①
この世界に転生してから、早くも十数年の月日が流れた。
12歳になった僕は、数ヵ月前から中院修学所に通い始めている。
これは前世でいうところの中学や高校にあたるもので、文学や数学など日常生活に必要な教養や、魔法・武術といった将来の進路に係わる特殊技能を学ぶ教育機関らしい。
「お母様、いってきます。」
「いってらっしゃいユーゴ、お友だちと仲良くするのよ。」
「はい。」
優しい微笑みで送り出してくれるアリアに、僕も笑顔で手を振る。
彼女は本当に理想的な母親だ。
「ユーゴ、ごきげんよう。」
「リアーナ、おはよう。」
「あらユーゴ、蝶ネクタイがゆがんでいるわよ。直してさしあげるわ。」
「ありがとう、リアーナ。でも自分で出来るから……」
「わたしがなおすの!リアーナの方がお姉さんなんだから言うことをお聞きなさい。」
「お姉さんって……、半年しか違わないじゃないか。」
このマセた女の子は、幼馴染みのリアーナ・ロッソ。
父親の親友であるドミニクおじさんの娘だ。
ウィンチェスター家とロッソ家は遠い親戚で、僕の家が多くの魔法使いを輩出しているように、ロッソ家は沢山の高名な剣士や勇敢な騎士を出した剣の名門らしい。
実際、現当主のドミニクおじさんは国王直属の近衛騎士団長を務めている。
「ほら、直った。」
「ありがとう、リアーナ。」
「遠慮することなんて無くてよ、何故ならリアーナはユーゴの将来のお嫁さんなんだから。」
「ははは……。」
リアーナの話は専ら冗談でもない。
何故ならあの酔っ払い親父共が、僕達がまだ喋れもしない頃に酒の席で盛り上がり、彼女を僕の許嫁にと勝手に決めてしまったのだ。
「私達は運命の相手なんですから。ね、ユーゴ。」
そう無邪気な笑顔で言われると、無下にも出来ず、物心着いた頃から僕はリアーナに頭が上がらなくなっているのである。
「……あ。ほら、急がないと中院に遅刻しちゃうからさ。じゃ、また!」
「え、あーん。待ってよユーゴー。」




