2章 誘拐隠蔽工作5
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
アレクシル殿下目線です。
レノヴァティオ公爵家にライルとセイルズと向かう。
100年周期に起こる大災害の可能性もあるため、私たちは馬車ではなく馬に乗ってリアの下へ急いだ。
もう少しで公爵邸に到着するというところで、セイルズが慌てて言う。
「あ、殿下!ちょっと待ってください!今、妹ちゃんすごい速さでどこかに行ってますねぇ。」
「!?どこかって…方角は!?」
「んーあっちですかねぇ。」
セイルズはリアがいる方角を指差した。
それを見てライルが「エルじゃないな。」と言う。
エルというのはリアの友達だったはずだ。私は会ったことがないが、ライルはエルがいる方角を知っているのだろう。
「リアは公爵邸にいないということか。急いでるということは…さっきの大きな力に関係しているのか?」
「それは何とも……どうしますか?」
以前、セイルズは王宮でリアを正確に追いかけていたから、本当にリアは公爵邸にいないのだろう。
しかし、だからと言って3人で追いかけてリアを見つけられなかったということになれば本末転倒だ。
すると、リアの兄であるライルがすぐに別の提案をした。
「じゃあ、俺が公爵邸に行く。レオがいればミリアの場所が分かるだろうし、急に戻ってくるかもしれねぇ。それに、誰か事情を知ってるかもしれねぇしな。アレクとセイルズはミリアを追ってくれ。すごい速さならミリアは…多分走ってるんだろ。」
「僕も妹ちゃんが走ってることに同意しますよ。」
「…。」
「あー…セイルズが言うなら間違いねぇな。それに、エルのいる方角とも違うし、走っているなら目的地はそこまで遠くないはずだ。」
公爵令嬢が走っているなんて変な話だが、2人が言うので間違いないのだろう。
時間もあるかどうか分からないから、何か分かったら伝書鳩を飛ばすと約束し、ライルの言う通り私たちは二手に別れてそれぞれ馬を走らせた。
私は、セイルズの感覚を信じて、リアを追う。
しかし、セイルズはすぐに難しい顔をしてため息を吐いた。
「殿下、これは……妹ちゃんものすごく速いので、どんどん離されてますねぇ。馬よりずっと速いですよ。」
「……リアだからな。とにかく今は馬を走らせるしかない。」
私もレオのように転移を自在に操るか、リアのように移動手段を持ち合わせていたらいいのだが、そんなものはないものねだりだった。
もし、先ほどの大きな力が100年周期に起こる大災害とは関係しなくても、リアがそこまで急いでいるのであれば、ただ事ではないことは確かだ。それだけでも、馬を走らせなければならない理由は十分だった。
1時間ほど馬を走らせた後、私は流石に違和感を感じてセイルズに聞いた。
「セイルズ、お前はリアの魔力量について知っているか?」
「あーそのことですか。妹ちゃんは魔力量がかなり少ないんですよねぇ。それは間違いないですよ。」
「…じゃあ、何でこんなに長時間走り続けられるんだ?」
「んー。どこまで言っていいのか分かりませんねぇ。」
セイルズの言い方で、リアの魔力量については何か仕掛けがあるということ、リアに秘密にしてほしいと言われているということが伺えた。
私の知らないリアを知っているようで気に入らない。
「殿下、そんなに睨まないでくださいよー。」
「なんでお前は私の知らないリアの秘密を知っているんだ。」
「嫉妬は醜いですねぇ。まー約束した範囲で言えることと、僕が気付いたことを言うのであれば……妹ちゃんは多分、無限に近いくらい魔力を使えますよ。」
「は?無限!?」
オズリオとも話していたが、リアの弱点は魔力量が少ないことだ。そして、そこがリアの安心材料だった。もし、魔力を無限に使えるのであればリアは『最悪の敵』どころの話じゃない。
私が青い顔をしていると、セイルズが付け加えてきた。
「でも、条件があるんですよー。難しい魔法は妹ちゃん自身の魔力じゃないと無理とかね。」
