第7話 勇者魔人となる その名はベリオン
「・・・ん・・・。」
一人の男が、草が茫々に生える草原に、一糸纏わぬ姿で寝ていた。男は、灰色髪の筋肉質のがっちりとした体格をしていた。素人が見ても、強そうであることが見て取れた。顔も、美男子と呼べるほどのものだったが、左目のあたりは、まるで灰色の痣のようなものが広がっていた。いや、目元だけではない。身体のところどころに、灰色の痣のようなものができていたのだ。
「・・・ここは・・・どこだ・・・?」
男は上半身を起こすと、周囲を見渡す。男は、この場所がどこか分からなかったが、しばらくして、何かに気付いたのか、立ち上がる。
「・・・思い出した・・・ここは、俺が・・・アユムが死んだ場所だ・・・!」
男は、この場所がどこか思い出した。そう、ここは、勇者アユムが悪人達によって謀殺された場所だったのだ。
そのことを知る彼こそ、アユムとブライの融合体だった。融合は、成功したのだ。
「・・・どうやら、肉体と魂の融合は成功したらしい。・・・今の俺には、アユムとブライの記憶がある・・・。」
男は手をグーパーしたり、軽くシャドーボクシングをしたりして、身体の感触を確かめていた。
「・・・問題ない。スムーズに動く。・・・いや、融合前より動きがいい。」
「無事成功してよかったよ。」
「!・・・なんだ、ルシフか。」
振り返った男の目に、黒一色の服を着た少年が立っていた。男は、この少年のことを知っていた。彼を復活させた存在、魔神ルシフだった。
「いや~・・・やっぱり普通の復活よりも疲れたよ。身魂融合は、かなり繊細で神経を使うからね。」
「・・・想像以上のようだな。アユムとブライであった頃と比べ物にならないほどの強さだ。軽く動いた程度でも分かる。」
「ふふふ。まさか、その程度だとは思っていないよね?今の君は、人間と魔族の最強戦士が融合した、文字通り地上最強の人間、いや、魔人なんだ。普通の人間や魔族と同じに思ったら困るよ。」
ルシフは意地悪そうな笑顔を浮かべて言う。
「・・・具体的にはどう違う?」
「まずは、自分の強さを確認してみて。やり方は分かるよね?」
「ああ、アユムの記憶で分かる。・・・【ステータス】。」
男がステータスと唱えると、目の前に半透明なボードが出現する。そこには、様々な数値が書かれていた。
名前:??? Lv:200 種族:魔人 称号:魔神の使徒 反逆者
HP19980/19980 MP19550/19550 TP19870/19870
筋力1990
耐久力1970
器用度1980
敏捷性1950
知力1900
精神力1890
「・・・ほう、人間はこうやって自身の強さを可視化できるのか。便利なものだな。・・・?待て、アユムの記憶によると、レベルの限界は100までだったはず。能力の上限も、999が限界だ。これはおかしいのではないか?」
「いや、おかしくはないよ。さっきも言ったじゃないか。君は、普通の人間や魔族とは違うって。そもそも、レベルや能力の上限は、神が与えたリミッターなんだ。」
「そうなのか?」
「そう。僕達、種族を生み出した神々は、創造した存在にリミッターをかけているんだ。」
「何故そんなことをする?それでは、これ以上強くなることができなくなるだろう。可視化できない他の種族ならともかく、人間は自身の限界を悟ってやる気を失うのではないのか?」
「下手に強くなって、創造主に逆らわないようにするためだよ。・・・名目上は、際限なく強くなるようにしたら、争いが絶えなくなるからそれを防ぐための手段らしいけど・・・それは嘘だね。ああ、能力の限界を悟ってやる気をなくすことに関してだけど、あんまりいないんじゃないかな?そもそも、100まで上げるような人間なんて普通いないから。人間は、魔族みたいに戦闘民族じゃないからね。」
「・・・そういえばそうだな。すまない。ブライの記憶で判断していた。アユムの記憶では、そもそも一般人は10どころか5もあるかないかというレベルだった。騎士でさえ、50ある人間は十人もいなかった。・・・おい、お前、魔族にもリミッターをかけていたのか?」
「かけていたさ。一応、魔族の目的は、世界のバランスを取ることなんだ。過剰に強くしたら、魔族が世界のバランスを崩しかねないからね。ああ、でも安心して。どの種族も、上限レベルと能力値の上限は、100と999だから。ただ、成長に関しては、種族毎に差異が出るけどね。魔族は、限界までレベルを上げれば、全能力値がマックスになるよう設定してたけど。」
「・・・で、この異常な能力値・・・今の俺は、リミッターが外れているのか?」
「うん。融合した際に、あらゆるリミッターを外したんだよ。だから、レベルも能力値も、二人の合計値になっているんだ。つまり、今の君は、アユムとブライが一緒に戦っている感じなんだよ。」
「・・・リミッターが外れたということは、まだレベルが上がる余地があるのか?」
「あるよ。そもそも、僕達神を殺すんだ。200じゃ足りない足りない。」
「どれくらい必要になる?」
「君に与えた新しいスキル、【アナライズ】がある。相手のステータスを見る魔法だよ。神やそれに仕える使徒が使える特別なスキルさ。使ってみるといい。」
「・・・【アナライズ】!」
男は、目の前にいるルシフに対して呪文を唱える。すると、男のステータスとは別に、ステータスを表示するパネルが出現した。
名前:ルシフ Lv:550 種族:神 称号:魔神
HP500000/500000 MP6000000/6000000
TP480000/480000
筋力50000
耐久力49700
器用度58500
敏捷性60000
知力70000
精神力65000
(・・・何だ・・・これは・・・?この訳の分からないステータスは!?・・・こんな奴が世界にいたら、簡単に世界を滅ぼせるじゃないか・・・!)
