第31話 魔勇者異常発生の原因を考える
「いらっしゃいませ!猫々亭へようこそ!あ、お客さん。お帰りなさい。」
依頼を終えたベリオンは、自分が取っている宿に戻っていた。受付のメイド服を着た猫の亜獣人族の少女-ミミと名乗っていた-が、笑顔でベリオンを迎える。
猫々亭。異種族達の暮らす地区にある、猫の獣人・亜獣人達が営む宿である。宿のグレードは、人間の中民が泊まる宿に比べてやや落ちるものの、値段の割にサービスがいいことで評判だった。
本来、中民扱いであるベリオンなら、ここよりもいい宿に泊まれるのだが、中民用の宿の雰囲気が気に入らず、色々探し回った結果、ここに決めたのだ。
「今帰った。食事は、あとどれくらいでできる?」
「日暮れにはご用意できますよ。できましたら、お呼びしますね。」
「頼む。」
そう言って、ベリオンは自分の部屋に戻っていく。
「・・・複数の魔物の異常発生・・・か。」
部屋に戻ったベリオンは、ベッドに腰を掛けると、魔物の異常発生について考えていた。
「・・・君でもおかしいことくらい分かるようだね。」
そんなベリオンを、ルシフがからかうように言う。今のベリオンが、いつになく真面目そうな顔で考え込んでいたからだ。
「馬鹿にするな。異常発生が複合しないことなど、どの種族でも常識だ。アユムもブライも知っていた。」
「そうだね。・・・でも、君は複合できる可能性があることも、同時に知っているはずだ。ブライの記憶と知識からね。」
「・・・ああ。複合できる可能性・・・それは、人為的に異常発生を起こした場合だ。」
人間には知られていないが、異常発生は人為的に起こすことができるのだ。事実、魔族はそれを利用して修行を行っていたのだ。あと、エルフ族でもある禁術を使用することで、人為的に異常発生を起こせることは知られていた。
「人為的に起こした場合なら、競合を起こすことなく異常発生を複合させることも一応は可能だ。・・・だが、それをやるメリットがない。だから、今まで誰もやらなかった。」
「メリット?」
「そうだ。複数の魔物を異常発生させても、何のメリットもない。いくら魔族でも、そんな大群を相手にはできん。そして、エルフは人間と同様に魔物被害で頭を悩ませていた。複合どころか、異常発生自体やらないだろう。」
「まあね。そもそも、エルフの禁術は、魔法の研究の際に偶然できたものだからね。進んで使おうなんてしないね。」
「だからだ。今回の異常発生は、人為的なものと見て間違いない。・・・だが、その理由が分からん。」
「理由ね・・・。」
「この町を襲わせることに、何のメリットがある?ここは、そこまで重要な町ではないだろう。・・・それに、一体誰がこんなことをしているのか・・・。あれは、魔族とエルフしか知らない手段のはずだ。だが、魔族は滅んだ。残る可能性はエルフだが、ならなおさら、こんな町を襲わせる理由が分からん。人間に対する報復なら、王都・・・今は帝都か。或るいはそれに準ずる重要地点を狙えばいい。その方がダメージになる。そもそも、この禁術は、魔物を異常発生させるだけの術で、使役できるものではない。下手をすれば自分達の身も危険に晒しかねん。・・・どうも分からない。破れかぶれの自爆テロか?」
ベリオンは、この異常発生が人為的なものであるとは理解していたが、誰が何の目的でやっているのか想像できなかった。
この方法は、魔族とエルフだけしか知らないのだ。だが、この方法で異常発生を起こしたところで、魔物をコントロールすることはできない。そんな危険な方法を使ってまで、この町を襲う理由がベリオンには分からなかった。
主要都市を襲わせるのならまだ分かった。だが、この町は主要都市と言えるほどの町ではない。そんな危険を冒してまでやるメリットを感じられなかったのだ。
険しい表情で考え込むベリオンに、ルシフはクスクスと笑うと、ベリオンに語り掛ける。
「・・・確かに、昔はそうだったのかもね。ここはあくまで田舎の小さな町だった。でも、今もそうとは限らないよ。何度も言うけど、世界は相当変わっているんだ。この町も、昔のように単なる田舎の町じゃないんだ。」
「・・・今は、冒険者の町、だったな。」
「それに、犯人はエルフだとは限らないよ。魔族が滅び、他種族も侵略されたことで、彼らの管理していた技術や魔法が流出したんだ。だから、人間でも異常発生を人為的に起こす手段を手に入れられる可能性がある。或いは、それに類する術を知られていないところで作ったか・・・。だから、最初からこの町が重要でないとか、犯人がエルフとかって先入観は捨てた方がいい。」
ルシフに諭され、ベリオンはさらに険しい顔になる。今の自分の知る知識と情報だけでは、とても原因を導き出すことはできそうにないと痛感したからだ。
「・・・このまま考えていても、答えは出せそうにない。やはり、情報が圧倒的に足りないな。どうにかして手に入れなければならないな・・・。」
「だったら、他の冒険者に聞くとか、ギルドにある資料室で収集すればいいんじゃないかな。あそこは冒険者に無料で開放されているはずだよ。」
「なら、明日は情報収集をするとしよう。異常発生が起こると分かった以上、しばらく依頼は受けられそうにないからな。」
そう言うとベリオンは、そのままベッドに横になる。
(・・・何者かが意図的に起こした複合異常発生・・・。どうやって異常発生を起こしたのかは分からないが・・・こんな大それたことをするんだ。ただの雑魚ではないだろう。何か大きな存在がバックにいるはずだ。・・・面白くなってきたな・・・。)
横になったベリオンは、今後の戦いが過酷なものになるであろうことを思い、獰猛な笑みを浮かべるのだった。




