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救世主魔王 魔勇者ベリオン  作者: レイス
第1章 魔勇者の資金稼ぎ編
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第44話 魔勇者異常発生を解決する(前編)

 「早く逃げろ!」


 ウルフの縄張りで戦っていた冒険者達は、我先にと逃げ出していた。迫りくるグレイウルフやブラックウルフの大群、追いつかれれば間違いなく死ぬだろう。


 「うわ!?」


 そんな中、冒険者の一人が、木の根に足を取られて倒れ込んでしまう。


 「た・・・助け・・・!」


 「!あいつが!」


 「もう無理だ!お前まで死ぬぞ!」


 「・・・くっ!」


 助けに行こうとした冒険者を、隣を走っていた冒険者が制する。他人を気遣う余裕も、今はなかった。


 「う・・・うわああああ!」


 冒険者の背後から、大勢のウルフ達が迫る。もう駄目だと観念した冒険者。だが、ウルフ達が冒険者を食い散らかすことはなかった。


 「ギャン!?」


 突然、曇った動物の鳴き声が聞こえた。それを聞いた冒険者は、恐る恐る後ろを向くと、そこにはバラバラになったウルフ達の姿があった。


 「!?」


 「巻き込まれたくなければ早く行け!」


 「!お前は・・・ベリオン!?」


 冒険者は、目の前の光景に驚愕した。そこには、禍々しい剣を持ってウルフ達を屠るベリオンの姿があった。


 「な・・・何でお前が・・・!?」


 「早く行け!行かなければお前もこうなるぞ!」


 「!あ・・・ああ・・・!」


 冒険者は、慌ててその場から逃げていく。それを見たベリオンは、ウルフ達の大群に向かっていく。次々に飛び掛かってくるウルフ達を、種類を問わず切り捨てていく。時折、ダゴンの飛ぶ斬撃も使用し、ウルフ達を決して後ろには行かせなかった。


 「・・・やはり凄い・・・!上位種のウルフの群れを一人で・・・!」


 その様子を見ていたミランは、ベリオンの凄まじさに改めて戦慄していた。ゴブリンの群れの壊滅も凄まじかったが、これは、それ以上であった。ベリオンに向かってくるウルフが、近付いた瞬間死体に変わるのだ。それは、あまりに異質で、異常な光景だった。


 ものの数分もしないうちに、ウルフ達の数は激減し、ついにボスのグランドウルフが現れた。周囲には、血のように真っ赤なウルフ達が控えていた。


 「・・・まさか、ブラッドウルフまでいるとはな・・・この戦力ではどうしようもないわけだ。」


 「ワオーン!」


 グランドウルフが吠えると、ブラッドウルフ達は、ベリオン目掛けて飛び掛かる。


 「グランドウルフも、ゴブリンロード同様に同種への強化能力を持っていたな。・・・なるほど。」


 ブラッドウルフ達は、ただ飛び掛かってきているわけではないとベリオンに見抜く。なんと、ウルフ達は、正面から単純に襲うのではなく、攻撃する位置や角度を変えたり、時間差で飛び掛かったりなど、かなり知性的な動きを見せ、ベリオンを攻撃してきた。


 「だが、使った相手が悪い!」


 ベリオンは動じず、冷静に飛び掛かってくるウルフ達を切り捨てていく。まるで、ウルフ達がどこを攻撃してくるか、最初から分かっているかのようだった。ブラッドウルフ達は、一分もしないうちに全滅していた。


 「ガウー!」


 配下を悉く倒されたことに怒ったのか、グランドウルフはついに、自身でベリオンに攻撃を仕掛けてきた。


 「ようやくボス直々が来たか!こい!」


 グランドウルフは、正面からベリオンに向かっていく。だが、次の瞬間、グランドウルフは、横に瞬時に移動し、またベリオンの方へと向かって走る。それを、何度も繰り返しながら、ベリオンへと近づいていく。そして、ついにベリオンへと飛び掛かる。狙いは喉元。グランドウルフは、変則的な動きでベリオンに動きを読ませないようにして近付き、喉元を食い千切ろうとしていたのだ。


