魔物の幼体
朝食の際。
「たまにはクロちゃんも会議に来なさいな。」
『依頼があるっス。』
「良いわよね、アナタ?」
「ハイ、ダイリヲツカワセルノデ。」
心無しか父様の目が据わっている。
「許可も貰ったし、行くわよ!」
『あ、ちょっと!あ、ジュンコさん、頼まれていた物は作って玄関の所に置いたっス。試作品なんで、お代は取らないっス。』
母様は黒を頭に乗せて出かけてしまった。
今日は卓状山でキノコを取りたかったのに・・・。
「大丈夫よ。山の入り口に行くように指示したから。私ももう行くね。クロちゃんに頼んでおいた物も使わないと。」
ジュンコ姉様、誰に指示出したんですか?
「行けばわかりますよ。それじゃあ、お先に。」
「片付けは私がやっておくのでお瓜ちゃんは山の入り口に急ぎなさいな。」
あ、ウタコ姉様いたんですか?
一言も発してないから居ないもんだと思ってましたよ。
「あんまりですわ!」
卓状山の入り口に行くとレインさんが居た。
「お待ちしておりました、お瓜様。」
むぅ、敬語!
「本日は御館様や、お頭に護衛として行けと言われておりますので・・・。」
2人っきり・・・。
「解ったからそんな顔するな。」
それで良いんです。
依頼すれば常時敬語じゃなくなるんですか?
「依頼しなくても姫様のお願いとあれば・・・」
え?
「お瓜、俺から離れるな。」
レインさんの表情が険しくなった。
「何か来るぞ!」
目の前の茂みから何かが飛び出してきた。
「きゅうー!」
猪の幼体のウリ坊?
出て来たのは猪の子供だった。
レインさん、あれって?
「ああ、次元猪の幼体だな。」
次元猪?
「前に最上位の四次元猪が出ただろ?その系統の最下位だ。」
目覚めた日に城下町に入り込んでいた、あの美味しいお肉ですか。
「お瓜、あの魔物は最下位の幼体でも1匹でも国一つ滅ぶからな?」
「きゅう〜」
次元猪の幼体は何故か、私を見た後にガタガタ震えている。
そして私達にキノコを差し出してきた。
「松茸や松露があるな。」
くれるの?
「きゅう!」
定期的に採りに行ける?
「きゅう!」
じゃあ、連れて帰りますか。
(成長すれば美味しいお肉にもなりますし。)
「お瓜、育てて食べるのはやめてやれ。」
え?言葉に出してないのに何でですか?
「涎が出てる。」
「きゅう・・・」
「お帰りなさい、お瓜ちゃん。」
「そちらは・・・?」
町に戻るとジュンコ姉様が迎えてくれた。
「家老のグッドの息子のレインです。ジュンコ姫様、直接の御目通りは初めてで御座います。」
「姫様は辞めてください。義弟になるかもしれないのに。」
違いますよー!
「2人とも顔が真っ赤ですよ?」
横を見ると彼の顔は紅潮していた。
「なぁ、お瓜・・・」
もうーそんなんじゃないです!
何しに来たんですか!
「あ、そうだった。お瓜ちゃん、魔物連れてますね?女王様に呼ばれると思うから謁見の間まで連れて行きますね。術札(クロが試作で作った奴)で飛びますよ!」
ジュンコ姉様が札を上に放り投げると城の前にやって来ていた。
「偶像のジュンコ殿、お主、御館様から出入り禁止にされているだろう?」
「第二王女ウタコとして来ました。火急の要件にて妹を連れて母に会いに来ただけです。」
「っく、そう言われると通すしかない。」
出入り禁止って何やったんですか姉様・・・。
隣にいたレインさんが耳打ちしてくれた。(顔が近い)
「彼女が持っている弓の試し撃ちを兵士相手に行った。」
うへー(絶句)
「と言っても、弓の機能でずんだ餅を打ちだして腹一杯になるまで食べさせたらしい。」
うへー(困惑)
ジュンコ姉様に付いて行き謁見の間に入ると、
クロを膝の上に乗せ撫でている母様と向かいに座っている父様、そして突っ立っているウタコ姉様がいた。
「ジュンコ、下がりなさい。」
「嫌です。可愛い妹の事ですよ?」
「・・・下がる気はなさそうね。それじゃ、帰りましょうか。ウタコ伝達をお願い。」
母様のその一言に頷きウタコ姉様が目を瞑り話し始めた。
「城にいる物達に通達します。ヨモヒロ様が帰宅致します。皆様も本日は業務を終えて家族とゆっくり過ごしてください。」
「それでは私も帰らせて頂きます。お館様、失礼致します。」
「ダメよ?レイン、貴方にも事情を聞きたいから家まで来て貰います。」
家に着き家族とレインさんで囲炉裏を囲んでいる。
『病気等は持ってない、異能は・・・うわぁ・・・』
「どうしたんだクロ助?」
『コイツ、成体にならない代わりに、四次元猪と同じ能力使えるっス。』
「それ、不味くありません?」
「ウタコの言う通り、まずいな。」
「どうしてこうなったのかしら?」
そんなにまずい事なんですか?
『四次元猪は厄災って言われてるっス。理由としては瞬間移動っスね。』
瞬間移動?
『それと、成体にはならないけど成長はするっス。』
『オウリさん、この猪の子どもに何したんっスか?』
え?何もしてないですよ?
「きゅう・・・」
『訳っス。魔王様、僕、育てて食べようとした。怖かったから成長したくない、願ったら大人と同じになった・・・』
「うわー(家族一同)」
『(なんだ、いつもの事か)』
家族の生暖かい視線が向いた。