠蔽工作9
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
ミリア目線とアレク目線です。
セイルズ様が街に出かけてしまって、殿下と私は2人きりになってしまった。
そして、私たちはベッドの上にいる。
多分、私が殿下の手や服を離さなかったから、彼は移動できなかったのだろう。
実際、魔力が扱えない今、目が見えないし上手く歩けない。鼻は効くようになったが、側にいてくれることに越したことはない。
殿下がベッドの上から何処かへ行こうとするので、慌てて引き留めてしまった。
「………あ……申し訳ございません。」
「心配しなくても、ベッド脇の椅子に座るだけだ。それとも……このままの方がいいかな?」
やけに殿下の声に色気を感じるのは、耳からの情報に頼っているからだろうか。それとも、わざと声を低くしているのだろうか。
私は悩んだ末、恥ずかしさよりも寂しさをとった。
「ここに………いてほしいです。」
「……っ!…いいよ。側にいよう。」
そう言って殿下は元の場所に座り直した。
私は何となく、彼の方に寄りかかる。何故かそうしたい気分だった。私は、今甘えたいのかもしれない。
「……っ…それじゃあ話をしようか。まずは、前世のことを話してくれてありがとう。私はリアのことを好きなままだ。………安心した?」
「………はい。あの……信じてくれてありがとうございます。嬉しい、です……っ……」
言い切る前に涙が溢れてきてしまった。
レオは人間じゃないから価値観が違う。
でも、殿下は人間だ。人間の彼が信じてくれて、受け入れてくれたことが何より嬉しい。
私は、安心したのか、涙がぼろぼろと溢れてきて止まりそうになかった。
そんな私に気付き、殿下はまた正面から抱きしめてくれた。私は殿下の胸元を涙で濡らす。
「…寧ろ、私はリアのことを何も分かってなかった。それなのに、ずっと私の気持ちばかりを押し付けて…本当にすまない。」
「………謝ら、ないでくだ…さい……」
きっかけは私の失言だったけれど、だからといって誰にでも話せるわけじゃない。
いつもまっすぐ気持ちを伝えてくれる殿下だから話せたのだ。…たまに猟奇的なことも言うけれど。
私は顔を上げ、殿下から見えるように笑った。ちゃんと笑顔になっているかどうか分からないが、嗚咽でうまく話せない分、嬉しいという私の気持ちが伝わればいいなと思った。
「………うわ……これは駄目だ。」
「ん?…今……え?」
殿下がぼそっと何か言ったと思って聞いた時、殿下は私の顔を両手で挟んできた。顔を固定されている。
「………?」
「リア……あ…………えっと……涙を拭ってもいいだろうか?」
「…?はい、お願いします。」
殿下は私の顔を固定したまま、親指で涙を拭ってくれた。
寝起きだし目ヤニとか付いていたら嫌だなぁとか考える。
殿下が話さなくなったので、この体勢で話すのは少し気が引けるが仕方ない。
涙も少し引いてきたし、私はセイルズ様とも話していたことについて、言った。
「…殿下。セイルズ様が言っていた魔力についてなのですが……」
「…リアはこの状況で他の男の名前を出すのだな……」
「え?い、いけませんか?」
「いや……いいよ。それで?」
私は少し殿下を怒らせてしまったようなのだが、続きを聞いてくれるというのなら話すしかない。
「魔力について…あと、私の身体について…殿下になら話してもいいかなと……その、思いまして……」
言ってて何故か恥ずかしくなる。
何というか間違ってはいないのだけれど、これじゃまるで殿下のことを特別扱いしているような言い方になっているが…
そもそも、王太子に対して特別扱いをするのは当たり前なのだけれど…
私は自分で凄いことを言っていないかと、今更ながらに思った。
いつの間に、私の中で殿下は、秘密を共有する仲になったのだろう。今まで、少しずつ仲良くなってきている気はしていた。
しかしこれは……
私は自分の考えを自覚したせいで、顔に熱が集まってしまった。絶対私は今顔を真っ赤にしている
(あ、何か近付いてきている気がする……)
殿下の吐息を近くに感じた。
これ以上恥ずかしいのは無理だ。
私は頭を後ろに引っ込めて殿下の両手から逃れた。
勢いでベッドに仰向けになってしまったが、私は身体を横にし、すぐに殿下の上着にくるまって丸くなった。
「………。」
「………。」
お互い無言の状態だったが、私の隣でベッドが軋む音がする。
多分、私に合わせて殿下も横になったのだろう。
「……リア。怖がらせないから顔を見せてほしい。」
私は上着からひょこっと顔だけ出した。
「…その、怖がっているわけではなくて……恥ずかしいんですよ。」
