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救世主魔王 魔勇者ベリオン  作者: レイス
序章 魔勇者誕生
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第5話 勇者世界を憎む

 ルシフの思いもよらぬ言葉に、アユムは一瞬耳を疑った。今までの失敗、どうみても自分の浅はかな考えによるものであろう。だが、彼はそれを否定して、とんでもないことを口にしたのだ。自分の人生が、神に操作されていた。あまりに衝撃的で、信じられない言葉だった。


 「・・・どういうことです?僕の運命が、操作されていたって?」


 「文字通りだよ。君はことあるごとに不幸に見舞われていたけど、これは偶然じゃない。全部、ヒュームによるものだったんだ。」


 ルシフは語る。神は、自分の創造物の運命に干渉し、自身の思うような運命に書き換えることができるのだという。だが、あまりにも非道で創造物をないがしろにするような能力であるため、ルシフはおろか、他の神々さえ使おうとはしなかった。


 だが、ヒュームはこの能力をよく使い、いろんな人間を自分の思い通りの道に進ませてきたのだという。

 

 「他の神々も問題あるけど、運命操作をしない点だけ・・はマシさ。でも、ヒュームはこの能力をバンバン使うんだよ。」


 「・・・どうして・・・そんなことを・・・?」


 「ヒュームの本性。慈悲深く、苦難を乗り越えたものに力を与える神。でも、それは全部嘘なんだ。ヒュームは、創造物に愛着なんて欠片も持ってはいないんだよ。」


 「持っていない・・・?」


 「彼にとって人間は、玩具か道具のどちらかなんだよ。退屈しのぎのために、たまたま目に入った人間の運命を弄って不幸にする。そして、それに潰されてしまう人間を見て笑っているんだよ。もし、不幸に抗おうとするのなら、もっと苦難を与えて、報われると見せかけて突き落とす。彼は、抗おうとする人間が希望を掴み、絶望に突き落とされる様を見るのが何より楽しいらしい。よく言ってたよ。『苦しい時祈る人間達の姿は、見ていて最高だ。だから、もっと面白くするためにそうするんだ』って。」


 「・・・何なんですかそれ?僕、そこまで信仰心がある方じゃないですけど、ヒュームには祈りを捧げて、感謝もしていました。彼は、自分を信じてくれる人間をそんな風に見ていたんですか?」


 「そうだよ。それに、ヒュームにとって、人間達の信仰心なんて興味がないのさ。彼にとって、自分に祈りを捧げることは当たり前・・・・なんだ。創造主だから、創造物である人間が祈るのは当たり前。当たり前のことをしていても、それが凄いなんて思わないだろう。だから、どんな信心深い者を見ても、ヒュームは何も感じないんだよ。だから、助けることもしない。そもそも、助けようなんて気も起こさないよ、彼は。興味がないものに手を差し伸べるわけないからね。」


 「・・・じゃあ、試練を乗り越えた人間に与える祝福は・・・。」


 「あんなの、ただの見た目が派手なだけの演出だよ。実際に何の力も与えていないんだ。仮に与えるとしたら、君のように道具として価値がある場合だけだよ。」


 「道具としての価値?」


 「さっきも言ったけど、人間は種族的には最弱だ。他種族と一対一で戦えば、相当な手練れでなければまず負ける。それに、魔物の存在もある。ヒュームは、人間は大切にしないけど、勢力は広げてほしいと思っている。自分が強くなるためにね。だから、人間を脅威から守れる道具が必要なんだよ。つまりは戦士だね。その最強の存在が、勇者なんだよ。」


 「・・・じゃあ、力が与えられるのは、戦士になれる人間だけってことなんですか?」


 「そう。でも、戦士を作るのは楽じゃない。弱い人間に力を与えても、耐えられないからね。だから、力を欲するように仕向けてやる必要があるわけさ。そのための運命操作だよ。君みたいに、真面目で他の人間のために、身を削るようなタイプがいい。そういった人間は、誰よりも他人を助けようと努力するから、自然と力に耐えられる身体になっている。それに、多少の不幸があっても、へこたれないで前に進もうとする。そんな人間の運命を操作して戦士にし、力を与えて人間の敵と戦わせるんだ。」


