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「さて皆さん、本日からいよいよ技術講習が始まります。武術課程の子は校庭へ、魔術課程の子は4階の大講堂へ移動して下さい。」
担任のロベーラ先生が声をかけると、クラスメート達は一斉に準備を始めた。
「ユーゴ、離れたくありませんわ!やはり私も魔術課程へ参ります!」
「駄目だよリアーナ、この間もワガママを言っておじさんにたしなめられたばかりじゃないか。」
「だって、だって。」
「おいユーゴ、早く行こうぜ。」
「今行くよ。ね、リアーナ。何もずっと別々な訳じゃない。講習は午前の部だけだからさ。」
「……じゃあ、お昼御飯はいつもの様に私と食べて下さるの?」
「うん、約束するよ。だから、ね。」
「わかりましたわ。」
目を潤ませ眉を下げているリアーナをなだめて、僕は大講堂へと急いだ。
「遅いわよ、ウィンチェスター。」
「すみません、先生。」
「トイレにでも行ってたのかよー!」
一人の生徒がからかい口調でそう言うと、講堂に集まっていた生徒達が一斉に笑いだした。
「こら皆さん。静かになさい。」
ロベーラ先生の一言で静まったが、やれやれ。
初日から悪目立ちしてしまった。
それにしてもデイヴィスは、相変わらず嫌な奴だ。
先程からかってきた生徒の名前は、デイヴィス・ベルベット。
クラスメートで、何が気に食わないのか入院以来、事あるごとに突っ掛かってくる。
外見は似ても似つかないが、性格は金田そっくりだ。
どこの世界にもいるんだな、ああいう奴。
ま、あまり相手にはしていないけど。
「まったく。それではスチュワート先生、後はよろしくお願いします。」
「ありがとう。」
「皆さんはじめまして、私はサラトガ・スチュワート。今日からこの魔術課程Ⅰの講師を務める魔導師だ、よろしく。」
黒々とした長髪の男性が講壇に立ち、そう挨拶をした。
どうやら、この人が僕達の担当講師みたいだ。
「早速に講義を始めようと思うが。その前に皆へ配るものがある、全員私の前に並びなさい。」
そういうとスチュワート先生は、鍵が付いた豪華な外装の箱を袋から取り出した。
「これから各位に黒本を配布する。」
先生が箱を解錠すると、目映い光と共に蓋が開いた。
「これは"ミルアクススの書庫"。この国に存在する全ての黒本に繋がる箱だ。本来ならば中央図書館で厳重に保管されている宝具だが、諸君ら魔導師見習いに見合う黒本を捜すため、初回講義時のみ特別に持ち出しを許可されている。」
「それでは始めよう。先ずは君からだ、両手を前に出しなさい。」
いの一番に教壇前に並んだ院生が少し緊張した面持ちで両手を差し出した。
その瞬間、書庫の中身がより一層強く光輝き、一冊の本が現れた。
「"ナリアーニの魔法教本"だな、土の初級呪文が解説されている。手に取りなさい。」
促された院生が箱の中に現れた黒本を手に取った。
「よし、では次。」
列に並んだ院生達が次々に箱の前に立ち、現れた黒本を手にしていく。
長い列に思えたが順序良く進んだこともあり、あっという間に僕の番が来た。
「次は君だな、両手を前に。」
他の院生に倣い、箱の前に両手を差し出す。
"ミルアクススの書庫"が輝き始め、一瞬強く光ったかと思うと箱の中に一冊の本が現れた。
これが、僕の黒本か。
「よし……、ん?」
スチュワート先生は箱の中を覗き込むと、少し怪訝そうな顔をした。
「これは……、"初級呪文大全"。何故だ。」
「先生……?」
「ん、いや。なんでもない、手に取りなさい。」
どうしたんだろう、先生何だか変な感じだったけど。
まぁ、考えても仕方がないので言われた通りに現れた黒本を手にし、他の院生と同じく自らの席に戻った。
「(……あれは、黒本の中でも"全書"に分類される長篇。いくら初級編とは言え本来ならば見習いの講義用に現れるようなものではない筈だ。)」
「あのー、先生。次は私の番なんですけど……」
「ん、ああ。すまん、それでは両手を前に。」
続々と院生達の手に黒本が配られていった。




