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亡き王女に捧げる滅亡の物語  作者: 文月 桐秋
王宮編
15/16

15

 桜の館の一室には淀んだ空気が充満していた。

 館の主である、チェルフロレス王家の当主、麻霧(あさぎり)が怒り狂っていたからだ。


「小娘が!」

 ガン! とテーブルを殴りつける。

 

 妻の実家を通して邪魔な姪を始末する算段をつけたというのに、一向に依頼が完遂される気配がない。

 調べてみれば、依頼した組織が壊滅状態だと言う事が判明した。


 確証はないが、そんな手を打てるのは自分より上位にいる、忌々しい甥か姪だろう。だが、王太子である甥は公務で忙しい。それに、基本的に穏やかな(たち)であることは麻霧にもわかっている。

 そうなれば、あの小賢(こざか)しい姪の仕業であろうというものだ。


「やはり、風花が邪魔だ」

 麻霧は獰猛な目つきで藤の館の方を睨みつける。


 氷刃はうまく懐柔できる可能性があると、麻霧はみていた。氷刃が王位に就いたら娘の六花(りっか)を王妃にしてうまいこと実権を握ることもできるはずだ。

 しかし、風花にはそれが通用しないだろうと、確信している。


 思い出すのは、弟夫婦が死んだ日の事だ。


 後継者を失った父の嘆きは深かった。威厳にあふれる王であった父は、人目もはばからず、涙を流していた。

 氷刃も、年相応に悲しんでいたが、それ以上に風花を気遣い、気丈に振舞おうとしている姿には、麻霧とて多少、心を動かされた。


 だが。


 風花の薄紅色の瞳は、何の感情も宿していなかった。

 兄の手を握り、体を寄せてはいても、両親の死の悲しみも、嘆く祖父への気遣いも、思いやってくれる兄への感謝も何も、その瞳には浮かんでいなかった。


 その異様さに、麻霧は風花から目を離せなかった。その視線に気づいたのか、風花の目が向けられた。


 その時の目は、何もかも見透かされているような、他者を畏怖させるような目だった。


 ぞわり、と背筋に寒気が走る。

 醜い心の内を覗かれた気がした。

 たった八歳の子供に、大の大人である麻霧が恐怖したのだ。


 日が経つにつれ、その恐怖は屈辱へ、そして憎しみへ変わった。


「役立たずどもめ」

 なおも麻霧は壊滅した暗殺者組織に悪態をつき、次の手を考えていた。

 

 国王である父は高齢、王太子である氷刃はまだ子供だ。妻、十六夜の実家であるアルクム家は、中継ぎとして麻霧を王にし、権力を握ろうと頻繁に働きかけてくる。

 あわよくば王太子をも排除しようとしているところは危うい気もするが、こちらも最大限利用してやろうと麻霧は策を巡らせる。


 そういえば、新しく騎士見習いが入ったと聞いた。何でも風花が自ら後ろ盾になったらしい。そこを突けば、多少堪えるだろうか。


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