1/3
序章
少し冷たい春先の日陰。
山沿いの急斜面に聳え立つ、青原の土地神の神社。普段そこには参拝者も、住職ですら殆ど姿を現さない。しかし放置された、という印象も薄かった。
長い長い階段を昇った後に現れる、木漏れ日の光に包まれる境内。本殿の前に鎮座する二つの狛犬。境内に立つ男は、それらを美しいと思った。
血にまみれた景色を。
整備された景色を、規則性もなく飛び散った血が汚す。そしてその血液の主達は、石畳の上に無惨に転げている。それらは元々なんだったのか、とすら思える汚い殺し方だ。おそらくそれらは四肢の獣――狗の式神というのが妥当なところだった。
惨劇の血の海の中を、男――パーカーのフードを深く被った少年が、何の躊躇いもなく突き進んでいく。目元は深く被ったフードと、栗色の前髪が隠しており、その全貌を見せることはない。
血だまりの中に脚を沈めても全く気にした様子の無い男は、狛犬の前でぴたりと脚を止めた。
引き結ばれた口元を開き、
誰に言ったのか、その男はただ一言
「土地神は」
とだけ言った。
その足元を、木の葉が風に飛ばされ通り過ぎた。