「……となると、リアは別の者の魔力も扱うことが出来るということか?」
「そういうことです。僕が今まで感じた魔力は2つだけ。普段、目や手足の代わりになっている魔力は、妹ちゃんの魔力じゃないですよ。だから走り続けていられるんですよー。」
「じゃあ誰の魔力だ?」
「それは分かりません。はぐらかされました。でも、使われている本人はあんまり動けないでしょうねぇ。」
他人の魔力が使えるなら、本当に恐ろしいことになる。
しかし、リアは誰の魔力を使っているのだろうか。思い付くのはレオと…ギラという者だが、今までの口ぶりからして、レオの魔力を使っているようには感じられなかった。
1つ疑問が解消されれば、また別の疑問が出てきて際限がない。
私の番は、思った以上に強敵だ。
こんなにとんでもない能力を持っていれば、リアがよく無茶をしてしまうのも分かる気がした。
やろうと思えば何でも出来てしまうというのは、羨ましいように見えて、そうでもないからだ。
私は、王太子という立場だからこそ、その苦しさを身に染みて分かっている。
「…そういえば、セイルズもリアと同じように魔力を扱えるのか?」
「え?僕ですか?無理ですねー。色々何となく分かるだけですよ。でも、妹ちゃんに出来ないことも僕なら出来るらしくて羨ましがられました。」
「リアに出来ないこと?」
「ええ。正に今です。魔力を使わなくても、興味がある相手の居場所が分かるんですよー。かなり距離があれば無理ですが、街1つ分くらいの距離なら分かりますよ。」
「……それは便利だな。」
リアの魔法もすごいが、セイルズもさらっとすごいことを言う。それに、街1つ分というのはかなりの距離だ。
そういえば、リアはセイルズから追われている時に、今までに見たことがないくらいに取り乱していた。リアからしたら信じられないことだったんだろう。
同じ思いを、私やライルもずっとしてきたのだが。
そう考えると、リアを取り乱せたセイルズが羨ましかった。
そして、私も魔力量や大規模な攻撃魔法なら誰にも負けない自信があるのだが、規模が大きすぎて披露する機会がまるでないのが悲しかった。
普段あまり話さないセイルズから、色々リアの話を聞き出しているうちに、リアに動きがあった。
「妹ちゃん、移動をやめましたね。このまま動かないのであれば、あと1時間くらいで追いつきますよ。」
「この速度で1時間か。まだまだ遠いな。」
そして、私たちは1時間かけ、王都近隣の都市にたどり着いた。
リアはこの都市にどのような理由があってやって来たのだろうか。
私たちは関門で一言挨拶を済ませ、すぐに通り過ぎた。
ここで時間を取られるのは避けたい。
それに、急に来た王族に相手も気を遣ってしまうだろう。今はさっさと通り抜けて、後日適当な理由で書簡を送ればいい。
「セイルズ、リアの正確な位置は分かるか?」
「ええ。こっちですねー。」
私はセイルズの誘導に従って馬を進ませるが、街中で騎士団が騒いでることに気付いた。
聞き耳を立てると「ダン・アルアイカ」「首切り死体」と聞こえてくる。
ダン・アルアイカはリフレット伯爵令嬢の行方不明事件の重要参考人だった。また、リフレット伯爵令嬢はリアが気にしていた令嬢だ。
そして、首切りと言われて1番先に思い浮かぶのはフェレス…つまりリアだった。
私は、リアがこの都市に来た理由に、なんとなく思い当たってしまった。しかし、私が感じた大きな力についても、リアが急いだ理由も分からない。
結局、分かるのは100年周期の大災害とは恐らく関係がないという事だった。
「少し…肩の力が抜けたかな?」
私は、セイルズに大災害ではないことと、その根拠を説明した。
「ーーというわけで、リアはリフレット伯爵令嬢の行方不明事件のためにここに来たんだろう。」
「そうですか。大災害ではなさそうで良かったですが、あの大きな力の謎も分かっていませんし、妹ちゃんを追うのは変わらないんですよねぇ?」
