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救世主魔王 魔勇者ベリオン  作者: レイス
序章 魔勇者誕生
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第3話 勇者その悲惨な人生

 勇者アユムは、辺境の村で生まれた、ごく普通の青年だった。正義感が強く、昔から人々を救う仕事に憧れを抱いていた。当時の彼は、騎士に憧れ、いつかは王都に行き、立派な騎士となって正義をなそうと思っていた。


 だが、彼が七歳の頃、その夢は無残に打ち砕かれることとなった。それも、憧れていた騎士によって。


 彼の村を山賊が襲ったのだ。家族は殺され、幼馴染の少女ナミと共に山賊に捕らえられた。その山賊は、巷を騒がせる恐ろしい山賊団で、村を襲撃しての略奪放火は当たり前。女子供を攫って奴隷にして売り飛ばしたりもするという、極悪非道な連中だったのだ。


 このままでは、彼もナミも奴隷となる運命が待っていただろう。だが、そうはならなかった。あまりの被害にこれを看過できなくなった国は、山賊団壊滅を騎士団に命じ、山賊団の拠点を攻撃させた。如何に残忍な山賊達も、訓練された騎士達の敵ではなく、あっという間に壊滅した。アユムとナミは、救われたのだ。本来なら、この騎士達の姿に感動し、アユムは騎士への憧れをさらに強めただろう。


 だが、その救ってくれたはずの騎士団の姿に、アユムは失望した。団長や副団長は、救出された人間に対して横柄な態度を取り、労わるどころか見下す言葉ばかり吐いていた。そして、命じるばかりで自分では何もしなかった。下の騎士達は、救出者を優しく慰めたり、救出後、王都の孤児院で暮らすことになったアユム達子供の様子を見に来てくれるなど、配慮のできる人間達だったが、上司達から常に罵倒されて、肩身が狭そうであった。そんな騎士団の現実に、アユムは幼いながらも愕然とした。


 そして更に、追い打ちをかけることが起きた。山賊団壊滅の勲章授与が大々的に行われたのだが、受け取ったのは、団長、副団長だけだった。他の騎士達には、勲章はおろか、褒賞すら与えられなかったのだ。全て、上層部が独占してしまったのだ。


 アユムにとって、正義の味方と思っていた騎士団の醜い腐敗っぷりは、夢を諦めさせるには十分すぎた。アユムは自身の夢を失ってしまった。


 だが、アユムは諦めなかった。まだ正義のために働ける道があるのではないか。それを探した結果、彼は見つけたのだ。勇者という道を。人々を脅かす悪を打つ、正義の救世主、それが勇者だった。


 勇者になることを決めたアユムは、孤児院を出て、そのための厳しい修行を受けた。そして、十年近い修行の果てに、聖剣に選ばれ、勇者となったのだ。


 その後の彼は、人々に仇なす魔物や魔族との戦いに明け暮れた。誰よりも前に出て戦い、人々を救い、希望となるために。


 そして彼は、国王の命を受け、魔族の支配者魔王の討伐を命じられる。すべての魔物と魔族の王であり、悪の元凶。魔王を倒すこと、すなわちそれは、人々の平和と同義であった。


 魔王討伐のため、選ばれた仲間達と共にアユムは立ち向かい、激しい戦いの末に魔王討伐に成功した。これで、世界は平和になる。アユムはそう信じていた・・・。


 だが、アユムは現実を知らなかった。いや、一度夢を砕かれたことで、見ないようにしてきたのが正解か。


 平和になり、勇者としての役目がなくなったアユムは、滅ぼされた自分の村の跡地に孤児院を建て、魔物や魔族に家族を殺された子供達を引き取り、ナミと盗賊の仲間シーと共に育てることにした。忙しくも幸せな日々を過ごしていたが、ある日、突然国王から、王都への招集の命令を受けた。


 国王は、アユムに魔族以外の異種族の領土へ侵攻するため出撃するよう命じた。だが、アユムは理解できなかった。


 この世界は、人間以外にも多様な異種族が暮らしている。魔族はその一つであった。だが、好戦的で魔物を使役し、人間を脅かしていた魔族とは違い、他の異種族は人間に対して敵対しておらず、寧ろ友好的に接している種族もあったのだ。魔王討伐も、彼らの協力があったからこそ成し遂げられたといっても過言ではなかった。それに、彼らもまた、魔族の被害を受けていたのだ。そんな恩人でもあり、同じ被害者でもある彼らに剣を向けるなど、アユムにはできなかった。アユムはそれを国王に伝え、出撃を辞退した。


 その時はそれで収まったかに思われた。だが、国王はアユムを抜きにして出兵を強行、隣接していたエルフ族の国を攻撃したのだ。アユムは国王を諫めようとするが、かつての仲間であった賢者セイに止められた。


 「・・・勇者殿。もう止めることはできません。これは、最初から決められていたことなのです。」


 セイは語った。別に魔族は、一般人が思うほど人間の領域を侵略などしていなかったこと、最初から魔族の領土が狙いで討伐隊が組まれたこと、魔族を壊滅させたあかつきには、王国は他の異種族の領土にも侵攻し、占領する手はずであったこと、そして、自分は勇者パーティを監視し、王国の思惑通りに動かすために送り込まれた人間であったこと、そういった王国の裏の事実を暴露した。それは、今までアユムが抱いていた常識を、ことごとく否定するものだった。勇者は正義の味方ではなかった。国に利用されるただの道具に過ぎなかったのだ。


