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目当ての本を手に入れ、意気揚々と帰路についていた。


僕は勉強もスポーツも特別出来る訳じゃないし好きでもない、だけど小さい頃から本を読むことだけは大好きだった。


2年前に亡くなったおばあちゃんは、僕が1つの本を読み終わるといつも「これでまた1つ賢くなったね、偉いね。」とニコニコしながら褒めてくれた。


幼い僕は大好きなおばあちゃんに褒められるのが嬉しくて、ますます色んな本を読んだ。

そして、出来るだけ早く読んで沢山褒められたくて、当時見ていたテレビにたまたま映っていた"速読術"を習いたいと母におねだりした。


結果、今では速読じゃ誰にも負けない自信がある。


最も、それが何の役に立つ訳でも無いけど。

運動音痴は読書じゃ治らないし、勉強だって教科書を丸暗記するだけじゃ駄目だ。


しかも、幼い頃から本ばかりと対面してきたせいか、極度の人見知り&コミュ障。お陰で……


「おい!」

「あ、金田君……。」

「おまえ、また変な本読んでんのかよ。キメェな。」


そう言ってケタケタと笑うこのデブは同級生の金田、頭の悪い乱暴者でいつも誰かを殴って問題を起こしてる。


最悪なのは、こいつの最近のお気に入りは"本ばっか読んで気取ってる陰キャを元気付けてやる"ことだという事。


つまりは、僕を殴って楽しんでるんだよな。


「な、なに金田君。僕、今日ちょっと用事があって急いでるんだけど……。」

「あ?おまえ俺に何か文句でもあんのかよ!」


何故そうなる。


「いや、文句なんて……そんな……。」

「ちっ、ナヨナヨしやがって相変わらずキメェ奴だな。」


うるさい、おまえだっていつも暴れてて相変わらず迷惑な奴だよ。


「おい、その本よこせよ。」

「え?」

「いいからよこせ!」


そういうと金田は僕の持っていた本を乱暴に奪った。


「あ!!」

「んー、なんだよこれ。女の絵と文字ばっかじゃん。こんなの見て何が面白いんだよ。」

「か、返して!」


「あ?おまえ、誰に口聞いてんの?」

「え、あ、その……」

「返してほしけりゃ、無理矢理取り返してみろよ。」


「……」


「ほらよ、大事な本なんだろ。こいよ!」


「……」


「ちっ、情けねー野郎だな。おまえみたいな弱虫が俺は一番嫌いなんだよ。」


そういうと金田は、僕から取り上げた本をおもむろに用水路へ投げ捨てた。


「あ!」

「ちっ、白けたぜ。おまえを殴んのはまた明日だ。じゃあな。」


急いで用水路を覗き込むと、ゆっくり本が沈んでいく。


本が、僕の大切な本が。


頭の真っ白になった僕は、次の瞬間、気付くと用水路に飛び込んでいた。


「ほ、本!ほん!」


バシャバシャと水飛沫をあげ、手で水中をさらう。


すると、右手の指先に何かが当たった。

本だ。


「あ、あった……うぷっ。つ、掴んだ……っ!」


やった、本を掴んだ。

ホッと安堵したのも束の間、直ぐにとんでもないことを思い出した。


僕は極度の運動音痴だ、球技も格闘技も全く出来ない。

そのなかでも特に、泳ぐことに関しては最早恐怖に近いほど毛嫌いしている。


そう、僕は金づちだった。


水面で暴れている内に、口内へ水が入り、息が出来なくなった。


そして思いの外深い用水路に身体が沈んでいき、水面と右手に掴んだ本を見上げながら薄れ行く意識のなか、僕は悔やんだ。


あぁ。

もっと。もっと。


たくさんの本が読みたかったな。


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