第6話 勇者最強魔族と再会する
「・・・久しぶりだな。勇者アユム。」
アユムの目の前に現れた人物。それは、アユムがかつて倒した魔族の戦士ブライだった。
「・・・ブライ・・・どうして彼が・・・!?」
「人間最強の戦士と釣り合うのは、魔族最強の戦士だと思ってね。不服かい?」
「・・・いえ・・・不服では・・・。」
まさか、自分が倒した人物がその相手とは、アユムも思わなかった。すると、ブライはずかずかとアユムに近づいてくる。
「・・・?」
次の瞬間、ブライは強烈な右ストレートをアユムの顔面に食らわせる。アユムは、咄嗟のことで反応できず、直撃を受け、吹っ飛ばされてしまう。
「!?な・・・何を・・・!?」
事態が呑み込めないアユム。だが、ブライは再びアユムに近付くと、彼の胸倉を掴む。
「・・・お前・・・何故あんな無様な負け方をした!?」
「・・・え?」
ブライのいきなりの発言に、アユムは面食らう。よく見ると、ブライは怒りに満ちた形相でアユムを睨んでいた。
「お前は俺に勝った最強の男のはずだ!何故あんな雑魚共に殺された!?何故手を抜きやがった!?」
「・・・彼は・・・僕のかつての仲間で・・・それで・・・。」
「・・・仲間だった男だから、殺すのを躊躇った・・・か。で、そいつはどうなった?お前の代わりに最強の男にでもなったのか?」
「・・・それは・・・。」
殺したくないと思っていたナイは、結局始末された。ナミもシーもマギも、子供達も殺された。自分の行動は、何一つ意味がなかったことを、アユムは否応なしに再確認させられた。
「・・・俺は、お前の主義思想は分からん。だが、その強さだけは評価していた。・・・なのにお前は、俺の期待を裏切ってくれたな。あんなくだらない死に方しやがって・・・!」
「・・・。」
何も反論できないアユム。反論する資格など、自分にはないということを自覚していたからだ。
「ブライ。その辺にしておくんだ。彼は、今更だけど、自分の間違いに気付いてやり直したいと思っているんだ。それで勘弁してあげてくれないかい?」
ルシフはブライに、怒りを鎮めるよう促す。ブライは手を放し、アユムはその場に座り込むように倒れる。
「・・・ふん。こんな屑に負けたとは・・・俺も相当焼きが回ったものだ。」
「・・・アユム。彼を選んだのは、彼の強さもそうだけど、彼自身が望んだからでもあるんだ。」
「・・・え?」
「自分の認めた男がアッサリ死んだのが、受け入れられなかったんだよ。なんだかんだ言って、君のこと気に入っているんだ。」
「!おい!てめぇ!何勝手にしゃべってやがる!」
ブライは、相手が神だというのに抗議する。しかし、ルシフはそれは意に介さずアユムに話を続ける。
「他の魔族も、何人か希望してきたんだけどね。やっぱり強さでいえば、ブライがダントツだ。それに、優しいけど甘すぎる君と、自他共に厳しく律することができるけど、厳しすぎて非情とも取れなくない彼。極端なところのある君達二人の魂を融合させれば、バランスが取れていい感じになりそうじゃないかと思ってね。」
「・・・魂が融合したら、そんな風になるんですか?」
「うん。魂が融合するってことは、人格も混ざるからね。全くの別人になるよ。ああ、記憶は混ざらないよ。ちゃんときれいに二人分の記憶を有するから。」
「・・・確かに、僕みたいな人間じゃ、世界には勝てません。世界に勝つには、ブライのように強い闘争心が必要です。僕にはそれが足りない・・・。」
「足りなくはないけど、今目覚めた程度じゃね。でも、君の優しさだって、必要にはなる。そこは、自信を持っていいよ。」
「・・・ありがとうございます。」
「じゃあ、そろそろ始めようかな。準備はいいかな。」
「おう。さっさと始めてくれ。」
ブライは、早く融合を開始するようルシフを急かす。
「・・・お願いします。」
アユムも覚悟を決めたように言う。
「じゃあいくよ。ちなみに断っておくけど、魂と肉体の融合には、結構時間がかかる。全く異なるものを混ぜ合わせるから、混ざるのに時間がかかるし、混ざった後、それが安定化するのも時間がかかる。どんなに早くても、十年はかかると覚悟してほしい。いいね。」
「分かった。早くしろ。」
「覚悟はもうできています。・・・どうぞ。」
「分かった。」
ルシフは右手をアユムに、左手をブライに向けるとブツブツと何かを呟く。
『彼の者達の血肉を原始の状態へと帰せ。原始の状態と化し血肉、混ざり合え。混ざり合え。混ざり合え・・・。』
すると、二人の姿はまるで、粒子のような状態と化し、互いの粒子は集まり合っていく。そして、粒子は凄まじいスピードで混合されていく。
「・・・よし。あとはこのままの状態を完全に維持する。・・・だいたい五、六年くらいかな?・・・それが終われば、肉体に戻す作業だ。これも、だいたい五、六年っと。早く終わらせたいけど、慎重にしないと。・・・これが最後のチャンスなんだから・・・。」
ルシフは粒子を満遍なく混じり合わせていくのだった。