 何故、自分にこんなことを話したのかとアユムが言うと、セイは、将来有望な若者を、汚い大人の欲望に塗れた道具として利用したことへの罪悪感と告げ、勇者パーティの真実も暴露した。


 勇者パーティに選ばれた人間は、皆組織に疎まれた者達で、死んでも誰も悲しむ者はいないと判断されていたのだ。


 騎士のナイは、かつてのアユム同様騎士に憧れて入団したが、上司の雑用ばかりやらされ、人々のために働くことなどできていなかった。


 魔法使いのマギは、平民ながらも高い魔力を持ち、魔法学校への入学を許可されたが、落ちこぼれで、いつ退学してもおかしくなかった。


 聖女のメディは、人間が崇拝する神の巫女として崇拝の対象とされていたが、実態はお飾りにすぎず、しかも、替えの利く聖女だったのだ。


 盗賊のシーは、スラム出身の孤児で、明らかに使い捨てだと分かる人間だった。


 そして、アユム自身も、本人は厳しい修行の果てに聖剣に選ばれたと思っていたが、本当は聖剣を使える適正があったために勇者になれただけであり、特別な存在ではなかったと言われたのだ。しかも、聖剣の適正を持つ子供は、既に王国が大勢囲っており、いつでも補充できるようにされていたのだ。ある意味、メディと同じだったのだ。なら、何故今回の勇者に選ばれたのか。単に、その子供達の中で一番強かったから、だけだったのだ。


 そう、勇者パーティは、監視役のセイを除けば、文字通り、死んだところで誰も悲しまないばかりか、国の損失にもならない人間ばかりだったのだ。


 だが、過酷な魔王討伐の戦いの中で、皮肉にも彼らは、秘められた才能を開花させていった。


 下っ端騎士のナイは、どんな攻撃も止めてしまう盾役になり、剣の腕ならアユムに次ぐ実力となっていた。


 落ちこぼれ魔法使いマギは、戦力強化を図ったセイから直接魔法の手ほどきを受け、強力な魔法を使いこなす上級魔法使いになり、その実力は、セイをも凌いでいた。


 お飾りの聖女メディは、様々な軌跡を人々の前で起こし、まるで神の生まれ変わりと噂されるほど有名になっていた。


 スラムの盗賊シーは、天性の運動神経とその小柄な体格を活かした隠密行動で、勇者パーティの重要な作戦を担う存在となっていた。


 彼らの成長は、セイどころか、国の上層部も予想していなかったのだ。その結果、彼らは魔王討伐に成功、一躍有名人となったのだ。


 だが、その後の彼らの扱いは、散々なものであった。


 騎士のナイは、魔王討伐の功により、騎士団長に出世したが、実際はまともな訓練さえ受けていない寄せ集めの団員のしかいない名ばかりの騎士団で、しかも仕事は、裏方の汚い仕事ばかりさせられていた。


 魔法使いのマギは、魔王を討伐し、周囲から一目を置かれる存在となったが、その才能を妬む者達に迫害され、街を追い出されていた。学校在籍という事実だけを使われ、入学者を増やす客寄せには使われたが。


 聖女のメディは、元々教団の偶像として扱われていたが、討伐の成功により、それが加速、真の聖女などと称され、腐敗した上層部の傀儡に祀り上げられていた。


 どんなに実力を付け、功績を立てようとも、なんの後ろ盾もない彼らは、正当に評価されないばかりか、それをいいように利用されていたのだ。結局、魔王を倒そうと倒すまいと、彼らは道具のままだったのだ。


 仲間達と自身の真実に茫然自失となるアユムに謝罪をしたセイは、その後自ら命を絶った。


 その後、追放されたマギを保護し、孤児院に戻ったアユムは、これからはただの人間として生きていくことを決め、この地に骨を埋めるつもりだった。だが、王国はそれを許してはくれなかった。セイが死んだことで、アユムに真実が知られたことを知った上層部は、アユム達の口を封じるため、勇者パーティの皆殺しを決定したのだ。そして派遣されたのは、ナイ率いる第三騎士団だったのだ。


 かつての仲間からの攻撃。アユムは自分が囮となることで、ナミ達を逃がし、ナイの足止めをした。だが、かつての仲間を倒すことができず、アユムはナイによって致命傷を負わされ、ナイに全ての罪を着せた騎士団長によって、止めを刺されてしまったのだ。そして、ナミ達も無慈悲に皆殺しにされ、勇者を暗殺した罪人として晒されることとなったのだ。


 こうして、勇者アユムという邪魔者がいなくなった人間達は、その死すら利用した。アユムの死は、異種族の陰謀と人々に虚偽の情報を伝え、勇者の敵討ちという大義名分を振りかざし、侵略を正当化した。圧倒的な数と、勇者を妄信する人間の狂気に異種族の連合軍はなすすべなく敗北し、十年も経たないうちに、人間は世界を完全に制圧してしまったのだ。


 勇者アユムの存在は、人間達を救いながらも悪意ある仲間達とそれを利用した卑劣な異種族に殺された悲劇の英雄として、人々から語り継がれることとなったのだった・・・。

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