第16話 魔勇者トレントの群れを一掃する
トレントの群れに突撃するベリオンは、先頭のトレントを剣で切り付ける。剣は、何の抵抗もなく、トレントを両断する。切られたトレントは、その場にばたりと倒れた。
(・・・粗悪というが、切れ味はともかく、耐久性は悪くない。トレントを切っても耐えられるのだからな。)
ベリオンは、手にした剣に感心しつつも、次の敵へ狙いを定めた。ベリオンは、トレント達が認識できないほどのスピードで接近すると、次々にトレントを屠っていく。トレント達は、何が起こったのか理解することもできず、ただの木材と化していく。
「す・・・凄い・・・!」
「・・・アイクさん・・・ベリオンさんの動き・・・見えます?」
「・・・いや、全く見えない・・・。」
「・・・さすがは、強くなるために修行していただけのことはある・・・。」
アイク達は、ベリオンの凄まじさに、ただただ驚くばかりだった。当然である。ベリオンの動きは全く見えないばかりか、ベリオンが通ったと思われる後には、トレントがただの木材と化して残っているのだ。
一分もしないうちに、トレント達は全滅していた。ベリオンは、トレント達を見下ろし、身体の感触を確かめていた。
(・・・凄まじいスピードと反射神経だ。アユムの時ともブライの時とも違う。身体が軽すぎて、羽根になったようだ。おまけに、敵が静止しているように感じた。これが、今の俺の力か・・・。)
自分の想像以上の力に、ベリオンは無意識のうちに、笑みを浮かべていた。
「・・・驚きました。まさか、あれほどとは・・・。」
倒したトレントを斧で割り、回収しながらアイクは呟く。
「弓だけではなく、剣も一流。いえ、超一流です。ひょっとしたら、騎士より強いかもしれないですね。」
「大げさだな。俺なんて、師匠が言うには中雑魚だそうだ。騎士の強さは分からんが、俺より弱いなどあり得んだろう。」
「・・・あの強さで雑魚呼ばわりだなんて・・・ベリオンさんの師匠、ヤバすぎじゃないか?」
「・・・しかし、どうしてこんなに魔物が出たんだろうな。アイクさん、こんなことありましたか?」
「いや、俺の知る限りだと、こんなことはなかったな。・・・何かの前触れだろうか?嫌な予感がする。」
「・・・。」
トレントを割りながら、ベリオンは考え事をしていた。アイクの嫌な予感を真剣に考えていたのだ。
(・・・ルシフ。トレント自体は珍しい魔物ではない。・・・だが、こんな集団で現れて人を襲うことなどないはずだ。・・・これはやはり・・・。)
[うん。異常発生の前触れだね。・・・時期までは分からないけど。]
(・・・そうなると、早々に森を抜けた方がいいかもしれんな。)
魔物は通常、明確な縄張りがあり、そこから出ることはない。そして、個体数も自然と淘汰され、一定となるのである。だが、何らかの要因で個体数が自然淘汰を圧倒的に上回り、縄張りの容量が限界に達すると、溢れた魔物が周囲に大量に出現する。これを、異常発生と呼ぶ。
一度、異常発生が起きれば、被害は甚大なものとなるため、軍隊が出動する事態となるのだ。
「・・・アイク。これから強行軍となるが、構わないか?」
異常発生を確信したベリオンは、アイクに森から少しでも早く出るべく、強行軍を進言する。
「強行軍?どうしてです?」
「このトレントの群れは異常だ。もしかしたら、異常発生が起きるかもしれない。森を抜けるのに時間を取られるのはまずいだろう。」
「異常発生!?・・・確かに、あり得るかもしれません。トレントは、群れを成す魔物ではないはずです。それが、こんなに現れるなんて、異常としか言えません。」
「木材は、これだけ回収できれば十分だ。すぐにでも出発するとしよう。」
「・・・そうですね。皆、回収はここまでにして、すぐに出発だ。」
アイクは、作業途中の仲間に声をかける。仲間達は、今解体しているトレントだけを回収すると、荷車に載せた。
「・・・俺達が森を出るまで・・・もつかな・・・?」
「分からない。・・・神に祈るしかない。」
「・・・。」
(・・・神か。こいつらが信仰しているヒュームは、助けるどころかこの状況を見て楽しんでいるのだろうな。)
[まあね。異常発生が起きて人が死ぬのを見て、酒を飲むのが楽しみだと公言するような奴だからね。・・・他の神もムカつくけど、ヒュームのそれはもっとタチが悪いよ。]
ルシフは、かつてヒュームが下界の異常発生を見て楽しそうに笑っていた光景を思い出し、不快感を覚えていた。自分の創りしもの達が苦しんでいるというのに、まるで喜劇のように笑っているヒュームが、ルシフは大嫌いだった。
結局、ベリオン達は異常発生に巻き込まれることなく、無事に森を抜けることができた。
だが、この後に起こる異常発生に、ベリオンは関わることになるのだが、それは、もうしばらく経ってからの話である。
内容を若干修正しました。