 「・・・僕の聖剣を使える適正も、道具としての利用価値があるから与えられた?」


 「そう。そして、君以外の適正者も、ヒュームの道具としての価値があると見做されたから適正を与えられたんだよ。ただ、今回は君の力が抜きん出ていたから、君が勇者になれるようにしたんだ。もし、君がもう少し弱ければ、別の人間が君の代わりに勇者となり、君のような目に遭っていただろうけどね。」


 「・・・。」


 自分達の神の本性を知り、アユムはゾッとした。ヒュームの気まぐれで、今まで幸せだった人間が滅茶苦茶にされるということもあり得るのだと思うと、ただただ恐怖を覚えた。そればかりか、試練には何の意味もなく、ヒュームに価値がないと見做されれば、何も与えられずに潰され、見做されても道具としての価値しか求められず、結局使い潰される。これでは人間は、文字通り人形だとアユムは思った。


 「そして、この悲劇は君だけじゃない。君の仲間もなんだよ。思い出してみなよ。君の仲間。監視役の賢者以外、脅威的な成長を遂げただろう?確かに、秘めた資質があったのは事実だ。彼らはよき指導者に会えなかったから、その才能を伸ばせなかった。でも、それ以上に彼らは強くなった。あれも、ヒュームが道具として価値ありと判断したからなんだ。君達は、ヒュームが世界を独占するために選ばれた、最強の道具だったんだ。」


 「・・・最強の・・・道具・・・。」


 「君の、いや、君達の人生は、何もかもヒュームの目的のためのものだった。どんなに頑張っても、ヒーローになれるわけがない。ましてや、普通の人間として生きることなんて、できるわけなかったんだ。今までの勇者達と同じようにね。」


 「?今までの勇者?」


 「そうだよ。歴代の勇者も、人間を魔物や他種族との戦争から守ったりして英雄として記録が残ってる。けど、彼らは皆、悲劇的な最期を遂げているんだ。」


 「・・・それは知っています。魔物の大群から仲間を守るために一人残って死んだ勇者の話がありました。でも、勇者の中には、国の王にまでなった人もいたはずじゃ・・・?」


 「・・・あの英雄譚、嘘が多分に含まれてるよ。まず、国王になった勇者は一人もいない。故郷に帰って幼馴染と結婚して幸せに暮らして、その一族が国を裏から守ってるっていうのもでたらめだよ。」


 「え?」


 「歴代の勇者達は皆、時の権力者に始末されたんだよ。君達みたいにね。」


 「・・・どういうことです?」


 「歴代の勇者達は、君みたいに正義感が強く、世の中をよくしたいと願う人間だった。そして、他人のために傷付くことも辞さなかった。・・・そんな人間が功績を上げれば、人々は彼らを支持する。そうなれば、彼らを持ち上げようと思う人間が現れる。或いは、世の中の理不尽を正そうと自ら立ち上がる。でも、そうなれば権力者は困る。自分達の権益が失われる。でも、勇者の名前の影響力は絶大だ。無視できない。そこで、彼らは勇者を秘密裏に殺害して、人々にはその死を英雄的な最期を遂げたと偽ったり、容姿の似た人物を洗脳して、勇者に成り代わらせて王に祀り上げ、裏から国を支配したりした。どの勇者もそんな感じの最期だよ。君もそうだよね。仲間に裏切られて死んだ悲劇の英雄。そして、ここから先は、君は知らないだろうけど、暗殺の黒幕は他種族だってことにされているんだ。」


 「・・・。」


 アユムは再びゾッとした。自分の人生が作られたものであったことも衝撃的であったが、それ以上に、歴代の勇者達も自分と同じ被害者であったことがショックだった。


 騎士に絶望し、真に人々を救える存在を求めていたアユムにとって、英雄譚に出てくる勇者達は、まさに希望の光だったのだ。だが、それが時の権力者によって歪められたものだと知らされたことで、彼の中の大事なものが、音を立てて崩れ出していった。


