第34話 魔勇者魔法の使い方を教える
「で、私は何をすればいいのかしら?」
協力してくれる女魔法使い-レベッカと名乗っていた-は、ベリオンに何をすればいいのかを尋ねる。
なお、彼女の仲間の他の冒険者達は、ログとロンの訓練の相手をしてくれることになり、彼らを扱いていた。
「今からお前の魔法の行使を見たい。見せてくれないか?」
「いいわ。それくらいお安い御用よ。」
「では、ファイアショットで頼む。」
「分かったわ。」
レベッカは、木人の方を向くと、一呼吸してから詠唱を開始する。その時の呼吸は、ベリオンが知る人間式の呼吸であった。
(・・・この女はしっかり人間式の呼吸をしているな。)
「ファイアショット!」
レベッカの杖から火球が放たれる。それは、ロナのものより大きく、木人は簡単に消し炭になってしまう。
「どうかしら?」
「・・・見事なものだ。レベルで言うなら5はあるだろう?」
「あら、分かる?まあ、あなたほどの達人なら、分かっても当然ね。」
レベッカは、クスリと微笑む。
「ところで、お前はどこで魔法を覚えた?」
「我流よ。先輩だった冒険者に簡単に手解きを受けたけど、基本は独学よ。」
「では、学校で魔法を習ったわけではないんだな?」
「ええ。そもそも、冒険者になる魔法使いは、学校に通えなかった人間が大半よ。稀に、退学した子も来るようだけど。」
「うう・・・私はそのタイプです・・・。」
レベッカからの話を聞き、ロナはいじけたように座り込んでしまう。独学で魔法を覚えた先輩の方が、勉強していた自分より遥かにうまいのを見て、自分に才能がないのだと改めて痛感し、完全に自信を喪失してしまったのだ。もっとも、経験豊富な中堅冒険者であるレベッカと、駆け出しのロナを比較すること自体、意味がないことなのだが。
「・・・レベッカ。実は、彼女が魔法があまりうまくないのは、行使に問題があると思うんだが・・・見てくれないか?」
「行使に?」
「説明するより、やっているのを見た方がいいと思う。ロナ、もう一度やってみてくれ。」
「は・・・はい・・・。」
ロナは、元気なく立ち上がると、木人に向き、魔法を行使を始める。
「・・・?あれ?あの呼吸の仕方・・・?」
それを見ていたレベッカも、ベリオン同様違和感を覚えていた。
次の瞬間、ロナはファイアショットを発動し、木人を攻撃する。木人は、やはり多少焦げた程度で原形を留めていた。
「・・・は~・・・やっぱり私なんて・・・。」
「・・・その呼吸、ちょっと変じゃない?」
愚痴を零そうとするロナの言葉を、レベッカが遮る。
「え?・・・呼吸?」
「魔法を詠唱する際、一呼吸するでしょう?あなたのそれ、変よ。」
「変?呼吸?・・・あの、さっきから何を言って・・・?」
「レベッカ、ロナのやっていた呼吸で魔法を使ってはくれないか?」
「・・・いいわ。」
レベッカは、木人に向くと、ロナのやっていた呼吸法で魔法の行使を行う。すると、明らかに変化があった。
(!やはり、魔力の集まり方が弱い!)
「!?・・・ファイアショット!」
レベッカは、ファイアショットを放つ。だが、その際出た火球は、前に彼女の出した火球とは比較にならないほど小さいものだった。火球は木人に直撃したものの、破壊には至らず、全体が焦げた程度だった。
「え?どうして?だってさっき・・・?」
あまりの出来事に、ロナは困惑する。最初に見たレベッカのファイアショットは、木人を簡単に消し炭にしたというのに、今のレベッカの魔法は、自分よりちょっと強い程度の威力しかないのだ。あまりの弱体化に彼女は驚いたのだ。
「・・・これで決まりだな。ロナ、お前の呼吸法は間違っている。」
「え?呼吸法が?」
「・・・そうね。使ってみたけど、この呼吸法はないわ。これじゃあロクに魔法なんて使えないわよ。」
「え?ええ???」
二人の指摘に、ロナは理解できないといった顔をする。
「ロナ。レベッカの使っていた呼吸法をやってみろ。そうすれば分かる。」
「・・・はい。」
ロナは、木人に向くと、言われるままにレベッカの真似をして魔法の行使を行う。すぐにその差は顕著に表れた。
(・・・よし、魔力がしっかり集まっている。これなら・・・。)
「ふぁ、ファイアショット!」
ロナは魔法を発動する。すると、今まで小さかった火球が、とても大きな火球になっていた。その火球は木人に直撃し、木人は大きく欠損していた。
「!?何・・・これ・・・!?」
当のロナは、自分の魔法の威力に唖然としていた。無理もない。今まで劣等生の烙印を押されていた自分が、いきなりこんな魔法を使うことができたのだ。信じられなくて当然である。
「す・・・凄い!ロナの魔法、こんなに強くなってる!やったね!」
一方、もう一人の後衛であるロミは、ロナの魔法を素直に褒めていた。魔法のことになると、全く自信を持てない彼女を、ロミは心配していたのだ。
「・・・でも・・・どうして・・・?私、こんな魔法、今まで使えなかったのに・・・?」
「単純な話だ。呼吸法に問題がある。」
「?呼吸法?・・・あの、さっきも言ってましたけど、私の呼吸法に何か?」
「魔法の行使の際、何が重要かは分かるか?」
「は、はい。魔力と詠唱、そして、呼吸法だと。」
「そうだ。・・・どうも、お前の呼吸法は、間違ったもののようだ。」
