第12話 魔勇者今の世のことを聞く
彼らは、ベリオンに現在の世界について教えてくれた。
まず、現在、人間はこの世界の征服に成功し、かつて他種族の領土であった場所にも、人間達は町を築き、大いに繁栄しているのだという。他種族は、奴隷になるか、町に暮らすことを許されても、何の権利も与えられていない劣等民として扱われ、スラム街に押し込められて不自由な生活を強いられているのだという。それを嫌う者は、遠く離れた地に村を築いて暮らしているが、国の庇護下にない彼らの村は、魔物の襲撃を受けても守られることもなく、貧しい生活を強いられていることに変わりはなかった。それでいて、税は納めるように強要され、納められなければ村は取り潰しの上、村人は奴隷にされるという理不尽なものだった。他種族が生きていく道は、奴隷になるか、町に住める代わりに劣等民として虐げられるか、金を払うことで最低限の自由を得るかの三択しかないのだとベリオンは知らされた。
だが、人間の方も、すべての者が決して裕福というわけではなかった。一般人は、基本的に平民と呼ばれているが、実際は住む場所や所得で呼び方が違うのだという。
村に住む者は下民と呼ばれ、町に暮らす平民である中民と比べて権利が制限されるのだという。いい例が利用できる店である。下民は、中民が使う店は使用できないのだ。質の低い、胡散臭い店やボロボロの宿-宿ならまだマシで、最悪馬小屋泊まりもあり得る-を利用しなければならないのだ。
そして、ある程度の金を納めている高所得者は上民と呼ばれ、貴族よりランクは落ちるが、中民より上等な店や施設を使うことができるのだという。さらに、功績を上げれば貴族になることもできる唯一の平民だという。事実、村長のかつての知り合いが、国に多額の納税をしたことで、貴族になったのだという。
「・・・つまり、この村の人間は、異種族よりはマシだが、町に住む人間より劣悪な扱いを受けるというのか。」
「ええ。まあ、もう私は、町に行くこともありませんので、気になりませんが・・・町に用事のある者は、不自由していると聞きます。・・・役人に賄賂を渡せば、融通されるという抜け道がありますが・・・とてもそんなお金は・・・。・・・昔の私なら、なんとか工面できたでしょうが。」
「昔の私?」
「私達親子、いえ、ここにいる村人は、全員村人ではなく、ここより遠くの地から来ました。昔の私は、簡単な商売をしていました。ウチは、小さいながらも代々続く商家だったのです。」
「・・・商家ならうまくやれば上民になれただろう。何故、この村に来たのだ?」
「・・・私と息子は、勇者様に助けられたことがあるのです。」
「!?・・・勇者とは・・・なんだ?」
突然、勇者の名が出たことで、ベリオンは一瞬驚きかけたが、それを隠すと村長に勇者について尋ねる。
「勇者様をご存じない?彼は、最強の戦士にして、私達親子の命の恩人です。」
勇者。人類最強の戦士にして守護者。聖剣を振るい、悪と戦う正義の戦士と村長は力説する。十二年前、人間達最大の脅威である魔族を仲間と共に滅ぼし、世界を平和に導いた英雄なのだと。
村長が言うには、十五年ほど前、商売のために荷馬車で移動していた彼ら親子は、魔物に襲われた。護衛の冒険者達がいたが、あっという間に倒され、自分も今まさに殺されそうになったその時、颯爽と現れたアユムに救われたのだという。
(・・・魔物の襲撃から荷馬車を守ったことはたくさんあるな、アユムが。・・・なるほど。そのうちの一人か。アユムは覚えていないだろう。だが、記憶を任意で覗ける俺には分かる。間違いない。アユムが勇者になってすぐの時だ。その時に助けた商人の親子だ。護衛の冒険者は既に死んでいたが、その親子だけは助けられた。相当感激していたが・・・なるほど。)
「その時、勇者様に助けられてから私の人生は変わりました。彼の力になりたい。そう思い、商売に精を出しました。そして、儲けの一部を勇者様に寄付していました。」
(・・・寄付?何だそれは?アユムの記憶にそんなものないぞ?)
