風来者組合
朝起きて早速、家族には内緒で風来者組合に行ってみる事にした。
何故かといいますと、ここでは色々な仕事を紹介してもらえるからです。
家族に何も言わないのは「まだ働かなくていい」とか「家計の事は気にしなくていいのよ。やりたい事をやりなさい。」と言われてしまうから・・・。
風来者組合と書かれた暖簾を潜ると机を挟んだ向こう側に女性と男性3名が座っていた。
風来者組合にはお父様と何度か来たことがあり受付の女性とは顔見知りです。女性の名前はセリカさん。
3人の男性は知らない人達です。
「おはようございます。セリカさん。」
「おはよう、お瓜ちゃん。あれ?虎次狼さんは一緒じゃないんですか?」
「1人で来ました。」
今日はお父様にも内緒で来ているので1人です。
「いくつか質問をして頭目にお伺いを立てて簡単な顔合わせをする事になるけど大丈夫?」
いくつかの質問に答えて偉い人に会うんですね。
大丈夫です。
「セリカお嬢、俺が頭連れてきますわ。」
そう言ってセリカさんの隣の受付にいる強面の男性は階段上がっていった。
「じゃあまず、どうして風来者になりたいの?あ、この場合、職業の【風来者】って意味じゃ無いからね。と言っても虎次狼さん以外に職業が【風来者】の人を見た事がないですけどね。」
組合には国中の人々から依頼が来ており風来者達が解決していくという仕組みになっているので専門的な事ではない限り職業は問われない。
ってお父様がお酒を飲みながら教えてくれたっけ。
「家計が厳しくて・・・。」
「じゃあ次に数年後、何の職業になりたいの?」
「料理関連の職業です!」
そこは即答。料理が得意なわけではないけど料理を作るのも食べるのも好きだから。
「じゃあ・・・」
この後いくつかの質問が続いたけど割愛。
セリカさんが質問をして私が答えた事を男性の職員が巻物に書き留めている。
しばらくすると優しそうなお爺さんが現れた。
「この子が虎んとこの末娘か?」
セリカお姉さんが、笑顔ではいと答え、先程私に質問した内容の答えを書いていた巻物を渡ていた。
お爺さんはそれを流し読みして
「職業が不明か。そりゃそうだな。元服・・・16歳を迎えてないもんな。理由は・・・うーむ。」
と笑いながら言っていた。
「虎とふらんちぇすかなら大丈夫だろう。あいつらはお前さんが思うほど甲斐性なしってわけじゃねーさ。やりてー事があんならやって・・・ほぉ、料理人希望か。やる気があんなら組合の料理番の弟子になってみないか?最近、弟子を取り始めたらしいんだが、どうも厳しすぎるんだか何だかで弟子入りした奴らはみんな裸足で逃げ出す始末なんでい。」
「本職の人に料理を習える機会は滅多にないので、是非お願いします!」
異能や技がなくても料理はできるから料理関連の職に就く人は少ない。
(同じ非戦闘職の【農民】は晩年、田舎に行く人が就くらしいので割といるんですけどね。)
「その眼・・・覚悟はできてんだな。流石はあの2人の子どもだ。【料理人】ナオキチを連れてこい。」
「あの・・・」
お父様とお母様に説明しなきゃ・・・。
「虎とふらんちぇすかには俺から伝えておく。やりたいんだろ?料理。」
私は即座に頷いた。
頭目のお爺さんは、にっこり笑って
「大丈夫だ。俺が説得する。」
「【料理人】ナオキチをお連れしやした。」
その料理人は見たこともない白く縦に長い帽子と白い衣を纏って煙管をふかしながらやってきた。
「お前がが弟子希望の子どもか。」
「はい、そうです。」
「そっか。これが弟子入りの条件な。」
そう言って巻物を私の前に差し出した。
『湾曲猪の肉380キログラム』
湾曲猪はお父様がたまに狩ってくるから知ってはいますけど・・・キログラム?
「あーそうか。この国の単位だと約100貫だな。」
この人、別の国の人なんだ。
そう思っていると、
「おい・・・この子はまだ16になってないんだぞ!湾曲猪の肉が100貫となると群れだぞ?湾曲猪の群れには上位種が混ざってる場合がある。討伐なんざ無理だ!」
先程まで笑顔だったお頭が料理人を睨みつけながら怒鳴った。
「廚は戦場だぜ?湾曲猪の群れが優しく思えるほどな。いいか?1人で行って討伐してこい。誰かと一緒に倒したりしたらダメだからな。」
かなりの無理難題を出されてしまったらしいです。
そりゃ、みんな裸足で逃げ出しますよ。
湾曲猪
カーブ・ボア
直進できない猪。物凄い勢いで突進してくる。
高い確率で群れの中に上位種が混ざっている事があり、高位の風来者でもかなり苦戦を強いられる。