2章 決闘2
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レオとアルアイカ伯爵家次期当主であるダン・アルアイカが剣を交える。
しかし、力の差は歴然だった。
必死でレオに切り掛かる弱い男と、それを鬱陶しいように簡単に払い除ける強い男。
弱い男は自分が恥ずかしいのか、弱いことに気付いてないのか、的外れなことを言った。
「お前!真面目に戦え!」
「真面目に?…殺して欲しいのか?」
「……っ…!」
大きく剣を振るうダンに、レオは蹴りを入れる。
もはや、剣を扱うまでもないといったところだ。しかし、腐ってもダンは近衛騎士。レオの蹴りになんとか耐えて立ち上がる。
「お、俺に…!こんなことをして、タダで済むと思うなよ!!」
「へぇ?それで、どうするというんだ?」
レオはさらに脇腹に蹴りを入れた。
ミリアを侮辱した罪。必死で守ろうとした国。それを…こんな奴がいるだけで、国も心も腐ってしまうのではないか。
レオはなんとかギリギリのところで理性を保っていた。
しかし、ダンがそれをぶち壊す。
「伯爵家次期当主を蔑み、傷付けた罪で、公女を跪かせてやる!見ものだろうなぁ!」
ブチッ
レオの首筋に血管が浮き出る。
「じゃあ死ね。」
レオは、ダンの首を目がけて、凄まじい勢いで剣を振る。
誰が見ても、一撃で首が飛ぶ振り方で、決闘を見ていた騎士にはレオを止められる者はいなかった。
………
私は、どうしても嫌な予感がして、殿下に眼球の治療を手伝ってもらった後、すぐに訓練場へ向かった。
私が不安がるので、殿下もお兄様もオズリオ様も付いてきてしまった。これじゃあ、オズリオ様が、殿下とレオを引き離した意味がない。
私たちが訓練場へ急いでいると、第1団の近衛騎士の1人が走ってきた。やっぱり何かあったのだ。
私は駆け寄り、騎士から事情を聞いた。
第3団のダン・アルアイカがレオを煽り、決闘になってしまったとのこと。
それを聞いて、私は魔力を使って走った。
後ろで私を止めようとする声が聞こえたが、無視をした。
そして、もう少しで訓練場が見えて来るという距離で、状況を把握するため私は魔力を広げる。
今にも、レオの剣がダンの首を切り落とす直前だった。
「駄目…!!!」
普通に走っても、魔力を使っても間に合わない。その前に首が飛ぶ。
私は、義足が壊れてしまうのも気にせず走った。というよりレオの下へ身体を引き寄せた。足が生えたら試そうと思っていた方法で、レオとダンの間に入る。その距離、200メートルほどあったが、私は瞬きするよりも速く移動した。
人間には到底無理な速度。きっと、ドラゴンよりも速いだろう。
移動の途中で、騎士の腰から拝借した剣で、間一髪、私は、レオの剣を受け止めた。
「え……公女…様?」
「今、どこから………」
「見えたか?」
「いや、見えなかった……」
「それよりもあの剣、見たことが……って俺の剣がない!」
「え、一瞬で取られたのか?それであの間に?」
急に現れた私を見て、第1団も第3団も揃って驚愕の表情を見せる。
私が戦えることは、あまり人には見せたくなかったが、それよりもレオの方が大事だ。このまま放っておけば、暴走して皆死ぬ。やっぱり100年のサイクルは覆せないのだろうか。
しかし、今はなんとか最悪の事態を避けられた。あとは宥めるだけ。
私の後ろで、ダン・アルアイカが尻餅をつき、私はレオと向かい合う。
レオは私を認識しても、ギリギリと剣に力を込めてきた。
このままでは、先に剣が壊れてしまいそうだ。
「…ダン・アルアイカ。立てるかしら?」
「あ……あぁ……あ…………」
「……無理そうね。」
ダンは尻餅をついて、動かない。もしかして、初めて死ぬかもしれないと思って走馬灯を見たのだろうか。
こんな情けない男のためにレオを暴走させるわけにはいかない。
「レオ……この剣をしまいなさい。そうじゃないと、貴方の腕を切り落とすわ。」
「………。」
「っ…レオ。」
「よく……そんな身体で俺を止めることができたな。目、まだ見えないんだろ?それに腕も足もない。」
「何を言っているの?私はミリアリア・レノヴァティオよ。貴方の親友で、家族。目が見えなかろうが、手足がなかろうが、止めるに決まっているじゃない。」
「はは…。ミリアの後ろで尻餅ついてるやつ。この国を守る偉い騎士なんだってな。なんで守られる立場のお前が、騎士を庇っているんだ?」
レオはごもっともなことを言う。周りの騎士たち、特に第3団が気まずそうに下を向いた。流石にレオの言葉に反論できないのだろう。第1団は真剣にレオの言葉に耳を傾けている。
殿下達が追いついてきて、私とレオの様子を見た。そして、近くにいる騎士に詳しい事情を聞いている。
私が言葉に詰まるので、さらにレオが剣に力を込め、追い討ちをかけてきた。
