2章 レオの闇
誤字脱字報告ありがとうございます。
ミリア目線とアレク目線です。
「いっ………痛い………」
私は自分の肩に触れる。
そこはレオに噛みちぎられて陥没していた。出血も酷い。
今、夜中の何時頃だろうか。
この惨状を、誰に、どう説明しようか頭を悩ませるが、出血のせいでなかなか頭が回らなかった。
目の前で、俯いたまま、涙と私の血を流しながら、レオは固まっている。
私は彼に手を伸ばした。
「レオ……落ち着いた?」
「………。」
返事が返ってこない。
私は修復魔法で肩の出血を止めようとするが、時間がかかっていた。まだ、自分自身に上手く修復魔法を扱えない。死にはしないだろうが、しばらくは安静にしなければならない。
もし、今レオが本気で暴れてしまったら、王都が消えてしまう。
私は、万が一に備えて、エルに近くで待機するように言った。ギラはいない。現在、彼は消息不明だった。
レオが何を考えているか分からない。
私は悩んだ末、レオを抱きしめ、彼の魔力に直接触れた。
魔力に触れてどうにか出来るわけではないが、何もしないわけにもいかない。
集中する。おかげで修復魔法が使えなくなるが仕方がない。私よりも今はレオを優先すべきだった。
初めて触れるレオの魔力。
殿下よりも多い魔力量で大変だが、彼の魔力を操るわけではない。感じるだけだ。
感情が流れ込んでくる。
………殺してやる。
深い殺意。知っていたけれど、彼は人間を酷く恨んでいる。
………寂しい。
………愛してる。
そして、同時に、彼はどうしようもないくらいに人間が大好きだった。
番は、死んでもなお、彼に強い影響を与えている。彼女はレオとどのように過ごしたのだろう。私は、彼女の結末しか知らない。
今のレオは、殺意と愛情がせめぎ合って、身動きが取れない状態になっている。この状態で殺意が勝ってしまったら、感情の八つ当たり先として王都が消えてしまうだろう。
私はレオをきつく抱きしめながら名前を呼んだ。
「レオ!…レオ!」
「……。」
相変わらず、返事がない。
ただ、レオは人間に憎しみを抱いているので、人間を見て、殺意のトリガーを引いてしまう可能性がある。誰かが来てしまう前になんとかしなければ危ない。
それに、どうにかしないといけないとレオ自身も思って、私を頼ってきてくれたなら、それに応えるべきだ。
ドラゴン同士なら記憶を読み取ることができるとレオは言っていた。なら、私にも出来るはずだ。
「勝手に見るけど、許してね。」
私は、突破口を見つけたくて、彼の首筋に噛み付いた。
レオの鱗が傷付けまいと生えてくる。私は、牙を生やして、鱗ごと噛み砕いた。レオの血が口の中に充満する。私はそれを飲み込んだ。
「…………っ。」
1000年ほどの記憶。
頭が割れそうだった。
それら全ての記憶を読み取れるほど、私の脳は丈夫じゃない。
私は、自分を守るために、レオと番との記憶だけを探し当てて、読み取った。
2人で過ごした短い日々。
番である彼女を見つけて、レオは不器用ながらも毎日会いにいった。
価値観の違う怪しいレオを拒否しながらも、少しずつ受け入れていった彼女。
彼女に怒られながらも、人間の価値観を学んでいったレオ。
そう、レオの番は人間だった。
彼女との思い出の丘で、結ばれた2人。
レオが人間として暮らして、1番幸せだった毎日。
大切に大切に毎日抱きしめていた。
レオに笑いかける、素敵な彼女。
2人は喧嘩をしながらも、お互いを認めていて、愛し合っていた。
彼女が、人間に酷い殺され方をするまでは。
「やめ……ろ。」
レオが私の額を掴み、引き剥がす。
そして、レオが噛みちぎった私の肩に触れて、一言「ごめん」と謝った。
私は、レオが戻ってきてくれたことに安心し、「気にしないで」となんとか言った後、倒れた。
出血多量と、私自身の魔力の枯渇。もう、限界だったらしい。
うつ伏せに倒れた時、血が付着して固まったざらざらとした布団の感触を頬に感じながら、私は意識を失った。
……
意識が浮上する。
どれくらい気を失っていたのだろうか。
「………っ。」
誰かが、私の肩の出血を抑えてくれているのが分かる。
嗅いだことのある匂い。
「誰にも見られたくないなら、私の部屋に連れて行く。」
「あぁ、そうしてくれ。……ライルにも…頼む。」
会話が聞こえるが、何を言っているのかよく分からない。
しかし、私に触れる手つきが優しかったので、私はそのまま身を任せた。
目が覚める。
まだ、彼は私の肩を抑えつづけてくれていた。もしかして、そんなに私は気を失っていなかったのかもしれない。
私はその手にそっと触れた。
「殿下……ありがとうございます。」
「……リア。………心配した。」
声を聞いて、やっぱりアレクシル殿下だったと思った。
何がどうなって、殿下がいるのかは分からないけれど、おそらくレオが殿下を呼んでくれたのだろう。
私は、危険な状態ではないことに安心した。
「ふふっ。」
「……どうした?」
「魔力を使わなくても、殿下だと分かったなと思いまして。」
「………っ。」
まだ、私は魔力操作をしていない。だから、ここがどこで、殿下以外誰がいるのか全然分からない。
ただ、血の匂いがする。殿下が肩を抑えているということは、まだ血が止まっていないということだ。
私は修復魔法で、まず血を止めること。そして、途中で魔力が枯渇してまた意識を失うことを伝えた。
