第22話 魔勇者支部長と面談する
「・・・あなたが、ベリオンさんですね。」
支部長室に通されたベリオンは、この町の冒険者ギルドの支部長カミーラ・フォンスと面談していた。カミーラは、金髪キツネ耳の亜獣人族で、黒縁のメガネをかけ、ベリオンに鋭い視線を向けていた。
「ああ。俺に会いたいと言ってきた理由はなんだ?」
「あなたが、ゴドールさんに勝ったとミレイから聞きましたが・・・それは本当ですか?」
「本当だ。合格証もある。それに、それなら本人に直接聞けばいいだけだろう。」
受付嬢-カミーラはミレイと呼んでいた-と同じことを尋ねられ、ベリオンは彼女に話したように、ゴドールを倒したことは事実だと伝えた。
「・・・どうやらあなたは、ただの村人ではないようですね。彼の腕前は、戦闘経験のない人間が太刀打ちできるものではありません。だからこそ、冒険者になる人間の選別を行ってもらっていたんです。それに勝つなんて、普通では考えられません。・・・いったい、あなたは何者なんですか?どこでこれほどの力を身に着けたのですか?」
カミーラは、ベリオンに厳しい視線を向ける。どうやら、自分の強さが普通ではあり得ないものだと思われ、警戒されているのだとベリオンは理解した。だが、彼は臆せず自身の設定を彼女に答える。
「俺は、師匠に連れられて幼い頃から人里離れた場所で修行していた身だ。俺はそこで、師匠から様々な武術を教わった。」
「なるほど・・・。つまり、その師匠の下で修業して、あれだけの強さを手に入れた。・・・それで、師匠の名は?」
「・・・知らん。師匠は教えてくれなかった。師匠が俺に教えてくれたのは、武術のことだけだ。世間のことは教えてくれなかったし、俺の身の上も、全く教えてくれなかった。だから、師匠のことは何も知らない。そして、俺が何者なのかも、俺自身分からない。俺にある一番古い記憶は、師匠と修行している記憶だけだ。」
「・・・つまり、その師匠が何者かも知らなければ、あなたがどこの出身かも分からないと?」
「ああ。師匠は死ぬ間際まで、何も言わなかった。自分の正体も、俺との関係もだ。」
「・・・困りましたね。それでは調査のしようが・・・。」
ベリオンから話を聞いたカミーラは、困惑した様子でため息を吐く。
ベリオンの推察通り、彼女はベリオンの尋常でない力に警戒し、彼の背後を洗おうとしていたのだ。確かに、冒険者になる人間の中には、まっとうでない者もいる。だが、中堅クラスながらも上位冒険者にも匹敵するほどのゴドールに勝つなど、まっとう以前に普通はあり得ない。それだけ、上位の冒険者の実力は隔絶しているのだ。それに勝てるとしたら、どこかの組織に所属していた人間の可能性が高い。もしそうだとしたら、何かよからぬ目的があるのではないか。彼女は、ベリオンの様子を観察し、何か不審な点がないか探ろうとしていたのだ。
だが、予想に反して、ベリオンはまったく物怖じせず、堂々と自身の過去を語った。今までいろんな人間を見、相手が嘘を吐いているかどうかを見極めてきたカミーラをもってしても、彼が嘘を吐いているのか、それとも真実を話しているのか判断できなかったのだ。
もちろん、ベリオンは大嘘を吐いているのだが。
「そうなるな。師匠が俺の肉親だったのか、それとも俺を攫ったのか、今となっては知り様がない。だが、俺に力を付けてくれたことに関しては、感謝しているが。」
「・・・それと、先ほど死に際と言っていましたが、あなたの師匠はもう・・・。」
「ああ。つい最近な。それを機会に、外に出て自分の力がどれほどのものか確かめてみようと思ってな。それと、外には俺なんかより強い奴が山ほどいると言われていたからな。いい修行になるとも思い、修行の旅に出ることにした。・・・だが、武者修行の旅に出た矢先、道に迷った。何しろ、俺は地理など知らなかったからな。だが、運よく隣村に辿り着いてな。おかげで野垂れ死にせずに済んだ。その時、村人に冒険者の存在を聞いた。天職と思ったぞ。強い奴と戦えて、その上金までもらえるなんて俺にピッタリの仕事だ。だから、試験を受けるためにこの町に来た。」
