2章 恋人
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
私は目を覚ました。
枕にしては硬い。布団にしては重い何か。
寝ぼけた頭で、手を動かして現状を確認する。私は飛び起きた。
「………リア?」
「あ…………殿下……いっ!」
肩がズキリと痛み、寝る前の出来事を思い出す。
起きたら誰かと寝ていたなんて、前世で何度も経験していたので勘違いしてしまった。大丈夫、そういう間違いはなかった。
とりあえず、殿下に確認をする。
「今、何時頃でしょうか?」
「ちょうどお昼くらいだ。ぐっすり眠っていたよ。」
「…殿下はずっと起きていたのでしょうか?」
「ああ。リアが心配だったからね。おかげで寝顔を堪能することができたよ。」
「……そのようですね。」
正直、殿下にずっと心配をかけさせてしまった申し訳なさがある。あるのはあるのだが、魔力を見る限り、今までで1番満たされているようだった。何というか幸せそうだ。
となると、私はそこまで気にする必要はないのだろう。
「昨日はありがとうございました。おかげでとても助かりました。レオを…知りませんか?」
「レオは分からない。人間に会いたくないと言って、どこかへ転移した。」
「…そうですか。」
昨日の様子だと、きっともう大丈夫なのだろう。しかし、また、何がきっかけで人を襲うか分からない。次も、ちゃんと私のところへ来てくれるだろうか。
そして、レオが殿下を呼んだのは間違いない。殿下はどこまで聞いたのだろう。私の考えに気付いたように殿下はレオの秘密を言った。
「…レオにも番がいるのか?…そして死んだのか?」
「……レオから聞いたんですね?」
「ああ。」
レオが言った。なら、私はドラゴンについて名言はできないが、番ついては言ってもいいということだ。殿下はレオのことを嫌っているだろうが、出来れば、仲良くして欲しいと思う。
2人はとてもよく似た境遇だからだ。
「例えば………私が、亜人に襲われて酷い殺され方をしたとします。」
「………。」
「殿下は……亜人を許せますか?私を殺した亜人とは別人であっても。手を取り合って、仲良くできるでしょうか。」
「それは……どうしても考えないといけないこと?」
殿下は私を後ろから抱きしめながら言った。吐息が首の後ろをかすめてくすぐったい。殿下は私を失うのが何よりも怖いのだろう。想像でさえ怯えてしまうほどに。それに、私はテロの日に1度経験させてしまっている。
それでも私は引かなかった。
「ええ。想像してください。……レオが、経験したことです。」
「……… !!…………そう、か。私なら皆殺し……いや、亜人と仲良くしている者も全て…とても、王なんて務まらない。最悪の…殺人鬼だ。憎くて憎くて仕方ない。幸せな顔をしている者も皆…全て……」
レオの魔力に直接触れたからだろうか、それがどれほどの悲しみで、どれくらい彼を蝕んでしまうのか、知っている。私だって、家族をたくさん死なせてしまった。こんな思い、誰にも、殿下にもしてほしくない。
私は殿下の腕から逃れ、身体をくるりと回し、正面から殿下を抱きしめた。
彼を慰めるように…私の肩の傷がよく見えるように。
「リ、リア……?」
「辛い、想像をさせてしまいました。応えてくださりありがとうございます。」
「……うん。……リア、レオの話とこの肩の傷は関係あるんだな?」
殿下は私を抱きしめ返すが、ちょうど肩の傷が見えたのだろう。
そう殿下が聞いてくるように誘導したのだから。私は、こうなった経緯を、本題を切り出した。
「……私の肩…これは、レオが噛み付いた跡です。」
「…どういうことだ?」
「彼の番は人間に殺されました。彼はずっと憎しみに囚われています。そして、その衝動を抑えられなくなったら、代わりに私が受け止めるのです。これ以上、彼に人間を殺させないために。」
「なんで……リアが…………」
「それが、ギラとの約束だからですよ。それに、私以外、誰がレオから生き残るというのですか。…レオに初めて会った時、訳もわからず、ギラに戦わされたんです。その時から、ギラは私に目をつけていたのでしょうね。」
レオと会った時、本気で戦った。冗談抜きで死ぬかと思った。どうしてそんなことをさせられたのだろうと思っていたけれど、今になって思えば、理解できる。ギラは私を試していたのだ。ドラゴンと戦って、生き残れるかどうかを。じゃあ、ギラがレオを監視すればいいという話になるのだが、きっとまた別の事情があるのだろう。
「……どうか、お願いです。レオを嫌わないでください。」
「…それが、リアがレオと一緒にいなければならない理由?」
「そうです。彼が……真っ先に私を殺しにくるように。」
「………無理だ。許容できない。」
「………殿下………お願いです。」
レオが殿下を呼んだのは、同じ境遇で少しでも理解してもらえると希望を持ったからではないだろうか。
殿下が拒む理由も分かる。しかし、殿下が拒んだところで、結果は変わらない。拒否されても私はレオと一緒にいる。でも、納得してもらうのと、してもらわないのとでは、今後の行動が大きく変わってくる。
「レオが人を殺したいなら殺せばいい。……私の預かり知らないところで。ただ、リアは駄目だ。」
「殿下………分かっているはずです。レオの魔力は殿下を上回っていることを。………覚えていますか?私が陛下の制裁を受けた時に言ったことを。」
「『王国が滅びる可能性がある』ということか?」