殿下は、ずっと血が止まるまで肩を抑えておくと言ってくれた。
本当はポーションを飲みたいのだが、それは絶対に駄目だと却下された。私が殿下達に与えた衝撃は、なかなか消えないものらしい。
そうして、私は目が覚めては修復魔法をして、気を失うのを繰り返していった。
何度目かの修復魔法で、殿下が「血は止まったようだ。」と教えてくれた。
とりあえず、魔法を行使するのは疲れたので、重力に任せて身体を落ち着かせる。
ここでやっと、私はずっと殿下に抱きしめられていたことに気付いた。
しかも、馬車の時よりも密着している。
「殿下…ここはどこなのでしょう?」
「ここは私の自室だ。私たち以外、誰もいないから安心してほしい。」
2人きりが果たして安心できるか甚だ疑問だが、秘密が他にバレることがないという点では安心だった。
殿下曰く、ちょうど朝日が出てきたところらしい。私は、忙しい殿下を徹夜させてしまったようだ。
色々話したいことがある。まず、この状況を説明したいし、説明してほしい。しかし、気を失うまで何度も魔力を行使しつづけたことと、血を流しすぎたこと、安心したことで、どうしても睡魔に勝てそうになかった。
「……眠っていい。私が起きているから。」
「殿下も……寝ていない………」
「リアほど疲れていない。それに、寝ている間にご褒美もたくさんもらっているから気にしなくていい。」
「……?」
頭が働かない。
ご褒美とはどういうことか全く分からなかったが、私は考える間も無く、殿下に体重を預けて眠った。
とても暖かくて、安心できる匂いがした。
…
私は、リアが眠ったのを確認して、ベッドに彼女を寝かした。そして、私もその隣で横になる。
血だらけの彼女が心配な気持ちと、その彼女が腕の中にいて、彼女の苦悩も愛しさも私のものになったような錯覚のおかげで、私は満たされていた。
私は、リアのおかげで体調が最高によかった。おかげで、ライルに負けないくらいに業務を終わらせていっていた。非常事態というのは、いつやってくるか分からない。テロの日はある程度予測できていたが、もし予測できていなかったらと考えると恐ろしい。
そのため、終わらせられる業務は後に回さず、すぐに片付けていっていた。時間ができれば、オズリオを呼んで鍛錬をすればいいし、リアと予定が合えば遊びに行ってもいい。
だから、私は今日も出来るうちにと遅くまで仕事をしていた。
ガタッ
執務室の前で近衛兵が倒れる音がする。
私は暗殺者が正面からやってきたのかと思い、剣を構えたが、やってきたのはレオだった。
レオと話したことはない。しかし、真っ赤な髪に端正な顔立ち。見間違うはずがなかった。
「貴様、レオだな。ここには何しに来た。」
「……ミリアの側にいて欲しい。」
何を言うかと思えば、そんな当たり前のこと。
レオをよく見れば、赤いのは髪だけじゃなかった。口は血を拭ったような後、首と服は分かりづらいが、赤黒く染まっていた。あれは噛み跡だろうか。
「おい、その姿………」
「説明している時間がない。……いくぞ。」
レオは私の手を掴み、転移した。
目の前に血だらけでうつ伏せに倒れているリアが現れる。ここはリアの自室だろうか。なぜここに直接転移できるのか分からない。聞きたいことは、山ほどあるが、それ以上にリアが大事だった。
事情はリアが起きてから聞けばいいと言った。
あと、リアについてはそこまで心配しなくてもいいと。
レオはこの惨状を誰にも見られたくないらしい、そして、人間に会いたくないと言った。
人間というと、ライルにも会いたくないということなのだろう。
そして、最後にレオが言った。
「俺の番は……死んだ。ミリアは死なないだろうが、俺のように後悔してほしくない。」
気になる言葉を言い残し、レオは転移でどこかへ行った。
私も、リアをここに残すわけには行かないので、リアを連れて、王宮の自室へ転移する。
ドクドクと流れていく血を止めるために、必死で彼女の肩を抑える。
回復魔法を使ってもらった方がいいのではないかと思うが、レオは誰にも知られたくないと言った。となると、宮廷魔法士に頼むわけにもいかない。
リアは死なない。
身体が崩壊していったあの時とは違う。不安だが、私には血を止めることしかできない。私は、大丈夫だと言い聞かせていると、リアが目を覚ました。
そして彼女は、こんな状況にも関わらず、ふわっと笑った。
「魔力を使わなくても、殿下だと分かったなと思いまして。」
「………っ。」
目が見えなくても、魔力を確認しなくても、触れている感覚でリアは私を認識した。
彼女は番。それはもちろん分かっている。しかし、彼女を好きだという気持ちに際限がなかった。
彼女に好きになって欲しい。同じ気持ちになって欲しい。私と同じくらい苦しくなってほしい。
レオのことを考えなくてはいけないのに、私はリアのことで頭がいっぱいだった。そして、リアが落ち着いているので、私も落ち着くことができた。
目を覚ましては、魔法を使い切り、気を失うリア。
私は、彼女が腕の中にいて、気を失っているのをいいことに、何度もキスをした。
なかなか開くことのない瞼、前髪の隙間から見える額、時々赤く染まる頬、そして、名前を呼んでくれない唇。
いつか、彼女から私を望んでくれますようにと願いをこめてキスをした。
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