ベリオンは、ルシフの設定を自分なりに盛って説明した。結局、ルシフの設定を使ったのは、詳しく説明しなければ色々ツッコまれると思ったからだった。
一方、ベリオンの話を聞いたカミーラは、難しい顔をしていた。結局、彼の言葉が本当か嘘か変わらなかったからだ。
「・・・色々不審な点はありますが、冒険者になろうとする人間は、過去に何かしらあるということは珍しいことではありません。それに、ゴドールさんに勝ったのは事実。即戦力であることに変わりありません。ミレイ。」
「は、はい!」
カミーラは、扉の側に控えていたミレイに声をかける。声をかけられたミレイは、緊張した面持ちで返事をする。
「特別規定に則り、ベリオンさんにFランク冒険者の冒険者カードを至急作製してください。」
「特別規定!?・・・今まで適用されなかったそれを・・・!」
「特別規定?何のことだ?」
「冒険者にはランクがあります。駆け出しのGランクから、勇者級と呼ばれるSランクまでの8ランクが。通常、最初のランクはGですが、あまりに並外れていた場合、特別規定により一つ上のFランクから始めることができます。」
「つまり、ゴドールに勝ったことは、その特別規定に当たるということか。」
「ベリオンさん、これはこの町始まって以来・・・いえ、冒険者ギルド始まって以来の出来事なんです!まさか、私がそれに立ち会えるなんて・・・!」
ミレイは、興奮した様子でベリオンに言う。
「どういうことだ?世の中には腕の立つ人間は大勢いるはずだ。師匠も言っていたぞ。『俺なんて雑魚の部類だ。外の世界には強い奴が腐るほどいる。俺に一回勝った程度で強くなったなどと思うな。まだお前は雑魚から中雑魚になっただけだ。』と。そういった人間が試験を受ければ、この規定が適用・・・。」
「・・・残念ながら、そんな人間が冒険者になることはありません。」
ベリオンの疑問を、カミーラはアッサリと否定する。
「ない?どういうことだ?」
「それだけの腕の持ち主なら、すぐに国が囲い込むからです。だから、この規定が適用されたことはなかったんです。」
「・・・そうなのか?」
あまりに意外な事実に、ベリオンは信じられなかった。だが、アユムの記憶を見、すぐに納得した。アユムもまた、囲い込まれた人間だったからだ。
「はい。あなたの言う通り、冒険者でない一般の人間でもBランクCランク冒険者を倒せるほどの実力者はいます。あなたのように修行していたり、何かの偶然で並外れた力を開花させたりした人間が。ですが、そんな人間を国が放置するはずがありません。自分達の管理下に置こうとすぐに動き確保します。ですから、そんな人間が冒険者の試験を受けに来ることなどないのです。」
「・・・俺は、運よく人里離れた地にいたから、その網から零れていたというわけか。」
「そうなりますね。ですが、これはギルドにとっては幸運と言えます。Aランクは当然ですが、BランクやCランクといった冒険者を育てるのは、容易ではないのです。様々な経験を積んだ果てに、それだけの実力を身に付けます。ですから、最初から高ランク冒険者クラスの実力を持つ人間を最下級ランクで遊ばせておくなんてもったいないことはしません。」
「分かった。俺は、金がもらえて自分の腕試しと修行ができればそれで構わない。その扱いでいい。」
「正直な人ですね。ミレイ、冒険者登録の手続きと、カードの発行を。」
「はい。ベリオンさん、こちらへ。」
ミレイに促され、ベリオンは彼女と支部長室を後にするのだった。
冒険者ギルドには、異種族の職員も結構います。




