番外:蕎麦
一年の最後の日、大晦日。
いらっしゃいませ。
お昼頃になり男が1人やってきた。
この辺りでは見ない人なのでクホウトに着いたばかりの風来者だろう。
初めての方ですね?
「女将さん、二八蕎麦はありますか?」
ありますよ。
今日は年越しですからね。
たくさん用意したんですよ。
「予算は12枚でいけるかい?」
12枚だと量が少なくなりますよ?
「構わない。」
客は硬貨を一枚ずつ取り出していく。
1枚、2枚、3枚、4枚、5枚・・・「女将、今何時だい?」
『あ、これは・・・(九つどきを言わせるつもりっスね。)』
クロどうしたの?
クロは変な顔をしていた。
それで、今何時?
『スキル:117発動!正午12:00・・・午の刻っスね。(アブねー本当に九つどきだった)』
ありがとう、クロ。
午の刻です。
えっと・・・後、4枚ですね。
客は悔しそうな顔をして硬貨12枚を出して帰っていった。
『あの落語を仕掛けてくる輩いるんっスね。』
落語?
『気にしなくていいっスよ。ステータスと顔を覚えたし公的機関にも手配しとくっス。』
その日の夜、家族の分は別に確保しておいたのでそれを持って帰宅した。
「8年ぶりにお瓜と年越し蕎麦を食べられるのか・・・。」
父様は号泣している。
「さ、日を跨ぐ前に食べましょう。私、直ぐに神社に戻らなくてはならないので。」
「そうね。神社は賑わうものね。」
「ところで、ウタコの蕎麦は何で違うんですの?」
あーそれは、ウタコ姉様が所望したからです。
「凄いわ、お瓜ちゃん。注文通り、ずんだ蕎麦になってる。」
『そんで、何でこの人達もいるっスか?』
「まぁ、家族なんだし良いだろ?美味いもんは大切な人と食べるから上手いんだ。」
大柄の刀鍛冶の女人(曹達)がそう言った後、酒を片手に蕎麦を啜っている。
「そうよ、母さんの蕎麦は何割でも美味しいんだから。」
いつもより、はっちゃけて大葉子がそう続く。
大分出来上がってるな。この子こんなにお酒に弱いのか・・・。
『コイツらは自主的に来たのか、呼ばれたのか・・・。どっちなんっスか?』
多分・・・自主的?
「細かい事気にしたらやってけないですよ?ですよね、玄米お祖母様。」
「そうよ。細かい事は気にしない。けどね、日比ちゃん、お祖母様はやめてね?お祖母様、蕎麦ですけど、喉に詰まらないように気を付けてください。」
『酷いっスね。細かい事気にすんなと言いつつ、孫に婆様扱いすんなと言って、自分の祖母に年寄り扱いするとは・・・。』
「誰が年寄りだって?」
玄米の一言で公孫樹が立ち上がり、頭を叩いた。
「イッターい。そこまで言ってない!」
『痛いのはアンタっス。見た目は子供だけど、中身はアラフォーに近いのにそんなキャラで行くとは・・・』
玄米はクロに容赦なく飛び蹴りをした。
『やったっスね。』
「お?喧嘩か?大葉子祖母さん、賭けるか?」
「そうね。みぃちゃんの方に賭けようかしら。」
曹達の提案に珍しく大葉子が乗った。
大葉子、暫くお酒を飲むのはやめなさい。
前世の子孫達が乱闘を始めてしまった。
「お瓜ちゃん、虎狼郎さんを寝室まで運ぶから後の事はお願いね。」
母様が出来上がった父様を寝室へと引き摺っていく。
『身代わりゴーレムに相手して貰うっス。』
殴り合う子孫達の中からクロが這い出て来た。
あれ?そう言えば、これだけ人がいて暴れているのに何で狭く感じないの?
『狭いの嫌なんで、アタシがこの部屋に対して、空間拡張使ってるっス(スキル名は空間蕎麦ってふざけた名前だった)』
気がつくと鐘の音が聞こえてくる。
ありがとうクロ。
今年もまた宜しくね。
『・・・こちらこそっス。』