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亡き王女に捧げる滅亡の物語  作者: 文月 桐秋
王宮編
4/16

7/5 大幅に改稿しました。

「弧星、元の業務へ戻って構わないから」

「しかし、このような者と姫君を二人きりにするわけには」

緒都(おと)がいるでしょ」

「宮女一人ではありませんか」

「緒都は体術の腕が一流なの」

 しかし、と言い募る弧星に、

「忙しいでしょ?」

「まあ・・・・・・」

「大丈夫だから」

 わかりました、と弧星は立ち上がる。所在なさげな朝凪を一睨みすると部屋を出て行った。


 弧星が部屋を出ていくのを確認して、風花は朝凪に声をかける。

「朝凪、そちらに掛けて。緒都、お茶と軽食を用意して」


 控えていた緒都と呼ばれた宮女が頭を下げて、音もなく出ていく。

 風花は部屋に置かれたテーブルセットの上座に当然のように腰を下ろす。

 朝凪も向かいに浅く腰掛ける。平民の、ただの兵士と一国の王女。本当なら許されないことではあるが、少女は気にした風もない。朝凪の内心は推して知るべしである。


 その間に緒都が戻り、風花の前には紅茶と菓子を、朝凪の前にはスープとサンドイッチが並べられる。軽食、といいつつ一般兵士の朝食より豪勢なのではないだろうか。

 風花は、ありがとう、と言い紅茶に手を伸ばす。

 一口、カップに口をつけ満足そうに微笑む。


「ずいぶんと早い時間に弧星に迎えに行かせてしまったから食事がまだかと思って。遠慮なくどうぞ」

 中々手を出さない朝凪に、

「毒なんて入ってない」

 と、朝凪の疑いを先回りして風花は答える。


「・・・・・・」

 年下の少女にいいようにあしらわれている気がする。しかし、昨夜のことがあり朝食を食べ損ねていたのは事実だ。思い出したら急激に空腹を覚える。毒が入っていてもかまわないような少し自暴自棄になりつつある。


 あきらめ漂う朝凪を観察しながら、風花も菓子をつまむ。おそらく年上の少年ではあるが、反応が実に分かりやすい。今まで暗殺者として本当にやってこられたのだろうか、とやや見当違いの心配までしてしまいそうである。

 人心地付いた様子の朝凪を見て、風花は口を開く。


「さて、なぜわたしに呼び出されたのか、心当たりは当然あるでしょ?」

「・・・・・・ああ」

「そんなに警戒しなくても、あなたを軍に突き出すつもりはないから」

「なぜ?」


 朝凪は警戒心をむき出しにする。

「せっかく捕まえた人材を手放すつもりないもの」

 当然という顔で風花は言う。

「じ、人材? 俺が?」

「そう、とても貴重な人材。それに、昨晩の暗殺を取りやめてくれたでしょ? その時点であなたはわたしの庇護下に入ったの。だから、軍には突き出さない」

「あんた、何考えてる」

 ぎゅっと、眉をよせて朝凪は風花を睨む。


「ねえ、朝凪。あなた、騎士になるつもりはない?」

 朝凪は思わず手にしていたサンドイッチを落っことした。もったいない。


 どこの世界に自分の命を狙った暗殺者を騎士にする王族がいるのだろうか。


「昨晩、暗殺をやめてくれたら仕事を紹介すると言ったでしょう? わたしが紹介できる仕事なんてわたし専属の騎士くらいなの。申し訳ないのだけど。でも、お給料はいいし、まあ、ちょっとは危ないかもしれないけど、わたしを殺すよりは生き延びる確率は高いと保証するけど?」

「・・・・・・専属?」

「そう、わたしの騎士」

 唇に笑みを浮かべながら朝凪を見つめる風花は、それはそれは美しかった。


「意味が分からない」

 朝凪はつぶやいた。

 

 あれよあれよという間にまずは近衛の見習い騎士から、という話がまとまっていた。

 近衛騎士は例外なく名家の出が多い。そのあたりはどうするんだと思っていれば、

「こういう時に使うための髪と目の色でしょう」

 と、風花は楽しそうに言った。


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