 「・・・中々頭を使っているが・・・所詮は獣だ!」


 ベリオンはなんと、グランドウルフの大きく開けた口を両手で掴み、止めてしまう。


 「ウルフは敵の急所を狙う戦いが得意だ。なら、自ずと攻撃してくる箇所が分かる。残念だったな!」


 ベリオンはそのまま、グランドウルフの顎に力を入れ、引き裂く。グランドウルフの身体は、そのまま真っ二つになり、絶命した。


 それを見た他のウルフ達は、ベリオンに恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


 「・・・やったようだな。」


 グランドウルフが倒され、他のウルフが逃げ散っていくのを確認したミランは、ベリオンの許へと駆け寄る。


 「ああ。あの様子なら、もう他の冒険者に任せても大丈夫だ。」


 「・・・というわけだ。ここから反撃開始だぞ!」


 すると、ミランの後ろから、先ほど逃げていた冒険者達がやってきた。彼らは皆、ベリオンの戦いを見、その圧倒的な力に驚愕していた。


 「・・・マジかよ・・・Bランクの魔物の群れをたった一人で・・・!?」


 「そもそも、あんな大群じゃ、Aランク相当じゃないのか?それを一人で片付けるなんて・・・!?」


 「・・・ベリオンって・・・あんなにヤベー奴だったのか・・・!?」


 冒険者達は、追撃も忘れてベリオンの凄まじさを話していた。


 (・・・予想以上に驚いているな。・・・まあ、一般の冒険者のレベルの戦いではないから仕方ないか・・・。・・・さて、では、仕上げをするとしよう。)


 ベリオンは、冒険者達を無視すると、足元の石を拾い、何もない場所にそれを投げる。


 「ぎゃ!?」


 すると、そこにはゴブリンの時と同じように、フードを被った男がいて、痛みで蹲っていた。


 「!?誰だ、あいつは!?」


 冒険者達は、突然現れた男に戸惑う。だが、ベリオンは冷静にミランに指示を出す。


 「ミラン、拘束しろ。あいつの仲間だ。」


 「分かった。」


 ベリオンに指示されたミランは、すぐに男を拘束する。


 「ちっ!お前・・・何者だ!?お前のことなどデータになかったぞ・・・!」


 「最近、この町に来た新米冒険者だ。知らなくて当然だ。」


 「お前のような新米がいるか!そもそも、その魔剣!何故魔剣を使える人間がここにいる!?あり得ない!情報にはないぞ!」


 自身の情報に全くないベリオンに困惑し、喚き散らすフードの男。そこに、冒険者の一人が怪訝な顔でベリオンに近付く。


 「・・・ベリオン。そいつはいったい誰なんだ?何でこんな所に?」


 「今回の異常発生を引き起こした一味の一人だ。」


 「何だって!?」


 「こいつがか!?」


 「まさか、今回の異常発生は、人為的なものなのか!?」


 異常発生を引き起こした一味と聞き、冒険者達は殺気立つ。異常発生は、多くの人命が失われる、まさに災害ともいえるものである。それを人為的に発生させていたと知れば、犯人に対して怒りや殺意が湧き上がるのは当然である。このままでは、自分達も仲間も、世話になっている町の人間達も死んでしまうかもしれないのだ。冒険者達の中に生じた怒りは、あっという間に爆発寸前にまで高まっていく。


 「この野郎・・・!」


 冒険者の一人が、剣を抜きフードの男を切ろうとする。だが、ベリオンはそれを制する。


 「待て。まだ・・殺すな。聞きたいことがある。それに、一味と言っただろう。まだこいつらの仲間がいる。こいつだけ殺しても意味がない。それに、やるのなら他の冒険者達と共に、こいつら全員を断罪する方がいい。事実を知れば、他の冒険者も裁きたいはずだ。それを独り占めするのは駄目だろう。」


