2章 推して駄目なら引いてみろ
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
今回ちょっと長いです。
私は、殿下の自室で、気を失うまで修復魔法を繰り返していた。
そして、目が覚めると、今度は公爵邸の自室にいた。
「……あれ?」
「おー起きたか。」
ベッド脇にはお兄様がいた。
あれだけ血だらけだったベッドはふわふわになっているし、肩は包帯を巻いて手当されていた。
目覚めると、殿下の自室だったり、自分の部屋だったり、ちょっとよく分からない。
「……何で、私はここにいるの?」
「俺が連れてきた。アレクの部屋からな。」
「そっか…ありがとう。えっと、私もまだ状況を把握できていないのだけれど…心配かけてごめん。」
「はぁぁ……」
お兄様は私の頭をぐりぐりと強めに撫でた。兄は明言しなかったが、相当心配してくれたということが分かる。ちょうど今は夕飯後らしい。
そして、兄は事の経緯を説明してくれた。
「今日の朝、メイドの叫び声を聞いてお前の部屋に行ったら、血だらけのベッドを見た。ミリアもいないし、誘拐されたにしては痕跡もない。屋敷中がパニックだったわ。」
「そう、よね……」
「ま、すぐにアレクから連絡きたし、お前が血を流してる時点で、犯人が誰かも分かったけどな。…事情を説明できないってアレクから聞いた。だから何も聞かない。ただ……」
「ただ?」
兄はもったいぶるつもりか、先に私に水を渡し、一息つかせた。
「お前…アレクの恋人になったんだな。」
「ぶっ!!」
私は盛大に水を吹き出した。こんな漫画みたいに水を吹き出すなんて人生で初めてだ。絶対兄は分かっていて水を渡したに違いない。「汚ねぇなー。」と笑いながら、すでに洗浄で綺麗にしている。
「あいつも性格が悪いよなー。血が足りなくて、痛い思いしてる相手に迫るなんて。判断力が落ちてるって分かってて告ったって言ってたぜ?」
「…それを聞いて楽しんでるお兄様も性格が悪いと思うわ……」
「はははっ!ああ、楽しい。順調に王太子妃に向かってるな。」
「だからならないってば。」
「はははっ!!」
お兄様が本当に楽しそうに笑うので、私は何も言えなくなった。目が見えないけれど、兄の笑顔が良いのが分かる。ずるい。
それから、私は兄と相談し、1ヶ月ほど公爵邸に引きこもることにした。
理由は、肩を完治させるのに、毎日集中的に治療しても1ヶ月程度かかってしまうこと。
そして、お兄様は私を運ぶ時に、お姫様抱っこをして王宮を歩いてきたらしい。肩から血を流して気を失っている妹を心配する兄を演じてきたと言うのだ。恥ずかしくてしばらくは外に出られない。
「何でそんな恥ずかしいことを!?」
「面白いかと思って。」
「…嘘ね。面白いからと言う理由で、お兄様がそんなことをするわけないわ。」
「じゃあ、どういう理由だと思う?」
「……考えるから待って。」
こういうところが兄だなと思う。どうせ理由は1つじゃないだろうし、答えも教えてくれない。ただ、間違っている時は指摘してくれる。
「まずは…私が公爵邸に引きこもっても文句を言わせないためでしょう?私、お茶会に参加しないものね。」
「まぁそうだな。それで?」
「あとは……暗殺者を私に仕向けるため?誰かを炙り出したいの?」
「…さぁな。」
私に教えてくれるのはここまでのようだ。否定しないということは、私の言ったことは間違ってないということ。それにしても、怪我している妹に暗殺者を仕向けるような真似をするなんて。容赦がない。私にも、暗殺者にも。
「……殺していいの?」
「記憶を覗いたらな。」
「…ふーん。」
私の呪いの影響はほとんどなくなっているが、全くなくなった訳ではない。その残りの影響を抑えるためには、私は誰かを殺す必要があった。ギラによれば、私自身が死を招けばいいとのこと。だから私は殿下にフェレスの活動の継続を頼んでいた。
他の理由として思い付くのは、私をか弱く見せるとか、兄妹仲をよく見せるためくらいだった。お兄様は、他に何を考えているのだろう。私には分からなかったが、必要があれば教えてくれるだろうと思い、言及しなかった。
「アレクは毎日見舞いに来るって言ってたぜ?恋人の特権だってさ。」