「どうして恥ずかしいんだ?」
「……分かりません。……魔力も使えないし、目も見えないし、上手く身体も動かないし……………いざとなったら、逃げられないもの。」
「…………ん゛ん………リア、そういうことは私の前以外で言ってはいけないからな。」
殿下が「おいで」と言うので、私は殿下の胸に収まる形になった。
私から行ったのか、殿下が来たのか分からない。思考が停止してしまいそうだった。
「リア、さっき瞼を開いていただろう?瞳を見せてくれないか?」
さっきと聞いて思い出す。
そういえば、ダン・アルアイカを追った後、公爵令嬢だとバレないように、目を開いて、髪と瞳を黒色に変えていた。
銀髪はとにかく目立つので、結局あれから魔法を解いていない。
私は瞳が見たいという殿下の要望に応えるため、髪色と瞳色を元の銀髪と菫色に戻した。魔力は使えないが解除くらいなら出来る。
そして、顔をあげて、ゆっくりと瞼を開いた。
「綺麗な菫色の瞳だ。眼球の形は十分元に戻ったようだな。」
「…はい。もう少しで見えるようになると思います。」
眼球は元に戻っている。あとは本当に視力だけだ。
あと1回か2回ほどの修復魔法で治ると私はふんでいた。
「リアの瞳に私が映っている。…嬉しいよ。」
「……あの、殿下…そろそろ話を………」
「………後でもいいんじゃないか?」
「…え?」
「話してくれるんだろう?…全て。」
「あ…はい。ギラに許可をとってからになりますが……」
殿下の手がピクっと反応したのが分かった。もしかして、ギラの名前を出すのも駄目だったのだろうか。
分からない。分からないが、私はもうこの空気に耐えられそうになかった。
「………殿下、心臓が耐えられそうにありません。」
「……それで?私はこのままキスをするつもりだけど、それも駄目なのかな?」
「え………」
(無理!!!)
前世でキスくらい何度もしたけれど、こんな雰囲気でキスなんてしたことがない。
絶対無理。恥ずかしさで死にそうだし、さっきから働きすぎな心臓が悲鳴をあげている!
「……ごめんなさい!!」
私は、気を失わない程度のほんの僅かに残った魔力をかき集める。
そして、意味のない修復魔法を使った。
瞬間、目論見通り、私の意識は途切れてしまった。
…………
リアが魔法を使って気を失ってしまった。
流石にいじめ過ぎただろうか。
しかし、以前に馬車でキスをした時はほとんど反応しなかったのに、今日は恥ずかしがるし、顔を赤くするしで、本当に可愛かった。
完全に私を意識してくれているのが分かる。
全てを話してくれるとも言っていたし、これは脈ありだと思っていいのではないだろうか。
私は腕の中で眠るリアにキスをした。
もう、気を失っている彼女への恒例行事並みにキスをしている気がするが、起きないからといって流石に襲うような真似はしない。
私は、外で何か食べてこようとリアの上着と毛布を交換しようとする。
すると、彼女の下着姿が見えた。
(何もしない……何もしない……何も、しないっ……)
私は湧き上がる欲情をグッと押し込む。そして、そっと、リアに毛布を被せ、部屋に強固な結界を張った。
これで、誰も入っては来られないだろう。
私は、食べ物の他に、リアの服も買って来なければと思い、外に出た。
しばらく歩いていると、すぐにセイルズと鉢合わせた。
「あれー?殿下、妹ちゃんはいいんですか?」
「リアは寝た。高級宿であるし、結界も貼ってきたから大丈夫だろう。」
「あーライルから吐血していたって書いてありましたねぇ。それで2時間ほど走って首切り……そりゃあ殿下がいても睡眠を優先しますよねぇ。」
「…………そうだな。」
そういえば、リアは吐血をしていたんだった。
私もリアが無茶することが当たり前になっていて、吐血くらいじゃ気にしなくなってきている。
彼女に無理をさせているのは、彼女自身のせいだけじゃなく、周りの意識も問題なのだろう。
リアが弱っていて可愛いからといって、迫った自分をぶん殴りたいと思った。
自重しなければならない。
自重……自重…………できるだろうか。できないな。
私は、自分が自重できるはずもないとさっさと見切りをつけ、その分、彼女に無茶をさせないようにしようと結論付けた。
私は、リアに似合いそうなワンピースを購入し、一度宿に戻った後、セイルズと大衆食堂で食事をした。
セイルズと2人で飲むのは初めてだったが、新鮮で案外楽しかった。
そうして、夜は更けていった。
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次回で誘拐隠蔽工作終わりになります。長かったー




