2章 決闘1
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ルトがレノヴァティオ公爵家に来てから1ヶ月が経った。
今日も、レオとルトは剣を打ち合っている。
この1ヶ月で、ルトの腕は3回切り落とされた。
もう虐待と言ってもいい。初めて腕が落ちた時、私は記憶を消そうとした。しかし、ルトはそれを拒否したし、護衛騎士を辞めたいとも言わなかった。代わりに、彼は、身体が崩壊することに比べたらなんともないと言った。あの時ほど、恐ろしいものはないと。
私がやったことは、殿下やお兄様だけではなく、他にも多くの人を傷付けてしまったのだと痛感した。
ただ、腕を切り落とされたのは無駄ではなかったと言えた。ルトに足りなかったのは実践で、この1ヶ月で彼は本当に強くなった。本人に自覚はないが、近衛騎士と言われても遜色ないだろう。
私は、レオがルトの首に剣を向けたのを見届けてから、休憩にしようと言った。
「ルト、お疲れ様。怪我を治すからこっちに来てくれる?」
「はぁ、はぁ…わかりました……はぁ……」
ルトは私の前に腰をつけて座り込む。
ちょうど体力も限界だったようだ。私は魔力を巡らし、ルトの傷を修復していった。そして、筋肉の調子を見て、最適化していく。いつでも、彼が最高のパフォーマンスをできるように。ドーピングではないが、ちょっとしたズルとも言えた。
レオは余裕そうに、お菓子を食べる。
ルトと毎日戦っているおかげか、レオの怒りが表に出てくることは少なくなった。レオにとっても、訓練はストレス発散になっているのだろう。
私の肩の傷は全快しているため、お見舞いに来る貴族はいなくなった。殿下はそれでも毎日会いに来ようとするので、時々、私が王宮に行って眼球の治療をすることで落ち着いた。私の目はもう少しで見えるようになるだろう。
そして、私は相変わらず、社交パーティやお茶会には参加していない。
ただ、リフレット伯爵令嬢が相変わらず王宮で話しかけてくるので、周りからは私の数少ない友達認定をされ始めていた。私も強く拒否をすればいいのだが、彼女の感情と言動の違いが可愛くて、たまにからかってしまうのが原因のようだ。
ルトの治療が終わり、一息つく。
そのタイミングを見計らって、彼から休暇が欲しいと申し出があった。
「実は、まだ家族に護衛騎士になったことを伝えられていないんです。日帰り出来るところにアナーキン家は住んでいるので、1日休暇をください。」
「え、そうだったの。ごめんなさい。それなら、今から休暇にするわ。明後日に戻って来てくれればいいから。」
「え、いいんですか!?」
「ん?勿論いいけれど、私って休暇も与えないような鬼主君だと思われているのかしら?」
「え、…はい。」
「………明日までにしようかしら?」
「いえ!ミリア様には感謝しております。明後日に戻って参りますので!」
この1ヶ月でルトは本当に遠慮がなくなった。
私やレオがいない時は、オウルやミストに混じって訓練をしているので仕方のないことかもしれない。そして、私も兄も咎めないのだから、彼らも改めない。
そういう意味では、レノヴァティオ公爵家は他の貴族とは少し変わっていると言えた。
私はこの後、王宮に行って、殿下に眼球の治療を手伝ってもらう予定だった。
ただ、護衛騎士であるルトがいなくなってしまったので、公爵邸にいる誰かに護衛についてもらおうと頭を悩ませていると、レオが一緒に行くと言い出した。一度、王宮を歩いてみたかったらしい。
王宮にレオが転移で迎えに来てくれることはあったが、連れて歩くのは何気に初めてだ。大丈夫だろうか。……大丈夫だろうか?