男は、ルシフのステータスに驚愕した。アユムの記憶がなくとも、このステータスは異常、いや、そんな言葉では済まないものだった。こんな存在がもし、世界に直接干渉すれば、一瞬で世界は滅ぶだろう。
「・・・お前・・・強かったんだな・・・。」
「そんなことないよ。僕、神の中では一番弱いからね。君だって、頑張って僕と同じレベルまで上げれば、これ以上に強くなれる。いや、僕のレベルに行く前に超えちゃうかもね。成長率も弄って、リミッターを外したからね。」
(・・・このステータスで・・・最弱・・・か。・・・末恐ろしいな。)
男は、こんなとんでもない強さを秘めたルシフでさえ、神の中で最弱と聞き、戦慄を覚えると同時に、喜びのようなものを感じた。ブライの強い者と戦いたいという部分が、この先に待つであろう強者との戦いに思いを馳せているのだと、男は感じた。
「・・・さて、いつまでもそんな恰好でいるのはなんだから、着替えなよ。はい、これ。」
ルシフは、一般的な旅人が着る服と、左顔半分が隠れる灰色の仮面を何もない空間から取り出すと、男に手渡す。
「!収納魔法か。」
「空間魔法の初歩だよ。まあ、この世界ではこれも高度な魔法に扱われていたね。後で教えてあげるよ。割と簡単だし。」
「簡単?マギやセイが言うには、空間魔法は高度で難易度が高い魔法だと言っていたが・・・。」
「大丈夫。そのために、君の成長率を弄ったんだよ。それによって今の君は、普通の人間が何十年もかかる習得が、頑張り次第で数ヵ月、いや、数日で習得できるようになる。もちろん、魔法もだ。」
「魔法を覚えるのが楽になるのか。それは助かる。魔法の理論など、俺にはよく分からないからな。」
「・・・そこは、ちゃんと勉強してほしいな。僕、一応魔法使い型だからね。」
ルシフの苦笑を無視し、男は服を着替える。男の見た目は、顔左半分に仮面を付けてはいるが、どこからどう見ても旅人の姿だった。
「似合ってるよ。これならどこから見ても、普通の人間と変わらないよ。」
「・・・ならいいんだがな。こういった服を着るのは、アユムの方はともかく、ブライの方は、こんな服に慣れていない。」
「大丈夫。すぐ慣れるよ。・・・ところで、もう君は、アユムでもブライでもないよね。だったら新しい名前を付けた方がいいかな?」
「名前・・・そうだな。アユムもブライも、もう死んだ存在だ。特に、アユムの名前は、広く知られてしまっているだろうからな。別の名前を考えなければな。」
二人は考え込む。新しい名前を。しばらくして、ルシフが頭の中に浮かび上がった名前を口にする。
「・・・ベリオン・・・。」
「?ベリオン?どういう意味だ?」
「反逆者という意味のリベリオンから取ったんだよ。かっこよくないかな?」
「・・・反逆者・・・リベリオン・・・。いい名前だ。よし、俺の名前は、今日からベリオンだ!」
「うん。これからよろしくね、ベリオン。そして、ハッピーバースデー!」
アユムとブライ。二人の最強戦士の融合体は、ルシフの祝福を受け、ベリオンとして誕生した。
魔勇者ベリオン。この悪が蔓延る救いなき世界に鉄槌を下す英雄が、今ここに誕生した。
序章終了です。ここから無双ものにシフトしていきます。