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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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92話 青い炎

よろしくお願い致します。


 ──それは、まさにこの世とは思えない光景だった。


 ─────


 ─ギャッシャアァァァァーーッ



 あの鋏の大顎を持った百足のような魔物が、この地下洞の地面、壁、天井、ありとあらゆる場所から身体を突き出し、鎌首をもたげていた。

 その数は、最早数える事が不可能なくらい。ただ辺り一面、百足のような魔物の黒い身体が、この場所を埋め尽くすように妖しく蠢いている。


 そしてその中央に、他のそれとは明らかに異なった形状の頭を持つ魔物が、そびえるように鎌首をもたげていた。

 身体の半分くらいまでしか地上に姿を現していないので、その大きさは定かではないが、おそらくは全長は優に15、6メートルくらいあるのかも知れない。


 とにかく、とてつもなく巨大だった。その姿は、最早百足や黒い大蛇というより、何処かの東方に伝わる空想上の存在である(りゅう)を連想させた。




 ──────────




 ─キシャアァァァーーッ



「……何なの?……これ」


 私は呆然としながら軽く目眩を感じ、そう呟いていた。


「──まあ、ちょうどええわ!!」


 そう声を上げるクリス君の顔を見て、私は驚く。彼は前方に群がる魔物の姿を睨み付けながら、口元を歪にゆがめ、笑っていた。


「デュオ姉! こいつらはこの地下洞に住み憑く妖蟲(ワーム)ちゅう魔物や! 多分、さっきのデュオ姉が戦った奴らが誘き寄せよったんやろ!………それにしてもごっつい数やな。おまけに親玉も、もれなく付いてきよるし……」


 ─キシャアァァァーーッ


 ワームの群れが雄叫びの音を上げる。


「やっぱ早よあの場所からとんずらしとくんやったな~。うん、失敗やった。そやけど、もうしゃーないな。どうせ、この地下洞から抜け出すつもりやったんや……そやから、こいつらから逃げ回って移動するよりは──」


 そしてクリス君は、左手に持つ長杖を大きく構えた。その先端に取り付けられた槍の穂先のような所から、光り輝く魔法陣が浮かび上がる。


「──ここでまとめて()ったるわ!!」


 クリス君の怒号の声が轟く。


「──光の(ライティング・)防御壁(ウォール)!」


 その直後、魔法が発動し、彼と私の身体に光の壁が現れ、そしてそれは不可視化していく。


 これはアルが良く使ってた防御系の魔法だ。


「ありがとう。クリス君!」


「別に構へん。それよりもデュオ姉、くるで! 僕の傍からなるべく離れんとってな!」


「うん。分かった!」


 そう答え、私は心の中で剣に対し念を送る。


 ……剣。私の右手の中に──


 その心の声に応じるように、私の右手の中に漆黒の小型剣が滑り込んできた。それを力強く握り締める!


 ─キシャアァァァーーッ


 数体のワームが私達に対して、大顎を開きながら突進してくる!


「──大爆発(エクスプロード)!!」


 私の前方にいるクリス君の口から、魔法の詠唱が完了し、再び手に持つ杖の穂先に新に赤い輝きの魔法陣が浮かび上がる!

 その瞬間、突進してくる数体のワームの中で大爆発が起こった!


 轟音が地下洞内に響き渡り、辺りが爆炎と煙に包まれる! それにより数体のワームの身体がバラバラに消し飛んだ!


「まだまだ! こんなもんちゃうでっ!!」


 クリス君はそのままその場所で、魔法を次々と繰り出していく!


「──爆発(エラプション)!」


「──爆発(エラプション)!」


「──大爆発(エクスプロード)!!」


 その度に、彼の左手に持つ杖の先端に魔法陣が出現し、消えていく!


 そしてそれに連動するように周囲に連続で大爆発が発生する!


 ─ギギシャアァァァーーッ


 ─ギギギ、シャァァーッ


 ─ギギ、ギギギギ……


 ─ギギ……キシャアァァァーーッ


 爆音とワームの断末魔が周囲に鳴り響く!


 それは繰り返され、立ち込める炎と煙の中。明らかにワームの群れはその数をすり減らしていく!


「す、凄い……これが『守護する者』クリス君の力……」


 そんな光景を目の当たりにした私の口から、そう言葉が漏れた。その時、不意に魔法を放っているクリス君の左後方へと、一体のワームが襲い掛かってきた!


「クリス君! 危ない!!」


 私は剣を振り上げながら、彼の元へと駆け出し大声を上げる! ワームの開いた大顎が、クリス君の背後に迫る! 

 しかし、そのワームの攻撃は、彼にかわされる事になった。


「──甘いわ! 僕をただの魔導士やと思とったら、痛い目みるでっ!」


 クリス君はそのワームの顎が直撃する寸前に、持つ杖を地面に突き立て、両手で支えながら、杖の上方で逆立ち状態になった。そしてその杖に力を込め、地面を突き上げる!


