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決意を新たにした朝凪は、弧星に教えを請うたが、
「武術を習うなら、十束に頼むといいですよ」
と、言った。まあ、弧星は近衛騎士団の副団長という立場である。近衛騎士全体の統括の一部を担う、本来ものすごく忙しい人だ。
なので、朝凪は素直にうなずく。
「礼儀作法については私が面倒を見ますから。あの二人はそれに関しては当てになりません・・・・・・」
弧星はわかるでしょう? という顔で朝凪を見る。
確かに、自分はできても他人に教えるのには向いてないように思って、朝凪は申し訳なさそうに頷いた。
その後、武術は十束が教えてくれるようになった。
そこで判明したのは、弧星が忙しいというより、十束が様々な武器を扱えることが理由だったらしい。
「朝凪、長剣より短剣の方が得意でしょ?」
「そうですね。ずっと使ってたのは短剣なので」
「だと思った。でも、騎士は基本長剣ぶら下げてるから、それをちゃんと扱えるようにならないとね」
「よろしくお願いします」
朝凪はしっかり頭を下げる。
「・・・・・・それって、隊長の仕込み? たった一ケ月そこらで、そこまで身に着くもの? そういう、言葉遣いとか」
沈黙したまま、朝凪は無意識に手の甲をなでる。
それを見た十束は、何かを悟ったらしい。いつかの緒都と同じ反応だ。
「隊長、怖い」
いや、緒都より十束の方が若干恐怖を感じている。
「よし、やろう」
やや重たくなってしまった空気に耐えられなくなった十束は、木剣を構える。
「好きに打ち込んできて」
「はい」
朝凪も木剣を構える。が、十束には隙が無い。そのまま動けずにいると、十束がにやにやしながら煽る。
「ほら、若者は真っ向から突っ込んでくるものだよ」
「・・・・・・」
確かに、このままでは訓練にならない。
ぐっ、と木剣を握り直し、十束に上段から打ち込む。
カンッ
いとも簡単に止められるが、朝凪は構わず、横から、上から、何度も打ち込む。
「だめだめ、重さが全然足りない」
そう言いながら、十束は受けていた木剣を翻し、朝凪に打ち込んで来る。
ガン
一度の打ち込みで朝凪の腕はしびれ、木剣を取り落とす。その首筋にピタリ、と十束の木剣が当てられる。
「僕、隊長の綺麗な剣術も好きだけど、あれじゃ実践ではあんまり役に立たないからねえ。はい、剣拾って、もう一回」
十束は、厳しく、意外と真面目に教えてくれた。
そして、息が上がってしまった朝凪を休ませている時に、真剣な顔で言った。
「朝凪、僕の事、師匠と呼んでいいよ。さあ!」
朝凪は一瞬固まる。
「・・・・・・師匠」
躊躇いながらも、素直に師匠、と口にした朝凪に、十束は感動を覚えたらしい。
「君、いい子だね!」
更に、頭も撫でられた。
「ところで、朝凪は何で姫様の暗殺やめたの?」
朝凪は、十束の顔を凝視する。
この人はいつも唐突で、他人なら聞き辛いことも平気で聞いてくる。
「元々、抜ける事を考えていたので。悪くない話だと思ったからです」
「でもさ、君、東方の出でしょ? 君の一族を苦しめた国の王族だよ? 姫様」
「物心ついた時には蝙蝠にいたので、自分の出の事はよくわかりません。あ」
「?」
「あの時、思想による暗殺なら止められないと、姫様が言っていた事と関係ありますか? それ」
「わー、姫様。殺されそうって時によくそんなこと言うなあ。ま、でも君のその容姿をみたら大抵の連花の貴族は身構えるよね」
「そうなんですか?」
「黒髪、紺青の目。ばっちり、東方、虎狼族の血がよく出てる」
正直、そう言われたところで朝凪は故郷を知らない。
「よかったの? 言われるがままに騎士見習いになっちゃて」
「いいんです。姫様の為にやることは決まったので」
真っ直ぐ前を向く朝凪を、十束は憐れみを込めた目で見つめる。
その視線に気づいた朝凪は、十束を不思議そうな顔で見返す。
「いや、朝凪の中で姫様は聖女か何かに見えてるのかな、って。あの人、結構残酷だよ? 蝙蝠壊滅させる命令出したの姫様だし」
十束は意地悪く言う。風花は、組織の構成員を生かして捕らえろとは一切命じなかった。
「・・・・・・確かに、逃げ場がなくなったな、とは思いましたけど」
朝凪の返答に十束は意外そうな顔をする。
「朝凪って、じつは結構賢い子? それだけ自分で考えられるのに大人しく組織で暗殺者やってたの?」
「だから、抜ける事は考えてましたよ」
さすがに踏み込まれすぎて、朝凪が十束から引き始める。
「わあ、ごめんごめん。もう何も聞かない。次、短剣の訓練しよう!」
慌てて十束は朝凪を引き留め、訓練の再開を告げる。




