2章 誘拐隠蔽工作4
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
ミリア目線とダン君目線です。
レオとルト、そしてリフレット伯爵令嬢を見送って、私は1人になった。
もう、私の怒りを止める者はいない。
足下に転がる大男たちを観察する。
「う…ゔぅ………」
強引に記憶を読んだので、頭が割れそうに痛いのだろう。
1人は呻き声をあげて頭を抱え、他の3人はピクピクと踏まれた虫のように動いていた。
(レギイラ侯爵は…こんなに醜くはなかったわね………)
私は、レギイラ侯爵の記憶も同じように強引に読んだことを思い出した。
爵位を剥奪されたにも関わらず、キーシャス・レギイラを呼ぶときには爵位を付けてしまう。レギイラ侯爵はそういう方だった。
私は自分を笑った。
犯罪者を選り好みするわけではないが、人格だけで判断するのであれば、レギイラ侯爵が死んで、なぜダン・アルアイカのようなクズが生きているのだろうと思う。
私は、くだらないことを考えている暇はないなと思い直したて、さっさと大男達の首を落とし、壁に血文字を大きく描いた。
『ダン・アルアイカ お前を許さない』
まるでホラー映画のようだ。
これで、建物に入ってきた人間は、この血文字と首を切られた男達に驚くだろう。
特に、ダン・アルアイカ本人は恐怖して、自分を守ってくれる悪い男達の下へ走るのではないだろうか。
(もし…彼が騎士団に助けを求めてしまったら、攫ってしまえばいいわ。)
大男達の記憶によれば、もうすぐダン・アルアイカは騎士団を率いて、リフレット伯爵令嬢を救出しに来るはずだ。
彼は、自分で誘拐事件を起こし、自分で誘拐事件を解決した立役者になるつもりのようだった。
勿論、ダンはもう騎士ではないのだが、この都市にいるのは一般騎士。元近衛騎士であり、貴族であるダンの発言に疑義を唱えられる者はほとんどいないだろう。
「なんでこいつ騎士団を先導しているのだろう」と思いつつも、力のない貴族や平民は、彼に従うしかない。
私は、建物がよく見える物陰で、ダン・アルアイカがやってくるのを、待った。
そして、私が物陰に身を潜めて10分もしないうちに、ダンと騎士団がやってきた。
ジョイル君がもっと遅くにやって来ていたら、私がギラの魔力を使って探さなければ、きっと間に合わなかっただろう。
ギリギリだったが、彼女を助けられて良かったと思いながら、私はダンの様子を伺った。
「う、うわああああああ!!!」
血文字を見たダンは叫びながら、騎士団には目もくれず走り去った。
大きな声を上げたら「俺はここにいるぞ」と言っているようなものなのに、そんなことすら考えられないほど驚いたのだろう。
象徴を切り落としてあげたので、頭で考えるようになったはずなのに、知能は上がらなかったようだ。
私は、ダンの後をこっそりと追った。
……………
「なんでなんでなんで!!!どうしてこうなった!!!」
俺は、エドナが犯された後の現場に騎士団と共に突入し、彼女を助ける計画だった。
そして、婚約破棄されたにも関わらず、彼女を誘拐犯から救った男として名を馳せるつもりだった。
また、名誉が傷付いたエドナと結婚したがる男はいない。
だから俺は、再度エドナに求婚し、傷付いた彼女を、それでも愛する男……つまりは男の誉れ、英雄として社交界に戻る算段だった。
しかし、エドナがいるはずの部屋に彼女はいなかった。
代わりにあったのは、エドナを犯していたはずの男の首切り死体。
そして…
『ダン・アルアイカ お前を許さない』
という名指しされた大きな血文字だった。
まるで、俺がここに来ることが分かっていたように。
とにかく恐ろしくなって、俺は気付いたら逃げ出していた。
誰が裏切ったのだろう。エドナはどこに行ったのだろう。俺も首を切られるのだろうか。