 「!」


 ベリオンに諭され、冒険者は剣を鞘に納める。


 「お前達、こいつをしっかり確保しておいてくれ。俺は、次の縄張りへ行って助けにいく。」


 「!助けって・・・?」


 「他の所も、ここと同様に苦戦しているはずだ。だから、俺が救援に来た。」


 「・・・そう・・・だったのか・・・。・・・?ちょっと待て、お前の担当していた所はどうなったんだ?」


 「もう制圧した。今頃、残りの魔物を殲滅して集合地点に戻っているはずだ。こいつの仲間を確保してな。お前達も、残りの魔物の処理が終われば、こいつを連れて集合地点に向かってくれ。」


 「・・・分かった。俺達もお前を手伝いたいが・・・さすがに限界だ。生き残りのウルフ共を始末したら、集合地点に戻る。」


 「頼む。・・・ああ、そうだ。こいつは殺しては駄目だが・・・生きてさえいれば、何をしても構わない。話ができるなら、どんな状態でもいいぞ。」


 「!・・・ああ、分かった。絶対に生きて・・・合流地点へ連れて行くさ。・・・絶対に死なせない・・・・・。」


 「任せてくれよ。約束は守るぜ。」


 ベリオンの言葉を意味を理解した冒険者達は、含みのある言い方で、フードの男を連れて行くことを約束した。


 「では行くぞ。ミラン、案内を頼む。」


 「ああ。・・・ベリオン、ありがとうな。」


 ベリオンをミランは、次の縄張りへと向かって行く。後には、フードの男と冒険者達が残された。


 「・・・さて、こいつからは色々聞き出さないといけないから、殺したら・・・・駄目だったよな?」


 「ああ。だが、殺しさえしなければ、何をしてもいいんだってな。」


 「ああ。殺さなければ・・・な。」


 「・・・お・・・お前ら・・・何を・・・!?」


 冒険者達のただならぬ空気に、男は怯える。


 「・・・怪我はウルフにやられたってことにしておけばいいな。」


 「だな。不幸にも・・・・・ウルフに襲われてズタボロになりましたでいいな。」


 「ひっ!や・・・やめ・・・!」


 冒険者達は、身動きの取れない男をリンチにかけるのだった。




 「はあ!はあ!・・くっ!」


 フレムは、トレントの大群-その奥にいるひと際巨大なトレント-を睨んでいた。あれが、トレントのボスであることは明白だった。


 「あのビッグトレント・・・あいつも火属性の攻撃が効きにくい・・・!」


 「フレム!もう駄目だ!撤退するぞ!」


 「・・・まだだ!・・・まだ終わってない!ようやくボスが出てきたんだ!ここで何としても倒す!」


 フレムは、仲間の制止を振り切り、火魔法を使う。だが、疲労が蓄積したことで集中力が落ち、魔法の威力が低下したことで、取り巻きのトレントすら倒すことができず、奥にいるビッグトレントに攻撃が当たることはなかった。


 「ぐっ!・・・駄目か・・・!」


 長時間の戦闘と魔法の連続使用がたたり、フレムはついに膝を付く。トレント達の群れがじわりじわりとフレム達に迫る。


 (・・・もう打つ手がない・・・ここまでか・・・!)