 「・・・これも、ヒュームの意思なんですか?」


 「半分はね。いくらヒュームでも、不幸にするように操作しても、不幸の詳細までは指定できないんだ。運命操作はかなり大雑把なんだよ。まあ、権力者とヒュームの利害が、結果的に一致したからこうなったんだろうね。不要な道具をできれば楽しんで処分したいというヒュームの運命操作と、勇者を目障り思って始末しようとする権力者の邪悪な思惑がね。」


 「・・・そんな・・・そんなのって・・・!」


 心の中の何かが壊れていくアユムの中に、別の感情が入り込んでくる。それは、後悔、怒り、絶望だった。自分は歴代勇者の無念も何も知らず、作られた英雄像を妄信し、勇者になって世界を救いたいなど言っていた。それを思うと、アユムは自分の選択に後悔した。自分の無知が許せなかった。勇者達の守ったものを奪い取り、食い散らかすけだものが世界を支配しているという現実に絶望した。いつしかアユムは、涙を流していた。


 「・・・悔しいかい?自分の運命が、報われないようにされていたことが。」


 「・・・悔しいです。・・・でも、それ以上に、歴代の勇者達もこんな目に遭っていたなんて・・・!・・・それなのに、僕は何も知らないで、世界を救える英雄としか思っていなくて・・・!」


 後悔、怒り、絶望は、どんどん憎しみへと変わっていく。だが、これは自分を殺した人間達へという単純なものではない。平和を願い、人々のささやかな幸せを守ろうとした勇者達が、使われるだけ使い潰され、最後には用済みとして消される。これが昔から繰り返されていたという理不尽、この世界のシステムだった。その理不尽なシステムに、アユムは心底激怒し、憎悪したのだ。


 この時、アユムは初めて、いや、今まで見ないようにしていた何かに対する憎しみを知ったのだ。


 「・・・君は、この世界が許せないかい?」


 「・・・はい。僕みたいな・・・いいえ、僕よりずっと世界を平和にしたいと思っていた人達が、どうしようもない人間達の道具としていいように使われて、最後には切り捨てられる・・・。しかも、死んでもなお利用されている!それを、神は面白いからと肯定する!僕は許せない!皆を殺したあいつら以上に、こんな世界の理不尽が許せない!」


 「・・・ふふふ。君はそう言うと思ったよ。そんな君に、いい相談があるんだ。聞きたいかい?」


 「いい相談?」


 「僕と契約して使徒になってくれないかい?そうすれば、君を生き返らせてあげるよ。」


 「!本当に!?」


 「もちろん。ただし、色々条件がある。まずは、君そのものを生き返らせるわけじゃない。君とある人物の肉体と魂を融合させて蘇らせる。これが、第一の条件だ。」


 「・・・第二の条件は?」


 「・・・僕達、神々を滅ぼしてほしい。」


 「神々を?」


 アユムは、第二の条件の意味が分からなかった。ヒュームや他の神々は分かる。だが彼は、『僕達・・』を滅ぼすよう言ったのだ。


 「・・・どうしてそんなことを・・・?」


 「神は、もう世界に悪影響しか与えないからだよ。ヒュームがいい例だ。それに、他の神もね。」


 「でも、どうしてあなたまで?」


 「世界は親離れが必要なんだ。神が一人でも残ることはよろしくない。・・・それに、子供が死んで、親だけが生きてるっていうのも、よろしくないじゃないか・・・。」


 「・・・。」


 アユムは察した。ヒュームや他の神々に悪態を吐いていたルシフだが、本当に嫌っているのは自分自身だと。世界のバランスを守ることができず、自分の子供ともいえる魔族を根絶やしにされ、自分だけ生き残ってしまった。彼は、自分自身を一番憎んでいるのだと。


 アユムは、ルシフの深い悲しみと絶望を感じ取り、共感した。そして、アユムはルシフの提案を受け入れることにした。


 「・・・分かりました。あなたと契約して使徒になります。」


 「ありがとう。」


 「それで、僕は誰と融合するんですか?」


 「彼だよ。・・・もう出てきてもいいよ。」


 ルシフに言われ、一人の男が突然現れた。その男に、アユムは見覚えがあった。


 「!・・・お前は・・・!」

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