第22.5話 カミーラの思惑
ベリオンではなく、支部長カミーラの話です。
「・・・ミラン。彼をどう思いますか?」
一人、支部長室に残ったカミーラは、誰もいない所に声をかける。すると、いつ現れたのか、一人の男が突然現れたのだ。男は、黒髪で猫の顔をした獣人族で、黒を基調とした服装をしていた。
「・・・ただ者でないことは間違いない。支部長と話している時の態度に、緊張の色は見られなかったし、おまけに、まったく隙が無かった。会話していながらも、周囲への警戒を怠ってはいない。・・・あれは間違いなく、修羅場を潜り抜けてきた経験豊富な人間だ。ゴドールに勝ったというのは、間違いでもマグレでもない。」
ミランと呼ばれた男は、自身が感じたベリオンの様子を答える。
「そうですか・・・。やはり、気になりますね。そんな人間が、今まで国の監視網にも引っ掛からず、野にいたなど・・・。」
「・・・あと、奴は俺が【隠密】で隠れていたことも分かっていたようだ。もし、俺が暗殺者で、奴を殺そうと仕掛けたとしたら、俺の方が死んでいただろう。」
「・・・隠密に長けたあなたでも不意を打つことはできないとは・・・ますます謎です。」
ミランの報告に、カミーラはますます困惑する。ミランは、ランクこそDだが、隠密に限ってはBランク級の実力を持っているのだ。隠密に長けた猫の獣人の特性と、彼の持つ補助スキル【隠密・中】。それを駆使した彼は、格上の相手であろうと不意を打て、警戒厳重な場所にも忍び込むことができるのだ。そんな彼が、気付かれていたと断言するなど、普通は考えられないのだ。
このミランの報告は、当たっていた。ベリオンは、何者かが身を潜めていることは気付いていた。そのため、いつ隠れている相手が仕掛けてきてもいいように警戒をしていたのだ。もちろん、カミーラに気付かれないよう自然な態度を装って。
「確実に、一般の人間ではないだろう。どこかの組織に所属していた可能性もあり得るし、本当に人里離れた場所で、世捨て人同然の生き方をしていた人物から地獄のような師事を受けていたかもしれない。・・・だが、俺は奴が、帝国やヤバい連中が送り込んできたスパイではないと思う。」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「・・・支部長も分かっているはずだ。奴は、異種族である支部長を見ても、侮蔑的な表情も嫌悪感も何も示さなかった。帝国の人間なら、何かしら否定的な反応をするはずだ。他のよからぬ組織の人間だって同じだ。俺達異種族なんて、ゴミかカモとしか見られてない。もちろん、隠している可能性もなくはないが・・・俺は、奴が異種族に対して何も差別的な感情を持っていないと断言できるな。」
「・・・。」
カミーラもその点は同意見だった。これまでの経験上、異種族である自分は下に見られることが多かった。ここにいる人間の冒険者も、最初の頃はそんな目で見ることがあった。
だが、あのベリオンという男は、全くそんな素振りは見せなかったのだ。こんなこと、彼女の経験からいって、あまりないことだった。
「だから、支部長も奴の冒険者登録を認めたんだろう?色々分からないことは多いが、悪い奴ではないと。」
「・・・あなたには勝てませんね。」
「長い付き合いだからな。」
「けど、それだけではありません。」
「・・・やはり、帝国に対抗するためか?」
「はい。・・・ミラン、あなたも知っているはずです。帝国が冒険者ギルドを国有化しようとしている件。」
「ああ。ふざけた話だ。冒険者を体のいい道具にするつもりなのは明白だ。」
「・・・ですが、本部の職員には、国有化に賛成の者もいます。」
「依頼は毎日山のようにくる。だが、それを捌けていないんだったな。冒険者の質と量が足りないせいで。それを考えれば、多くの人員を擁する帝国に国有化されることは望ましいだろう。人員不足は一発で解消される。・・・だが、人員不足なのは、帝国がそもそもの原因だ。有望な人間は、すぐに囲い込んでしまうし、時間をかけて実力を付けた冒険者も、貴族にしたりして引き抜いていくからな。・・・まあ、貴族になっても冒険者活動を続けている者もいるが・・・少数派だな。」
一般の人間に知られていない、冒険者の人員不足。この状態が続けば、完遂されない依頼が増え、人々はギルドに不信感を抱くだろう。そうなれば、冒険者は不要と言われてしまうようになるだろう。それだけは避けねばならなかった。
だが、国有化されれば、人員不足は解消されるだろうが、帝国の法に従わざるを得ない。そうなれば、異種族の冒険者の扱いは、悲惨なものとなるだろう。冒険者を辞めさせられるか、無報酬で働かされるかもしれない。もちろん、人間の冒険者とて、不当な扱いを受けるのは間違いない。帝国貴族の中には、冒険者を金に汚い下劣なものだと見下している者も多いのだ。そんな連中が、まっとうな条件で雇うはずがない。報酬もそうだが、今まで中民扱いだったのを、下民に戻すこととて考えられる。いや、下手をすれば、もっと低い身分にされてしまうかもしれない。国有化の実態は、冒険者にとって地獄であるといえた。
だからこそ、ギルドは帝国に呑み込まれないよう、優秀な人材を得ようと色々と動いているのだ。もっとも、成果は芳しくなかったが。
「彼は、そんな現状に一石を投じてくれる・・・そんな予感がしたのです。」
「・・・確かに、奴は並外れた人間だ。・・・だが、一石で済むだろうか?ひょっとしたら、百石や千石はするかもな・・・。」
ミランは、どこか嬉しそうに笑った。
「・・・ですが、一応監視は続けてください。・・・彼の観察力を考えれば、無駄だとは思いますが、念のため。」
「分かった。だが、隠れて監視よりいい方法がある。」
「?何です?」
「・・・冒険者らしいやり方の監視だ。」
今後も、このような話が入る場合があります。