 さすがのフレムも打つ手がなく、諦めが脳裏に過る。だが、そんなトレントの大群の一部が、何かによって一閃される。


 「!?何だ!?」


 驚愕するフレム。そこには、ダゴンを持ったベリオンの姿があった。


 「・・・ベリオン・・・!?」


 「・・・よく持ち堪えたな。さすがはこの町のエースだ。」


 ベリオンはフレムに微笑むと、トレントの大群を睨む。


 「・・・後は俺がやる。お前達は下がっていろ。ミラン、フレムを下げてくれ!」


 「分かった。フレム、下がるぞ。」


 ミランは、フレムに肩を貸し、下がらせようとする。しかし、フレムはそれに抵抗する。


 「駄目だ!あいつらはただのトレントじゃない!防御力が高い上、火に耐性がある!俺の魔法でようやく倒せるレベルだ!」


 「・・・なるほど。支援魔法をかけられているようだな。おまけにファイアレジストもかけられているな。これでは普通の方法で戦っても苦戦するわけだ。」


 「!?ベリオン・・・お前、敵の能力が分かるのか!?」


 「ああ。どうやら、こいつらは強化されているようだ。知らないで戦えば、苦労して当然だ。・・・だが、俺の敵ではない。」


 そう言うと、ベリオンはダゴンに魔力を込めようとする。


 「!?何をするつもりだ!?」


 「ダゴンの範囲攻撃の範囲を広げる。これなら通るだろう。」


 「・・・ベリオン・・・まさかその剣・・・魔剣か!?・・・どこでその魔剣を!?・・・いや、そもそもお前・・・魔剣が使えるのか!?」


 「黙っていろ!ミラン!早く連れて行け!巻き込むかもしれん!」


 「分かった。フレム、ここはベリオンに任せるぞ。」


 「・・・分かった。」


 フレムは、渋々といった様子でミランに連れられて下がる。


 (・・・よし。これなら巻き込むこともないだろう。・・・さて、何倍にしてみるか・・・。まあ、最初は二倍だな。)


 ベリオンは、魔力を二倍ほど吸わせてみる。スキル【MP消費半減】により、本来なら10消費するところを5でそれが発動可能となる。


 「断ち切れ!」


 ベリオンは、ダゴンの能力を発動し、トレントを切り裂く。ダゴンの斬撃は、目の前のトレント達を切り倒し、勢いが死ぬことなく奥にいたビッグトレントまで達した。


 「・・・!」


 ビッグトレントは、他のトレント同様に、ダゴンの斬撃で両断され、大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。斬撃はそれでも止まることなく、後ろにもいたトレント達も切り倒し、ほぼすべてのトレントを倒し、ようやく消えた。


 「・・・そんな・・・あの数のトレントを一瞬で・・・!」


 ベリオンの力に絶句するフレム。だが、ベリオンは、あまりの威力に少々困惑していた。


 (・・・二倍にしただけでこの威力とは・・・想像以上だ。三倍にしていれば、どうなっていたか・・・。これは、二倍以上は非常時以外使わない方がいいな。)


 「・・・なあ、ベリオン。助けてもらっておいて悪いんだが・・・。」


 ダゴンの力は必要以上に使わないようにしようと心に決めるベリオン。そんなベリオンに、危機を脱したフレムは、自身が抱いた疑問をベリオンに尋ねてきた。


 「そんな魔剣、いつ手に入れたんだ?・・・そもそもお前、ゴブリンはどうしたんだ?お前はミランとゴブリンの縄張りに行ってたはずじゃ・・・?」


 「・・・ゴブリンの件は片付いた。だから、ここに救援に来た。この魔剣も、ゴブリンのボスのロードが持っていた剣だ。」


 「魔剣を持ったロードだと!?よく勝てた・・・いや、お前なら勝てるか・・・。・・・って、もう片付いたのか!?俺達がこんなに苦戦していたのに・・・!?」


 「ここは三か所目だ。ここに来る前、ウルフの縄張りを制圧してきたところだ。」


 「・・・マジか・・・!」


 「ああ、マジだ。俺がこいつと同行しているのがその証拠だ。」


 「!ミラン・・・!」


 疑問を口にするフレムに対し、ベリオンは既に自身の担当場所を制圧したことを伝え、ミランもそれに同意する。自分の担当していた場所を制圧したばかりか、既に他の場所を救援し終えていたことに、フレムは驚愕と同時に困惑した。


 自分の力では、同じことなどできない。たとえ、魔剣が使えたとしても。なのに、目の前の男は、それをさも平然とやってのけたというのだ。信じられないと思うのも当然である。だが、ミランが嘘を吐くような男でないのは分かっている。それに、ベリオンもそんな人間には見えなかった。信じざるを得ない状況であった。


 「・・・さて、芸のない男を捕まえて次に行くとしよう。」


 「拘束は任せてくれ。」


 「?」


 ベリオンは、今までのように隠れていたフードの男を捕らえると、フレム達に後を任せ、ミランと共に次の場所へと向かうのだった。

長くなったので分割します。

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