「後ろの奴を庇って何になる?そんな奴は死んだ方がいいんじゃないか?」
流石に周りの騎士が反論しようとするので、私は「黙りなさい」と言って止めた。
そして、以前オズリオ様に言ったことを思い出して、自分の言葉を引用する。
「レオ。世の中には役割というものがあるの。人は役割を全うして生きていくの。……きっと、私の後ろにいる彼の役割は、国を守るんじゃない……」
私はにっこりと笑う。
「ふふっ!多分、人を笑顔にする役割だわ。」
「……………は?」
私の話に耳を傾けていた全員がキョトンとした顔をした。
何を言っているんだこの女はと絶対に思っただろう。チラッと見たお兄様だけ「何をする気だ」という顔をしていた。
そして、ちょうどいいタイミングで義足にヒビが入り、壊れた。私は身体が傾いて倒れそうになる。
すぐさま殿下が走ってきて、私の身体を受け止めた。流石恋人だ。
倒れたことにより、地面にドレスがついた。瞬間、私は後ろで尻餅をついたままのダン・アルアイカだけに殺気を注ぐ。
「ひっ……!!」
フェレスの時に身につけた、最強の威嚇方法。さっき死にかけたばかりの彼には効果的だろう。思った通り彼は、思わずお漏らしをした。そして、私のドレスを尿で濡らす。
私はわざとらしく、大きな声で言ってやった。
「ちょっと!ダン・アルアイカ!私のドレスを貴方の御小水で汚さないでほしいわ!」
「……え?」
「……は?」
「え、まじ?」
「やばー……」
「……ぷっ。」
「〜〜〜〜っ!!!」
周りの騎士は信じられないというようにダンを見てコソコソと蔑む。中には笑っている者もいた。
もし、私が普通の貴族令嬢なら、あり得ないと言って怒り狂うだろうが、私にとってはドレスが汚れてもどうでもいい。冒険者なんてしていたら汚いなんて言ってられなかったからだ。
殿下やオズリオ様は私のやったことに気付いたようだが、私が口元に人差し指を立てると黙ってくれた。そして、私はそれをいいことに貴族令嬢らしく嫌味を言う。
「やっぱりこんな男、レオに殺して貰えば良かったわ!あ、でも、やっぱり私の言った通りね。彼の役割は人を笑顔にするものだわ。だって、皆笑っているじゃない。」
私の言葉のおかげで、我慢していた者もプッと吹き出した。
私は皆が笑っていると言ったが、正確には皆じゃない。第1団の一部の者と私に近しい人は、完全に引いていた。
1番不安だったレオは肩の力が抜けて、呆れた表情で殿下に言った。
「アレクシル殿下、本当にこいつでいいのか………?」
「…本当に面白いよね、私のリアは。でも、流石に説教が必要かな。」
「え゛」
私はお兄様に助けを求めるが、首を横に振られ見捨てられた。
殿下は、ダンのおしっこで濡れた部分を綺麗に剣で切り落とし、私を抱き上げる。レオは割れてしまった私の義足を拾い集めて「武器屋に行ってくる」と言って転移してしまった。
殿下は私を抱き上げたまま、事態を収拾するようにとお兄様とオズリオ様、そして途中からやってきていた第3団長に指示した。
私は、片足がなくても逃げれなくはないが、殿下に身を任せた。今反抗したら、絶対後になってもっと大きな反動が来ると知っているからだ。
殿下はすたすたと歩きながら私に小言を言う。
「リア。ああいう場合は、公爵家の名前でも私でも父上の名前でも使っていいんだ。権力に対して、権力なしで対抗するリアの方法はすごいと思うが、容赦がなさすぎる。」
「申し訳ございません。権力を使うのに慣れていなくて……」
「騎士に聞いた限り、ダンが仕掛けてきたというのは分かったし、自業自得だと思うけれど、笑い者にして復讐するのは……」
「え……?」
「…………ん?」
私はてっきり、笑い者にしたことではなく、ダンに対しやりすぎた復讐を怒っているのかと思っていた。もしかして、私がやったことに気付いていない…のかもしれない。
レオは滅多に怒らない。そんなレオがかなり怒っていたし、「死んだ方がいい」と言ったレオに対し、共感した者も少なくなかった。それに、私はダン・アルアイカという名前を初めて聞いたわけではなかったのだ。
私が「え」と聞き返したので、殿下はさらに威圧して言った。
「……リア。まさか他に何かしたわけじゃないだろうな?」
「え、えーと……?」
「……そうか、レノヴァティオ公爵には、今日はリアは泊まりだと言っておこう。」
「え、嘘ですよね?」
「んー?」
私はたまらず白状した。
しかし、殿下は私のしでかしたことにさらに怒り、結局私は王宮に泊まる羽目になってしまった。
後日、あるニュースが社交界を駆け巡った。
それは、アルアイカ伯爵家の次期当主であったダン・アルアイカの大切なモノが無くなり、次期当主の座を剥奪・そしてリフレット伯爵令嬢と婚約破棄をしたというニュースだった。
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