俺は、この計画のために何人もの実行犯と用心棒を雇っていた。
そして、何か計画に狂いが生じた場合に備え、何人かはまだ指定の場所に待機させてある。そいつらに追加でお金を払えば、しばらくは守ってくれるはずだ。その間に、犯人を探せばいい。
俺は叫びながらも、なんとか頭を働かせて、用心棒達の下へ走った。
俺は雇った男達を待機させていた部屋に転がり込んだ。
「はあ……はあ……はあ………っ…やられた!!」
「ん?どうした?雇い主さんよぉ!」
目の前には屈強な男や、暗殺が得意の細身な男等、7人ほど待機していた。
これだけの人数がいればきっと大丈夫だ。
俺は、部屋に辿り着いたことに安堵し、ゆっくり呼吸を落ち着かせてから何があったのかを説明した。
そして、追加報酬を約束し、護衛と、犯人を探すことを依頼した。
俺自身、元近衛騎士なので腕に自信はあるが、護衛は多いに越したことはない。
お金がなければ諦めるところだが、生憎、アルアイカ伯爵家は遊んで暮らしても使いきれないほどに裕福だった。
とりあえず、護衛に5人残ってもらい、2人に血文字と首切り死体を確認しに行ってもらうことにしたが、2人はまず俺が見た死体の詳細を聞いた。
「首が切られていたということだが、断面とか首のどの位置だったとかは覚えているか?」
「…覚えていない。ただ、首は綺麗に一息で切られていた…はずだ。」
「一息か……もしかしてフェレスだったりしてな。」
「はあ!?フェレスだと!?」
男は恐ろしいことを言う。
もし、本当にフェレスであれば、いくら護衛を雇っても意味がないかもしれない。
そして、フェレスという言葉を皮切りに論議が始まる。
「フェレスはわざわざ血文字を描かないだろ?冷徹で無関心、仕事はさっさと終わらせるイメージだぜ。」
「そ、そうだよな?」
「でも、王都で数ヶ月滞在していただろ?可能性はなくもないんじゃないか?」
「いや、フェレスは賞金稼ぎのために首を切るんだ。首を置いていくのはおかしいだろ。」
「それもそうだ。首を綺麗に切るとなると、真っ先にフェレスが出てくるが、今回は違うだろうよ。」
俺はアルアイカ伯爵家の者であるし、指名手配なんてされていない上、首に賞金もかかってない。
だからフェレスではないはずだ。
「この話は終わりだ。さっさと現場の確認に行ってこい。」
「へーへー。分かりましたよ。」
「いくかー。」
俺はさっさと犯人を見つけて安心したいので、フェレス議論を辞めさせ、2人に指示を出した。
男達はしまりのない返事をするが、お金を払っている以上、仕事はしてくれる。
しかし、2人が部屋を出ていく直前で、扉が開いた。
私も含めて皆、警戒体制をとるが、入って来たのは、男物の上着を羽織っただけの女。
しかも、黒髪に黒瞳の若くて美しい女だった。
「女!?」
「いや!!警戒を解くな!!魔法を使えるかもしれない!!」
小声で男達が話す。
そして、1人が女に話しかけた。
「お嬢ちゃん、そんな格好でどうしたのかな?」
「………。」
「どうしてここに?」
「………。」
女は何も話さない。
男物の上着の裾が長いから分かりにくいが、足首が見えていることはつまり、下は何も着ていないのだろう。
両手は赤いグローブをしているのに、右足首には包帯が巻かれている。
見た限り、女が厄介事を持ち込んできたことは間違いなかった。
緊張感が漂う中、女がぽつりと話す。
「……お前達、見たことがある顔と見たことがない顔があるな。」
「は?」
顔に似合わず、女にしては低い声に男のような話し方。
護衛の1人が反応すると、女が訳を言った。
「…ギルドのブラックリストに載っている者と、知らない者だ。」
「……!!」
「おい!!あのグローブ、血の色だ!!」
「こいつが首切りかもしれねぇ!!」
全員が臨戦態勢をとった。
