1.序章
春も終わろうかという季節。
青く澄みわたる空。
そんな天上とは対照的に、地上は火の粉が舞い、あちらこちらで怒号が飛び交う戦場と化していた。
その只中に朝凪はいた。
三年にも及ぶ内乱の末、連花王国の王都白藤は戦場となった。
遠目には王城に大きな損傷は見えないし、煙も上がってはいない。しかし、城下町はあちらこちらから火の手が上がり、家々は破壊されている。
逃げ惑う人々とそれを追う兵士。斃れた人々の血は石畳を伝い、どこまでも流れていく。
反乱軍の兵士は、積年の恨みを晴らすかのように執拗に連花の民を傷つけていく。
なぜだ、なぜ、なぜ、なぜ。
声にならない悲鳴が白藤の都を埋め尽くす頃、力尽きたように、連花の抵抗がやむ。
動かない息子を抱き、茫然と座り込む父親。
冷たくなった母親に深く抱き込まれた幼子は弱々しい声で泣く。
そんな中で朝凪は澄んだ空を見上げる。
一つにまとめられた長い黒髪が風にそよぐ。
朝凪が記憶の底の懐かしさと愛しさを思い出し、深い藍色の瞳を揺らす。
王城を眺めれば、ひと際高い壁が目立つ。広大な敷地を囲むその壁は、所々煤けた外壁とは違い、まったくの無傷に見えた。
その内側には連花王国の王族が住む。
「姫様・・・・・・できる事なら私は貴女に外をお見せしたかった」
朝凪の小さな呟きは風に乗って掻き消えた。朝凪の姫は、そこにはもういない。
過去にさかのぼって展開していきます。