臆病な王様
むかしむかし、ある所にとても臆病な王様がおりました。
これは、その王様の秘密を知った泥棒の話です。
知ったからには死んでもらう。
当然だろう?
逃がす?
出来るわけがないだろう。
いつ口がすべるか分かったものじゃない。
それなら殺す方が確実だ。
死人は喋らない。
約束する?
信じると思うのか?
あいにくと私は信じていないし信じられない。
そんな不確かなものはいらない。私は確実さが欲しいんだよ。
そうだなあ。
じゃあ、喉をつぶそうか。
声が出なければ喋れない。
でも駄目だな。
喋れなくとも文字がある。
学がないから文字は書けない?
へえ、でも今は書けないだけで、後で書けるようになるかもしれないだろう?
ああ、なら腕を切っておこうか。
そうすれば文字は書けない。
でも駄目だな。
腕がなくとも足で地面に書ける。
じゃあ、足も切ろうか?
それでも駄目だな。
まだ目がある。
目線で人に訴えかけることは出来る。
じゃあ、目もつぶそうか。
でも駄目だな。
まだ首がある。
首があれば人の問いかけに答えることが出来る。
じゃあ首も切ろう。
ほら、結局はそういうことなんだよ。
私は臆病なんだ。
とてもとても臆病なんだよ。
この国一の臆病者でね、心配事がひとつでもあると眠れそうにないんだ。
だから君を生かしておくことはできない。
むかしむかし、ある所にとても臆病な王様がおりました。
これは、その王様の秘密を知った泥棒の話です。
え?
結局、王様の秘密は何なのかって?
おやおや、あなたはあの泥棒のようになりたいのですか?
ええ、ええ、そうでしょうとも。
物語には知らない方がいいことも多分に含まれているものです。
え?
お前はこの話をどこから聞いたのか?
……そうですねぇ。
先程の言葉、訂正いたしましょう。
物語には知らない方がいいことも多分に含まれているものです。
そして気付かない方がいいことはもっといっぱい含まれているんですよ。
fin