「え?・・・でも、あれは先生が授業で教えてくれたもので・・・。」
「・・・ねえ、本当に授業で教わったの?他の子も、本当にあんな呼吸でやっていたの?」
レベッカは、ロナの呼吸法が本当に学校で教わったものなのか尋ねる。これは、ベリオン自身も気にしていたことだった。
魔法学校では、一人前の魔法使いになるべく教育を施している。いくら落ちこぼれとはいえ、基礎ができていないなど、余程不真面目でない限りあり得ない。見たところ、ロナは真面目な人間である。そんな人間なら、なおさら基礎ができていておかしくない。そもそも、エルフ式の呼吸法など、誰かに聞かなければ普通はやろうと思わないのである。不真面目な人間なら、なおさらできるものではないのだ。
ロナは、レベッカに尋ねられても黙り込んでいたが、観念したのか小さな声で話し出す。
「・・・実は・・・この呼吸法は、先生が私に特別に教えてくれたものなんです。『君には才能があるから、他の子よりうまくなるいい呼吸法を教えるよ。ただし、これは皆には秘密だよ。』って。」
「教師が!?あんな間違った方法を教えたって言うの!?」
ロナからの告白に、レベッカは驚愕した。当然である。生徒を導くべき教師がそんな間違いを教えるなど、信じられないことである。一方、ベリオンの方はというと、どこか不愉快そうな様子であった。
「・・・なるほど。お前は教師に騙されて、本来とは違う呼吸法を教えられていたわけか。これでは魔法が弱くて当然だ。今使った呼吸法が、適切な呼吸法だ。」
「そんな・・・先生・・・優しい人で・・・うまくできない私をいつも励ましてくれて・・・退学する時も・・・相談に乗ってくれて・・・それが・・・それが・・・!」
ロナの方は、今まで自分が嘘を教えられてきたということが信じられないようだった。それだけ教師を信じていたのだろう。徐々に彼女の目には、涙が浮かんでいた。今にも泣き出しそうである。
「ロナ・・・。」
そんなロナを、ロミは優しく抱き寄せる。
「辛かったよね?悔しいよね?信じていたんだもんね?だから、今はいっぱい泣いて吐き出そうね?」
「・・・うん・・・。」
ロミの言葉がきっかけで、ロナは大きな声で泣き出す。あまりの大きさに、訓練していたログと冒険者達が、思わず手を止めてしまうほどだった。
「・・・。」
だが、ベリオンはそんな彼女を見て、不快感を募らせていた。別に、彼女が泣いているからではない。彼女に嘘を教えて才能なしのレッテルを貼らせ、学校から追い出すよう仕向けた教師にである。
(・・・何故こんなことをした?彼女が何をした?ただ単に、魔法を学ぼうとしていただけだろう。何故それを邪魔した?何故その機会を奪った?・・・ふざけるな・・・!)
ベリオンは、無意識のうちに拳を血が出るまで握り締めていた。
「・・・!ベリオンさん!手に怪我を!」
しばらくして、ロミが慌ててベリオンに回復魔法をかけていた。暖かい光がベリオンの手を包み、ベリオンの傷を癒していく。
「!ああ、すまないな。まさか、怪我をしていたとは思わなかった。」
「よかった・・・ちゃんと治せて・・・。・・・あ・・・。」
ベリオンの傷を治してホッとしたロミは、そのまま倒れるように座り込んでしまう。
「!おい、大丈夫か?」
「!ロミ!回復魔法を使うのは非常事態だけって言ったでしょう!」
座り込んだロミに、ロナが駆け寄る。口調こそ強かったが、その表情には焦りが見えていた。
「・・・大丈夫・・・立ち眩みがしただけだから・・・。」
「・・・ロミ、やっぱり神官はやめた方がいいんじゃない?いつも使って倒れてたら、誰も組んでくれなくなるわ。」
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・。」
先ほどとは一転、ロナがロミを気遣う形になる。周囲に気まずい空気が漂う。
「・・・。」
しかし、ベリオンの方は、ロミの症状と状況を冷静に考えていた。
(・・・この症状・・・魔力の枯渇が原因だな。だが、これはレベル1のヒールだ。一回使っただけで魔力切れなどあり得ない。魔力の低いドワーフでも、最低三回は使えるはずだ。)
「・・・ロナ。この女はいつも回復魔法を使うとこうなるのか?」
「え?・・・はい。この子、回復魔法を使うといつもこうなるんです。」
「回復魔法を?・・・他の魔法は違うのか?」
「はい。こうなるのは回復魔法だけなんです。他の魔法を使った時は、こうはならないんです。」
「あなた、この子のことよく知っているわね。最近組んだパーティなんでしょう?どうしてこんなに詳しいの?」
レベッカは、ロミについて詳しいロナに、何故詳しいのか尋ねる。
「私達、同じ村の出身なんです。魔法学校にも一緒に通っていたんです。私が退学した時も、私がいないなら自分もやめるって言って、付いて来てくれたんです。」
「!お前達、同じ学校の出なのか?」
「は、はい。そうですけど・・・。」
「・・・詳しく聞かせてくれ。この症状の原因が分かるかもしれん。」
「は・・・はい。」
ベリオンに言われ、ロナは自身とロミの過去を話し出すのだった。
強くなる機会を奪う人間がベリオンは嫌いです。
今後の展開のため、後ろの部分を修正しました。




