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亡き王女に捧げる滅亡の物語  作者: 文月 桐秋
王宮編
10/16

10

 護衛に伯千を残し、弧星、十束、朝凪は風花の部屋を出る。


「十束、とりあえず湯あみをしなさい。血の匂い、取れてませんよ」

「う~ん。やっぱり」

 十束は始終軽い調子だが、その後ろを歩く朝凪はずっと緊張状態だった。


 見せられた資料。死人の顔や体の情報が事細かに記されていた。いずれも腕利きの暗殺者たちだった。その内の十人を殺したのは、目の前を歩く十束だという。


 金糸雀(カナリア)色の髪と翡翠色の瞳の青年。その色合いと、優美、という言葉そのもののような顔立ちが相まって豪奢な装飾品のようだ。軽薄な風を装っているが、隠れる気配は鋭利な刃物のようで、たぶん人を殺すことにためらいを持たない人間。


 なにより、簡単に洗い流しただけでは拭いきれない血の匂い。


 朝凪の視線に気づいたのか、十束が振り返る。


 怒られるのだろうか、と思えば、

「そういえば、君、歳いくつなの? ちなみに、僕は二十三歳。隊長は三十二歳」

 と、唐突に年齢を聞かれた。


 だが、朝凪は目線を落とす。


「気づいたら蝙蝠にいたので・・・・・・」

 今まで歳を数えたことは無かった。そもそも年齢というものを認識したところで、その時点の自分の年齢を知らなかったから数えようもなかった。


「あ~、なんか、ごめん」

 さすがの十束も気まずかったのか謝罪の言葉を口にする。


「多分、十五・六歳だと思いますよ。十束が騎士見習いになった時の大きさもこんなものでしたから。騎士見習いにする際の書類には十五歳で提出してますから、そういうことにしておいてください」

 さらりと弧星は朝凪に告げる。


「え、それも姫様の入れ知恵?」

「いえ、私の独断です。姫様は年齢など興味ないですから」

「姫様は色々と気にしなさすぎ。僕が差し上げる物も食べてしまうし」

「分かっているならやめなさい。貴方も大概です。あと、あれらは緒都がしっかり毒見しています」

 賑やかに話をしながら、朝凪の前を二人は歩いて行く。


 朝凪はここ一ケ月、教育係を務める厳格な弧星しか見てこなかった。

 部下と話をする弧星は、そこまで上下関係に厳しいようには見えず、なんなら、わりと楽し気に話をしている。


 今なら、聞けるだろうか。

「あの、隊長。なぜ、姫様は私を騎士にしてくださったのでしょうか。それに、蝙蝠の事も」

 弧星は、少し振り返ると、

「知りたいですか?」

 感情の読めない表情で問いかける。


「はい」

 と、朝凪は少し不安を感じながらも頷く。


「では、私の執務室で話をしましょうか」

「え、僕も聞きたい」

 十束が興味深々な様子で言うが、弧星はぴしゃりと断ち切る。

「貴方は先に血の匂いを消してきなさい」





「朝凪、そこへ」

 騎士団宿舎内の副団長執務室に着くと、室内の応接セットに朝凪を座らせる。

 弧星も向かい側に座る。

「まずは、今の奥宮の状況からお話するべきでしょうね」

「・・・・・・」

 朝凪は黙って耳を傾ける。


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