①
「いま帰ったぞ。」
「おかえりなさい、カルロス。」
「毎日、遅くなってすまないな。」
「いいのよ、お疲れさまです。まだ例の盗賊見付からないの?」
「ああ……。王宮警備の兵まで巡回にまわして捜索しているんだが手掛かりすら見当たらないらしい。」
「魔法で探知も出来ないのですか?」
「それがどうやら一味のなかには魔法使いもいて、阻害の呪文を使用しているようなんだ。暫くは残業が続きそうだよ。」
「たいへんですわね……。」
「そういえば、子供達はもう寝たのかい?」
「ええ、リリー達はもう眠ったみたいよ。ただ……。」
「ただ?」
「ユーゴはまだ部屋で起きているみたい、今日は帰ってくるなり部屋に籠りきりで……。夕御飯もいらないって。」
「どうしたんだ、中院で何かあったのか。」
「わからないけれど少し心配ね。」
両親がそんな話をしていることなど露知らず、僕は自分の部屋で黒本を読み耽っていた。
「……よし。だいたい読み解けたぞ。」
中院から帰宅後、直ぐに"初級魔法大全"を開いて速読を開始した。
一章は「魔法史と呪文の成り立ち」、"一の魔法使い"アレキサンドリアから中興の祖"紫鼻の"マーリン、近代魔法呪文を整理したドナポルチェなど魔法史上の偉人達の業績と情報が列挙されている。
途中、賢者見聞録という項目にウィンチェスター家の先祖と思われる名前を幾つか見付けた時には、少し驚いた。
二章「火の呪文」から七章「雷の呪文」までに基本属性の初級魔法がそれぞれ解説されており、八章以降に副属性三種の解説がされていた。
「(呪文は一通り記憶出来たけど……、本当にこれで魔法が使えるんだろうか。)」
ふど疑問に思った僕は、部屋のドアを開けてそこから外へ風の呪文を試してみることにした。
:シルフに瞬く間の喝采を与えられ去るがよい北の臣民:
途端に家全体が震えたかと思うと、前方の空気が全て押し出されたかのように吹き荒んだ。
「な、なんだ!?」
「と、父様、母様!寝てたら隣のユーゴの部屋から凄い音が!」
「ユーゴ!」
「ユーゴ、どうしたの!?」
「あ、皆……。えっと……。ははは……。」
「な、なんだ。これは……。」
酷く吹き飛んだ窓のあった壁を、僕以外の家族全員が驚いた顔で見つめていた。