「その通りです。私は……レオを、王国を…守りたいのです。どうか、守らせてください。お願いします。」
「……………。」
「………お願い………アレクシル。」
「…………!!!」
ずるいことを言った自覚はある。でも、どうしても納得して欲しかった。
レオは大切な友達だ。彼には何度も助けられた。だから私も助けたいし、苦しんでほしくない。この気持ちを、殿下にも分かってもらいたかった。
殿下は私の腕をとって、身体を引き剥がし、顔を合わせる。
「リア……私はいつか、君に名前を呼んでもらおうと思っていた。」
「……。」
「名前を呼べば、私が喜ぶと思ったか?納得すると思ったか?ははっ…他の男のために私の名前を呼んで!?」
さっきまで幸せの絶頂だった感情は、苦悩に苛まれていた。殿下の瞳から涙が溢れてくる。
私は、言葉を間違えたようだ。でも、どう取り繕えばいいのか分からない。どうすればいいのか分からない。
殿下は私の首に両手を添えて、そのまま私をベッドに押し倒した。
「リア…私は君に優しくしてあげたいと思う反面、私の手で殺してしまいたいとも思う時がある。」
「…それが、今ということですね。」
殿下の涙が、私の頬に落ちてくる。
肩から血が流れていく感覚があった。傷口が開いてしまったのだろう。今、1番痛いのはどこなのか、肩なのか心臓なのか、それとも頬をつたう涙が痛みを錯覚させているのだろうか。
「そういえば、レオの肩に噛み跡があったが、あれはリアか?」
「…ええ、そうです。」
嫌なタイミングで嫌なことを思い出される。
私の首を絞める殿下の手に力が入った。
「リア。もし…私がこのまま、ある魔法を発動すれば、リアが私の魔力の受け皿となり、私の身体は魔力に苛まれなくなる。これは『首輪』と呼ばれていて、私のような先祖返りのためにある儀式なんだ。」
「……!」
「この魔法を行使する相手はね、必ず伴侶とされている。婚約や結婚、色々順番をひっくり返してしまうけれど、私は、リアを強制的に私のものにすることが出来るんだよ。」
相手の首を絞めながら行う儀式なんて趣味が悪い。
でも、納得がいった。セレリィブルグ王国の歴史が途切れずに続いてきたわけを。ちゃんと、殿下のような先祖返りのための儀式があったということだ。
しかし、納得している場合じゃない。
殿下の言っていることが本当なら、私は絶体絶命のピンチだ。
私は必死に抵抗しようとするも、力が入らない。
「…っ……私を、待ってくれるはずでは?」
「………。」
「…どうすれば…許してもらえ、ますか?」
「………私の……涙を止めてほしい。」
『涙を止める』殿下の言い方で、何をしてほしいのか分かった。
私が起きあがろうとすると、殿下は素直に私の首から手を離した。
肩が痛くて腕が上がらない。そんな様子を見て、殿下は私の腰に手を回し、私の身体を起こして、顔を合わせた。
私は唇で殿下の涙を掬う。しかし、前回と違って、なかなか涙が止まらなかった。
「……リア。」
「……はい。」
「…………。」
「……………?」
「………………恋人になってほしい。」
「……え。」
一瞬、何を言われたのかよく分からず、なかなか言葉が頭に浸透してこなかった。
そして、頭の中で『恋人』という単語を何度も復唱する。
そして、私はある事実に気付いた。前世も今世も含めて、私は『恋人』がいたことがないと。
「……殿下、恋人とは何をする関係なのでしょうか。」
「………え?」
自分でも言い方を間違えたと思った。と、同時に雰囲気をぶち壊したとも思った。
恋人の定義はなんとなく分かっているが、頭の中で『恋人』という言葉がゲシュタルト崩壊して分からなくなっている。
まさか、殿下も私がそんな質問をするとは思わなかったらしく、思わず笑っていた。
「ははっ。そうか、リアは…そうだったな。」
「そう、とは?」
「そういえば、恋愛感情が分からないと言っていたのを今思い出したよ。」
「…馬鹿にしていますか?」
「いいや?ははっ安心した。」
殿下の涙が止まっている。不本意ではあるが、機嫌が治ったようで安心した。
「リア。レオのことを許可するよ。」
「!!いいんですか?」
機嫌が治った途端、当初の話題についても納得してもらえる。急にどうしたのだろうか。
殿下は私の疑問に答えるように条件を提示した。
「代わりに、リアには私の恋人になってほしい。」
「……え?ええ!?」
「どうせ、私はリアのことしか好きにならない。別で王太子妃を用意したとしても、私が恋愛するのはリアだけだ。恋人なら何の責任も負わなくていい。」
「え……それは、そうかもしれませんが……」
「リア、私が1番心配なのは、レオに傷付けられてリアがいなくなってしまうことだ。レオの気持ちも私はよく分かるし、サンドバッグには私もなろう。恋人なら1番近くでリアを、そしてレオを守ってあげられる。」
「それも……そう、かもしれませんが……」
「リア。」
「え。あの…………」
急に饒舌になる殿下についていけない。
しかし、断る理由も私には思いつかなかったので、最終的に私は了承してしまった。
後々、お兄様にこの時のことを伝えれば、「好きじゃないから」と断ればよかったなんて言われた。前世での経験で、好きとか好きじゃないを通り越して関係を持っていたから、私はそんな当たり前のことすら思い付くことが出来ずに、殿下の口車に乗ってしまっていた。
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