私は不安を抱えながらも、了承して、お互い相応しい格好に着替えて、王宮へ行った。
「レオ、護衛なら私の後ろを歩くものだけど、友達なら隣を歩くわ。どうする?」
「んー…じゃあ、ここでは後ろを歩くわ。」
「分かったわ。ここでは私に絡んでくる人が多いけど、無視してね。」
「りょーかい。」
レオを連れて、殿下の執務室へ向かう。
予想通り、途中で色々な貴族に声をかけられ、お茶に誘われ、私はなかなか執務室へ辿り着けないでいた。レオは黙って付いてきてくれているが、流石に誰もいなくなったタイミングで話しかけられた。
「いつもこんななのか?」
「そうよ。面倒くさいでしょう?」
「ああ。」
そんな話をしていると、オズリオ様が近付いてきた。そういえば、今いる場所は近衛騎士の訓練場の近くだった。
「ミリアか……ってレオと一緒か。」
「こんにちは、オズリオ様。今から殿下の執務室へ向かうところなんです。」
「…レオを連れてか?」
「ええ。」
オズリオ様は頭を抱えて考える。
そして、もう一度、「レオを連れて殿下のところへ?」と聞いてきたので、私は同じように返事をした。オズリオ様はレオを殿下に会わさない方がいいと思っているのだろう。私も、殿下といる時にレオの話はしないようにしているが、そんなに駄目なのだろうか。
オズリオ様は悩んだ末、レオに訓練場へ残るように言い、レオの代わりにオズリオ様が護衛につくと言った。
私はオズリオ様の提案に悩んだが、レオが訓練場を見てみたいと言ったので、提案を素直に聞き入れることにした。
正直、王宮でレオと離れることはかなり不安だったが、何かあれば私のところへ転移すると約束した。最近、レオは毎日ストレス発散をしている。きっと大丈夫だろうと私も油断してしまった。
………
「おい、あの赤髪って……」
「一時、殿下が探していた奴じゃないか?」
「公女様に付いていたな。いつもの弱い護衛騎士はどうしたのだろうか。」
この日、訓練場には近衛騎士第1団だけでなく、第3団も一緒に訓練していた。第1団はミリアのことをよく知っているので、ミリアの考え方には絶対に何かあると分かっている。
しかし、第3団とミリアはあまり交流がない。だから、ミリアの護衛騎士になったオズルトのことをミリアの愛人だの、腑抜けだのと言う者も多かった。過去に、オズルトを虐めていた奴が第3団に所属しているのも要因だろう。
耳がいいレオには、ミリアとオズルトの悪口が聞こえてしまった。
それでも、レオはミリアに言われた通りにその悪口を全て無視して、近衛騎士の訓練を眺めていた。
ここまでは良かった。
オズルトの虐め主犯がレオに絡むその時までは。
ちょうど、見張りの団長がミリアに付き添ってしまったので、虐めの主犯は、レオの目の前でミリアとオズルトを馬鹿にし始めた。彼はアルアイカ伯爵家次期当主で、名前をダン・アルアイカといった。
「お前、騎士でもないだろ。オズルトの代わりなんて、情けないなぁ。それで、オズルトを護衛騎士に選ぶ公女も頭が悪い。ま、仕方ないか。目も見えないし手足もない。顔は良いけどなー。」
「……。」
「社交パーティでジョイルが腰を抜かしていたが、本当に情けない奴だった。あんな女に言い負かされるなんて。」
「……。」
レオは無視をする。ダンはレオの態度にさらに腹を立てた。第1団の騎士達はダンにやめておけと進言するが、伯爵家次期当主という身分が彼を突き動かす。
「しかも、オズルトの奴、剣術大会に出場するんだって!?あんなに弱いのに!?」
「……何言ってるんだ?確かにルトは弱いが、お前よりずっと強いぞ?」
「はあああ??」
つい出てしまったレオの言葉。相手を煽るのではなく、普通に答えてしまった結果だった。
レオに「お前」「弱い」と言われてしまえば、伯爵家次期当主様は黙っていない。彼は、伯爵家次期当主ということ、近衛騎士ということに強い誇りを持っていたからだ。彼は、レオに剣を突きつけて決闘を申し込んだ。
「剣を取れ!貴様!決闘だ!!」
「え、なんで?嫌だけど。」
王宮を見たいと言ったのはレオだが、彼はもう帰りたいと思い始めていた。
ミリアのところへ転移してもいいが、修復魔法を使っている最中であれば、王太子がミリアを抱きしめているところだろう。ミリアについた匂いからして、それは明白だった。できれば、男が女にマーキングしている場面に出くわすのは勘弁したい。
目の前でワーワー喚く男が鬱陶しい。
レオは場所を変えようと立ち上がったが、伯爵家次期当主様がそれを止めた。
「どこへ行く?まさか怖気付いたのか?」
「は?ここは五月蝿いから場所を変えるだけだ。」
「はっ!逃げるのか。こんな奴を護衛にするなんて公女は馬鹿だなぁ。生還して陛下に気に入られているが、正直生きてても死んでてもどっちでもいいわ。あんな女。」
「あ゛?」
レオは、足を止め、ドスの効いた声でダンに向き直った。
レオはミリアの記憶を見ている。
彼女が今までの人生で、生きることと死ぬことにどれだけ必死に抗い、拘ってきたか知っていた。そんな彼女を貶していい人間など、この世にいるわけがないし、存在していいわけがない。
伯爵家次期当主様もきっと本心ではないのだろう。レオが徹底的に無視するので、どうにか煽ってやろうとして出た言葉だと周りにいる者たちは知っていた。しかし、言っていい言葉と、言ってはいけない言葉がある。
遂に、レオの沸点を超えてしまった。
第1団の騎士はレオを宥め、ダンを咎めるが、2人の耳には届いていない。
第3団はさらに煽り立てた。
レオは剣をとり、ダンに突き立てる。
そして、決闘が始まった。
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