賞金首や指名手配ならともかく、ギルドのブラックリストを確認している奴なんてそうそういない。
そんなものをいちいち確認しているのは、ギルド関係者か上級ランクの冒険者だった。
しかし、これは悪くない状況と言えた。
まさか、正面からやってくるとは思わなかったが、ちょうど7人全員が揃っている時にやってきたからだ。
美しい女ということに驚いたが、冷静に相手を観察すれば、確かによく見れば黒い上着に返り血のようなものが付着している。
この女が、俺の計画を狂わせたに違いない。
俺は、安全な1番後ろで女に問いただした。
「おいお前!!何の恨みがあって俺を狙う!!エドナをどこへやった!!」
「エドナ?誰のことだ?」
「とぼけるな!!血文字と首切り死体はお前がやったんだろう!?知らないとは言わせないぞ!!」
「ははっ、流石にバレるか。…初めて血文字なんて描いた。お前の叫ぶ姿、本当に滑稽だったな。」
「……!!」
叫ぶ姿…ということは、首切りの現場からつけられていたということだ。
「やはりお前が……!!…………ぇ。」
気付けば、部屋の入口で話していた筈の女の顔が、目の前にあった。
そして、顔を掴まれ、床に叩きつけられる。
「……い゛っ……!!!」
頭への衝撃のせいで上手く状況が掴めない。
ただ、目を開けた時、立っている者は、女しかいなかった。
気を失ったわけでもないのに…一瞬の出来事だった。
でも、女は俺を見下ろすだけで追撃しない。
俺は、女から目を逸らさず、壁に背を預けながらゆっくりと立ち上がった。
男達は全員生きているようだが、床に倒れたままだ。
「何をしたっ!お前は誰だっ!?」
「普通に1撃食らわせただけだ。…ん?お前達も言っていたじゃないか。」
「な……フ、フェレス…………」
「ははっ!」
目の前にいるのが本当にフェレスなのだろうか。
誰も姿を知らないから、確かめる術がない。しかし、今の動きに力、フェレスではないとも言い切れない。それに、フェレスは女だという噂も確かにあった。
フェレスは俺に近付き、ゆっくりと左足を上げて俺の足を払い蹴った。
バキバキッ!!
「〜〜〜〜っ!!」
軽く払い蹴ったように見えたのに、斧で殴られたような重い蹴り。
目を逸らさず、見ていたはずなのに、何故か避けることが出来ず、俺の両足は砕かれた。
持っている剣を振るうが、指先で掴まれ、剣を取られる。そして、取られた剣で、腕の腱を切られた。
俺は、この国を守る優秀な近衛騎士だったはずなのに、全く歯が立たない。
フェレスは、床にうつ伏せに倒れた俺を、足蹴にして笑って言った。
「…よく見ておけよ?」
「……な、に゛を………?」
フェレスは、倒れている男から「誰にしようか」と言いつつ1人を選び、その男の頭を右手でおもむろに掴んだ。
そして、細腕からは信じられないほどの力で、男を持ち上げて、俺の前に連れてくる。ぶらんと揺れている男の足先が、俺の目の先に来た。
俺は何をする気かと、視線を上にする。
瞬間、バキッと音が鳴ったと思えば、血が噴き出す音と共に、大量の血と肉片が降ってきた。
「………………は?」
(今……何をした…!?何を……頭を…潰したのか…?)
目に血が入ったのか、視線の先が赤いだけなのか、もう分からない。血の匂いと顔についた肉片のせいで俺は吐いた。
「汚いな。っとそれだと見えにくいだろう…っと。」
そう言いながら、フェレスは俺の腹を蹴って、壁に叩きつける。
「…ゔっ!」
多分、今ので肋骨が折れた。
足に力が入らない俺は、壁にもたれる体勢になる。どうせもう逃げられない。
俺は最初から反抗すら出来ていなかったが、遂に何をするのも全て諦めた。
そして、男たちが無惨に残酷に殺されていく様を見せられた。
まるでトラウマを植え付けるように。
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