「ああ。だが、先に首切りと言われた現場に行こう。リアの仕業か確認したい。」
「分かりました。私も『血文字』と聞こえてきて気になってたんですよねー。どのみち、妹ちゃんのところへの道すがらに首切り現場があるようですし。」
そこで、私たちは騎士団の1人を捕まえて、首切りの現場を見せてもらった。
壁には『ダン・アルアイカ お前を許さない』と大きく血で描かれており、まだ首切り死体もそのままだった。
血は渇いておらず、さっきまで犯人がここにいたということが分かる。
私も、戦争を理由に沢山の人を殺してきたし、暗殺者を返り討ちにしたこともある。
だから、このような凄惨な現場を見ても取り乱すようなことはないのだが…
リアがこれをやったのだろうか。
彼女が今までフェレスとして活動してきたのは知っているが、好んで人を殺しているわけではない。
それに、リアは呪いの影響を最小限に抑えるために人を殺さなければならないということも知っている。
だから、私もフェレスとしての活動を許可したし、暗殺者に対してリア自身が対処することも許可した。
それに、リアの殺人は罪に問われない。
リアはあくまで法の範囲内でしか人を殺さないからだ。
私は、騎士団の1人に命じた。
「首を切られた者の身元と犯罪歴を調べてくれ。ギルドのブラックリストも忘れずに。」
「分かりました!」
ブラックリストを知っている冒険者は多くない。
しかし、ある特定の冒険者はブラックリストに掲載されている者を粛清出来る権限を持つ。勿論、粛清した時は、粛清の理由と状況等をギルドに報告しなければならないのだが……フェレスはその権限をギルドからもらっていた。
ただ、この血文字は……権限の範囲を超えている。
死体で遊んでいるようにしか見えない。
切られた首を素手で触っているセイルズに私は話しかけた。
「どう思う?」
「んー…妹ちゃんで間違いないですねぇ。多分記憶を覗いたんじゃないですか?」
「……リアはそのこともお前に言っているんだな。」
「まー魔法に関しては殿下より詳しいかもしれませんね。」
「………。」
セイルズは、人の神経を逆撫でするようなことを平気で言う。
だから、ライルは彼を苦手にしているし、私も普段関わらないようにしている。今、セイルズにイライラしても仕方がないことは分かっているのだが………
私は、ゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着けてから、普段苦労しているであろう魔法騎士副団長には、何か差し入れを用意しようと思った。
それよりも、これがリアの仕業であるなら、リフレット伯爵令嬢の行方不明の件でリアがやって来たということで間違いないだろう。
わざわざダン・アルアイカと名前を残したといういうことは、アルアイカ伯爵家への警告だろうか。
すると、騎士団の1人が重要なことを報告に来た。
「殿下、報告いたします。実は、ダン・アルアイカ様が1番最初に血文字をご覧になりまして……叫びながら何処かに行ってしまわれたのです。」
「どういうことだ!?詳しく説明しろ。」
そして、私はダン・アルアイカが騎士団を率いたこと、報告が遅くなったのは、アルアイカ伯爵家の圧力を騎士団が恐れたからということを知った。
貴族の圧力をゼロにすることはできない。
しかし、この状況を放置するわけにもいかないので、騎士団を私物化されないように会議で警告するための提議書を作成しなければと思ったが、そんなのは後だ。
今大事なのは、リアはダン・アルアイカがここに来ることを分かって血文字を描いたということだ。
きっと、何かそうしなければならない事情があったに違いないし、そう思わなければ、この惨状を理解できなかった。
実は、こんなものはまだまだ序の口で、もっと凄惨な惨状が待っているとは、私は露ほどにも思っていなかった。
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あと1話、殿下目線続きます。