「…何それ。病人じゃないのに…そんなのいらないわよ。」
「アレクに言えよ。」
「それもそうね。」
そして、あれだけ王城に通っていたのが嘘のように、私は引きこもった。
修復魔法を使っては休憩するのを繰り返す日々。
私の魔法の特性上、少しずつ筋肉を複製するので、欠損部分を覆う仮の皮膚が邪魔になった。血を止めるために皮膚を作るが、修復魔法を再開するときにはその皮膚を取らなければならない。そこで、私は瘡蓋を作って、少しずつ肩を修復していった。
前世で、医療の知識を得ていれば、もっと効率的な方法を見つけることが出来たのかもしれないが、今の私にはこの方法が精一杯だった。
また、お兄様の恥ずかしいアピールのおかげで、お見舞いにくる貴族が絶えなかったが、知り合いと暗殺者以外全て断った。
きっと兄の狙いはここにあるのだろう。暗殺者の情報で敵を摘発したのか、弱みを握ったのかは分からない。もしかしたら、お見舞いに来た貴族の中に、お兄様のお目当ての人物がいたのかもしれないが、私は会っていないので分からない。とにかく、私が引きこもっている間、兄は満足していた。
殿下は、宣言通り毎日来た。
私に会いに来る時間があるのかと思っていたが、その分、業務遂行ペースをあげているので問題ないとのことだった。恋人といっても、今までの関係が変わるわけではなかった。というより、過度なスキンシップは私が断った。
その代わりといっては何だが、殿下がいる時だけ、眼球の修復をすることになった。
理由としては、殿下が1番最初に私の瞳を見たいと言ったこと。そして、眼球の修復は私1人では出来ないからだった。なぜか、眼球の修復をしようとすると平衡感覚を保てなくなり、身体が倒れてしまう。そして、魔力を修復魔法に集中するので、周りの状況も分からないから暗殺者が来ても対応できない。
周りの安全を確認して、1人で出来なくもないが、誰か身体を支えて守ってくれる人がいないと不安だったので、殿下にお願いすることにした。本当はお兄様に頼んでいたのだが、殿下がその役目を兄からもぎ取ってきていた。
そして、引きこもってから1ヶ月ほど経ったある日、オズリオ様とオズルトが揃って公爵邸にやってきた。
オズリオ様が公爵邸に行くということを聞いて、オズルトが引率を申し出たらしい。
オズリオ様はオズルトの用件を既に知っているようで、私の前で言葉を躊躇っているオズルトの背中を叩いていた。オズルトは、叩かれて前へ歩み出て私に言った。
「…公女様。酷い怪我をされていると聞きました。」
「私の身体はもう大丈夫よ。寧ろ、会いにいけなくてごめんなさい。ふふっ、私に会えなくて寂しかったかしら?会いにきてくれて嬉しいわ。」
「……はい。」
彼の返事も、彼の魔力も私に会えて嬉しいと思ってくれている。私はその事実が嬉しかった。
「オズルト。ここまで会いにきてくれたということは、護衛騎士を受けてくれると解釈して良いのかしら?」
「……。」
オズルトが返事に躊躇っている。彼の後ろでオズリオ様がニコッと笑ってくれたので、もう既に結果は分かっているのだが、私はどうしても本人から返事を聞きたかった。
彼は決心したように、片膝を付き、騎士の礼をして応えた。
「このオズルト・アナーキン、ミリアリア様への忠誠をここに誓います。」
「……!!…本当に護衛騎士を受けてくれるということですか?」
「はい。」
私は、オズルトを立たせて御礼を言った。彼の顔が強張っているので、相当緊張したのだろう。
まさか簡易的な忠誠の儀をされると思わなかったので驚いたが、それ以上に嬉しかった。そして、まだ、目が治っていないことが残念だと思った。自分の護衛騎士の正式な忠誠の儀までは絶対に目を治しておこうと心に決めた。
「どうして急に護衛騎士を受けてくれる気になったの?」
「暫く、公女様が会いに来られなくて…その、訓練に支障をきたしまして…自分の気持ちと向き合ったのです。」
「…………推して駄目なら引いてみろ、ということだったのね。何にせよ、受けてくれて嬉しいわ!」
私はオズルトの手を取って喜ぶ。
オズリオ様に聞くと、既にオズルトは騎士の辞職を申し出ているらしい。私は、オズルトの部屋を公爵邸に用意してもらうように、セバスに伝えた。
私は、確認しなくても重々分かっているが、オズルトに覚悟をさせるために、わざわざオズリオ様に確認する。
