①
僕はその日、全速力で走っていた。
そして、通学路の途中にある本屋へ駆け込んだ。
「おや、どうした。そんなに急いで。」
「はぁはぁ……おじさん、注文してあった物、届いてますか?」
「あぁ、届いているよ。ほれ。」
「おおおおおおおお!やっと僕の手元に来てくれたんだね、愛しの"魔法使いマギー・キャラクター大全集"!!」
「本当に君はいつも耳が早いな、そこら辺の本屋スタッフより情報が早いぞ。」
「当たり前ですよ、伊達にオタクやってないですから。」
威張ることでも無いが、嬉しさのあまりついつい口も軽くなる。
「おじさん、いつも申し訳無いんですけど……。」
「わかってるわかってる。ほら、奥の椅子を使いなさい。」
「ありがとうございます!」
一刻も早く手に入れた本を読みたい僕は、いつも本屋のおじさんに甘えて椅子を貸してもらうのだ。
「ちょっと店長……、今から私あそこに座って検品しなきゃ駄目なんですよ。」
「ん、あぁ。君は新入りさんだったな。大丈夫大丈夫。」
「大丈夫って、定時までに終わらなくても残業はしませんから……」
「おじさん、ありがとうございました!」
「え!?」
「おぅ、今日は一段と早かったな。もう良いのか。」
「はい、全部楽しく読ませて貰いました。いつもありがとうございます!」
そういうと僕は、満面の笑みを浮かべて馴染みの本屋を後にした。
「て、店長。今の……読み終わったって。」
「ははは、驚いたろう。あの子はな、只の漫画好きの少年じゃない。"速読術"って知ってるかい?」
「えっと、確か本を読むのが早くなる技術ですよね。」
「そうだ。その速読のスピード、正確性、記憶力を競う大会で、あの子は高校生でありながら三年連続日本代表。今年は遂に世界大会でも優勝してしまった。つまり。」
「……つまり?」
「彼はいま、世界で一番本を読むのが速い男なんだよ。」