第1話 勇者最強魔族を倒す
「・・・やるな・・・勇者アユム・・・!」
「・・・お前もだ・・・!魔剣将軍ブライ・・・!」
荒野にて、二人の人間が対峙していた。一人は、白と銀を基調とした鎧を着る茶髪の少年で、身の丈程の神々しい大剣を両手に握っていた。もう一人は、黒い鎧を着る黒髪の青年で、少年の持つ剣に負けないほど長い、禍々しい黒い大剣を持って構えていた。青年は、肌の色が少年と違い、灰色で、明らかに人間とは違う種族であることがうかがえた。
「お前のような人間がまだいたとはな・・・俺は嬉しいぞ・・・!こんな強い男と、心行くまで戦えるのだからな・・・!」
「・・・僕は、お前みたいな奴は嫌いだ。戦うことしか考えていない・・・そんな平和を壊すような奴、僕は大嫌いだ!」
「・・・なら、もう語るより剣を振る方がいいだろう?そろそろ決着といこうか!」
「望むところだ・・・!」
二人は、同時に相手に切りかかる。数刻、激しく切り合う音が聞こえ、最後にひと際大きな音が聞こえた時、勝敗は決した。黒髪の青年の剣が砕かれ、彼の胴体から、夥しい血が噴き出す。青年は、その場で崩れ落ちた。
「・・・ははは・・・お前の・・・勝ちだな・・・。・・・お前が・・・世界最強の戦士だ・・・。」
青年は、満足げな表情のまま、息を引き取った。
「・・・恐ろしい敵だった・・・。」
勝利した少年は、息絶えた青年を見下ろしながら、彼の強さに戦慄していた。この男は、魔王軍最強の戦士であり、魔王以上とまで言われるほどの実力の持ち主だったのだ。この戦いも、勝敗は本当に僅差で、まさに幸運といえるものだったのだ。
「勇者様!」
その時、少年の遥か背後から、数名の男女が駆け寄ってきた。
「・・・ナイさん、マギさん、シーさん、メディさん、セイさん。」
「・・・勝ったのですね!魔王軍最強の戦士ブライに!」
重装備に身を包んだ少年が、興奮した様子で少年に近寄る。
「・・・はい。」
「勇者様、今回復しますね。」
白い衣を身に纏う少女が、持っている杖を少年に向ける。杖から眩い光が放たれ、少年を包んでいく。光が消えると、少年の身体中にあった傷が、全て塞がっていた。
「・・・ありがとう。・・・皆さんの方は?」
「僕たちの方は、楽なものだよ。賢者様の作戦通りに動いて、各個撃破に持ち込んだからね。」
盗賊風の恰好をした少女が、元気な笑顔を見せながら少年に報告する。
「それに、魔将軍も孤立させて全員で挑みましたから、想像以上に消耗を抑えられました。」
魔法使い風の少女が、隣にいるローブの男性の方を見ながら少年に報告する。
「さすがですね、セイさん。賢者の称号は、伊達ではないですね。」
少年は、セイと呼んだローブの男性に尊敬の眼差しを向ける。
「勇者殿には劣りますよ。さあ、もう一息です。もう一息で、我々の勝利です。残るは魔王を守る親衛隊と、魔王を残すのみ。もっとも、ブライ以上の敵は、もういません。事実上、奴が魔王のような扱いです。」
「では、行きましょう!もうすぐだ・・・もうすぐ、平和な世界になるんだ・・・!」
彼らは、ブライと戦った場所を去り、最後の目的にへと向かう。向かうは魔王城。魔族の王、魔王のいる城である。
そんな危険な場所に向かう彼らは、勇者アユムをリーダーとする勇者パーティ。魔王を倒すべく派遣された、人間最強のメンバーが集まった、人間の最後の希望である。
この後、勇者パーティは見事魔王を打ち倒し、戦いは人間の勝利で終わった。こうして世界は、平和になったのだった・・・。
・・・などと言われているが、現実は全く真逆だった。寧ろ、世界はここから暗黒の時代を迎えるのである。