「オズリオ様。騎士の剣術大会の日程はいつでしたでしょうか?」
「剣術大会?それなら3ヶ月後だ。基本的には近衛騎士が参加するものだが、護衛騎士でも参加できる。」
流石、オズリオ様は私の考えに気付いていたらしい。わざとらしく『護衛騎士』と言った。
剣術大会というのは、魔法禁止で文字通り、剣術だけを競う大会だ。騎士ならば参加できるが、近衛騎士も参加するので、実力で劣る一般騎士はほとんど参加しない。
大会には、陛下もいらっしゃり、剣術大会に出場するために騎士になった者もいるほど、大きな大会だった。
そして、オズリオ様の言い方でオズルトもなんとなく気付き、恐る恐る私に聞いた。
「公女様……まさか、私は参加しませんよね?」
「ふふっ。いいえ、参加して優勝してもらうつもりよ!」
「ゆ、優勝!?たった3ヶ月ですよ!?無理ですって!!」
「いいえ、無理じゃないわ。私がいるもの。っと、ちょうどよかったわ。」
頭を抱えたオズルトが早くも、護衛騎士を受けるんじゃなかったと呟く中、私の身体に魔力が宿り、レオが現れる。
急に人が現れたので、オズリオ様もオズルトも剣に手をかけ構えた。流石騎士だ。
私は2人に「大丈夫」と伝えて、レオに「久しぶり」と言った。レオに会うのは噛まれて以来のことだった。
レオは私に近づき、噛んだ肩と首の間に顔を寄せ、私の匂いを嗅いだ。
レオの行動に2人はギョッとする。使用人たちはもう慣れっこだが、初見の人は、近すぎる距離に驚いてしまうのだろう。
それにしても、レオは暫く人間と離れて暮らしていたらしい。いつも以上に距離が近い。人間というより、獣に近い行動だった。
「ミリア、あいつの匂い臭いぞ。でも、血の匂いが無くなってて安心した。」
「最近、毎日会っているからかしら?まぁいいわ。レオも無事そうで安心したわ。」
あいつというのは、アレクシル殿下のことだろう。眼球の修復魔法の時は、殿下とゼロ距離になってしまうから匂いが移っているのかもしれない。
レオは私の様子を見て、安心したように笑ったが、心底安心したのは私の方だった。
そして、『レオ』と聞いて、オズリオ様が反応した。
オズリオ様はレオに刃物が効かないことを知っている人間だ。反応しても無理はない。私は、オズリオ様とオズルトにレオを紹介した。
「急に現れて驚いたと思いますが、こちらは私の友人のレオです。オズリオ様は2回目になりますよね?」
「…ああ。ちょっと忘れられない男だった。レオ、私はワーナード伯爵家のオズリオ・ワーナードだ。オズリオでいい。覚えているかな?」
オズリオ様はレオに握手を求めながら近寄った。ちょっと警戒している感が否めないが仕方がない。2人は初対面で戦ったのだから。しかし、レオはいつも通り飄々と挨拶する。
「おお、オズリオは強かったから覚えているぞ。また戦いたいなぁ。よろしく。」
2人が握手する。とりあえず、ここの再会は上手くいったようだ。オズリオ様は大人な方だからあまり心配していなかったが、それでも、一度は敵として戦っているので、どうなるのだろうと思っていた。
オズリオ様とオズルトとレオの挨拶が簡単に終わった後、私はオズルトに向かって本命の紹介に移った。
「オズルト、3ヶ月後の優勝のために、これから毎日死ぬ気でレオと戦ってもらうわ。身体を切られようが、刺されようが、お構いなしの実践よ。」
「………切らっ……冗談ですよね?」
「嘘じゃないわ。実践を想定なんて生ぬるいことは言わない。常に実践。常に命の危険を感じてもらうの。絶対に強くなるわ。………フェレスである私が実証済みだもの。」
「え?……え!?フェレス!?いや、それよりも……え?ええ!?」
私はオズルトに、にっこりと笑って、「これから頑張りましょう、ルト。」と言った。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&評価していただきありがとうございます。
おかげで、執筆ペースを保てています。
もし、まだブックマーク&評価されていない方がいましたらぜひ、よろしくお願いします。
面白いと思っていただけた話には「いいね」をお願いします。参考になります。
次話以降も読んでいただけると嬉しいです。




