恐怖!時限爆弾!
打ち放しコンクリートの部屋の中心に、時限爆弾が置かれている。カウントは残り二十秒。爆弾の目の前では青年が一人、憤慨していた。
「はぁ!?いや、嫌だからね!こんなんで死にたくないんだけど!」誰に言うでもなく、駄々をこねるように声を荒げた。
残り十六秒。爆弾の数字は、青年をあざ笑うかのように減っていく。
こんな状況いまだに理解しきれないし、納得できない。
十五、十四、十三。カウントはどんどん進む。
「待って、ちょっと待って!」
爆弾はちょっと待った。
「あっ、え!?止まんの!?それ待つパターンあるんだ!」青年は自分でも驚く。
しかし、青年が安堵の表情を浮かべた次の瞬間にはカウントが再開されていた。
「いや動いとる!ほんとにちょっとしか待ってくれないのかよ!ああもう分かった、分かったよ。でもちょっと覚悟が決まらないから、それだけさせて」
七、六、五。
「ちょっと待ってって!」
爆弾はちょっと待つことにした。
なぜか願いを聞き入れてくれる爆弾を疑問に思いつつ、即席の死を受け入れる覚悟を、そして、思いの限りを口にすることに。
「はぁ、意味分かんねぇよ。あ〜あ、一回でいいから加藤センパイとヤりたかったなー。もっと色んなことやっときゃあなぁ。あぁなんか、今振り返るとなんもない人生だったなぁ。結局、好きなこともまともに見つからなかったな。……父さんには、迷惑しか掛けてこなかったな……」
沈黙の後、青年はほんの少しだけ悲しくなった。
カウントが再開される。
四……。三……。
無気力感を覚えつつ、青年は爆弾に目をやる。そこで残り時間の減り方が遅くなっていることに気づいた。
もしかして。ひょっとするとこの爆弾、情に脆いのではないか。
ちょっと自分でも、なにを言っているかよく分からないがしかし、あり得るかもしれない。制止を受け入れるのもそのためか。
「ちょっと、待ってくれ。……待ってください」
爆弾は、ちょっと待つことにした。
「最期に。母さん、親不孝ものでごめんなさい。母さんはずっと優しかったのに、俺は反抗してばっかで、無視してばっかで、恩を仇で返して。俺……」そう言いかけて鼻をすすった。
無表情の部屋に置かれた爆弾はカウントを再開する。
ニ、一。
あぁ……。
〇。悲嘆と後悔、その他諸々をない混ぜにした感情を抱きながら、ぎゅっと顔にしわをつくる。
しばらくして、あれ、と青年は思う。まだ死んでない?恐る恐る目を開けた。
一、〇、一。爆弾のカウントは増えたり減ったりしていた。
「……」
「え?どういうこと?……あっなに、悩んでんの!?どうしようかなー、爆発しようかなーやめようかなーって悩んでんの!?じゃあ爆発すんなって!」
爆弾はねっとりと、カウントを〇に、一に、を繰り返す。
「やめろって、ほんとに心臓に悪いから!早」
爆弾は悩みながら爆発した。
「いや爆発するんかい!」それが幽霊になった青年の第一声だった。