「あれを見てください。勇者様からの感謝状です。これを役人の方から頂いた時は、感動して夜も眠れませんでした。我が家の家宝です。」
村長は、壁にかかる額縁に入れられている書状を見せる。そこには、多額の寄付を感謝する旨が書かれ、アユムのサインがされていた。
(・・・何だこれは?こんなものも書いた記憶はないぞ?しかも、あの字。アユムの字ではない。・・・ルシフ、これはやはり・・・。)
[そうだね。この村長、寄付金を騙し取られているね。しかも、本人は気付いてないみたいだ。]
(・・・アユムの同類か?・・・それとも、商人は信頼が重要ということで、疑うことをよしとしないからか?・・・どちらにせよ、悪人に利用されるタイプだな。)
ベリオンは、村長の残念ぷりに少々がっかりしたが、顔には見せないよう努めた。
「ですが・・・勇者様が暗殺され、故郷の地も焼き払われたと聞き、私は悲しみのあまり、寝込んでしまいました。まだまだご恩返しができていなかったというのに・・・。」
(・・・アユムを本心から感謝しているのは間違いないようだが・・・。中身が伴っていないな。)
「そんな時、勇者様の魂を弔うために、故郷の村を復興しようという計画を聞き、この地を復興することで恩返しにしようと思い、この地に来たのです。そのために、店をたたみ、財産もこの村の復興に充てました。」
「・・・この村は、元々はその勇者の故郷の村があった場所だったのか。」
「はい。そして、この村にいる者達は皆、私のように勇者様に助けられた者とその家族なのです。」
「つまり、身分を下げてまで恩返しをしようというわけか。・・・そこまで慕われていたのか、勇者は。」
「ええ。絶体絶命の私達を救い出してくれたあの方は、まさに救世主でした。・・・ですが、まさか暗殺されるとは・・・。」
「・・・さっきから暗殺暗殺と言っているが、最強の戦士が、何故暗殺された?暗殺した相手は、そこまで強かったのか?それに、何故暗殺されなければならない?救世主ではなかったのか?」
「・・・暗殺の首謀者は、かつての仲間の騎士ナイ様なのです。」
「・・・詳しく聞かせてくれ。」
村長は、悲しそうな面持ちで、アユムの死を語り出す。魔族との戦いを終えたアユムは、孤児達を引き取り、故郷の地に孤児院を建て、静かに暮らすことにしたのだという。得た褒賞は、全て孤児院の運営に充てた。村長もその話を聞き、役人を介して寄付金を送っていたのだと話した。
だが、彼の名声が高まることに対する嫉妬と、自身の褒賞に不満に思っていたかつての仲間である騎士ナイによって、勇者アユムは殺されたのだという。異種族に唆された彼は、自分と同様に褒賞に不満を持っていた他の仲間達と共謀し、アユムの暗殺を画策した。そのために、彼の意中の人物である幼馴染のナミを懐柔し、アユムに毒を盛り、身体がマトモに動けなくなったところを暗殺された。念入りに死体を孤児院諸共焼き払うということまでされた。
もっとも、彼らの悪だくみは、長くは続かなかった。騎士団により彼らの悪事は暴かれ、全員処刑された。だが、勇者を失った人間達の怒りは凄まじく、他種族を許すなをスローガンに侵攻作戦が開始され、人間達は他種族に勝利し、今日に至るのだという。
ベリオンは、途中反論しようと思う気持ちを押し殺し、最後まで話を聞いた。だが、内容は、ルシフから聞かされたものと同じか、それ以上に酷いものだったからか、話を聞き終わった彼は、疲れた様子だった。
「・・・酷い話・・・だな。自分の待遇に不満を持つのは分からんでもないが・・・そこまでするものか?」
「・・・ベリオンさん。本当にこれが真実だと思いますか?」
「?・・・どういうことだ?」
村長の雰囲気が変わったように感じ、ベリオンは一瞬ギョッとした。先ほどまで感じたお人よしの男とは違う、何か別の感じがしたのだ。
「・・・私は違うと思っています。いえ、この村の人間は、誰もそのような嘘、信じてなどいません。」
「!」
[・・・へー・・・このおじさん、ただのお人よしかと思えば、意外と切れるじゃないか。]
ルシフは、村長の意外な顔を見て、驚きと同時に喜んでいた。