 その勢いで彼の身体は杖ごと宙を飛ぶ! 空中でヒラリと宙返りをし、そのまま下方にいるワームの頭に、手に持つ杖の鋭い穂先を突き立てた!


「……ほら、ゆうたやろ? 痛い目みるって──くすっ」


 クリス君はそう言葉を吐き捨て、跳んで地面に着地する。そんな彼の姿を見て、私は再び感嘆の声を呟くように漏らした。


「……やっぱり凄い。クリス君……」


 前方を確認すると、明らかに数を減らしたワームの群れと中央の大型の個体。その残っているワーム達も何体か傷付き、身体から緑色の体液を垂れ流している。


 ─────


「クリス君。何とかこのままいけそうだね!」




 ──ゴゴ、ゴゴゴゴゴッ─


 ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガッ─ドガガッ!!



「──ちっ!!」 漏れるクリス君の舌打ち。


 しかし、この私の言葉を嘲笑うかのように、地割れの音と共に新たなワームの群れが、次々と姿を現し始める!


 ─キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ─キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ──キシャアァァァーーッ!


 ─────


 ──ああ……


 気が付けば、私達の周囲を数え切れない程のワームが取り囲んでいた。


 ─ギャッシャアァァァァーーッ!!

 

 巨大な龍のようなワームが吠える!


 取り囲んだワームの群れが、獲物である私達を無機質な目で睨み付けながら、大きな鋏の顎をカタッカタッと打ち鳴らしている。

 そんな光景に、私は息を詰まらせそうになる。感じる感情は……絶望──


 ──────


「……ふふっ」


 ………?


「あはっ、あははははははっ!」


「………クリス君?」


「──たかが妖蟲(ワーム)如きが、調子に乗るなっちゅーねん!!」


 突然、笑い声を上げたクリス君が叫んだ。それに驚き、彼の方へ目をやると、手にした杖の先端で浮かび上がっている魔法陣とは別に、彼の頭上で新たな魔法陣が出現していた。そしてそれは一際大きい。


「ふふっ、僕のとっておきを味わさせてやる! そやけど完成、発動まで、ちょっと時間が掛かるさかい、それまで──」


 クリス君の手に持つ杖から、魔法陣が赤く浮かび上がる。


「──大爆発(エクスプロード)!」


 前方のワームの群れの中で大爆発が起こり、一瞬にして数体のワームがバラバラに引きちぎられ、爆風によって吹き飛ぶ!


「──こっちの魔法をたっぷり味わさせたるわ!!」


 ─────


 ─キシャアァァァァーーッ


 複数のワーム達が一斉に攻撃を開始する! 


 迫りくるたくさんの大顎!

 最早私は、それをかわす事だけで精一杯だった。それでも何体かのワームの顎が私の身体をかすめていく。その度に施された防御魔法が発動し、出現する光の壁。


 それでも隙を見付ければ、ワームの身体に右手に持つ剣の斬撃を叩き込んでいく! そしてその剣の攻撃が軽く触れただけで、ワーム達の身体は真っ二つに裂かれる!


 やっぱりこの剣も凄い!──凄いよアル!


 そんな中、私は再びクリス君の方に目を向けて、彼の姿を確認する。


 クリス君は左手に持つ長杖を巧みに使いこなし、ワーム達の連続攻撃を華麗にかわしながら、杖の穂先をワームの身体に突き立てていた。

 そんな彼の頭上で浮かび上がる大きな魔法陣が、前に見た時よりもはっきりと、そして色鮮やかに輝いているようにも感じる。


「──くすっ。ホンマ、みんなおねだりさんやな。でもごめんな。完成まで、まだもうちょっと時間掛かるねん」


 クリス君は再び魔法を発動させる。


「──大爆発(エクスプロード)!」


 激しい爆音と共に、複数のワームの身体がまたバラバラに飛散する!


「うふふっ、僕は生まれてから、ひとつの特殊能力を持っとってな──」


 また穂先に浮かび上がる魔法陣。


「──大爆発(エクスプロード)!」


 再び起こる爆発と飛び散るワーム!


「今、僕が考え、行動している思考とは別に、魔法の詠唱だけを強行できる思考ってのを頭の中に持ってんねん。そやから、ほらこうやってる間にも──」


「──大爆発(エクスプロード)!」


 ワームの群れの中で爆発が起こる──


 ──そしてクリス君の頭上に輝く魔法陣が、その輝きを最頂点まで達成させた。


「──さあ、お待ちどう様。今、ようやく完成したで。ようさん味わって~な。僕のとっておきのメインディッシュ(最後の晩餐)──」


 クリス君の前に突き伸ばした両手に、光の球が集束されていく!


 ─────


「──いてまえっ!!──終焉の業火(メギドフレイム)!!」


 ──ウオォォォォォン─


 光の球が閃光を放ち、そこから異音を発しながら青い色の炎が溢れ出す! そしてそれは周囲に広がり、やがて尾を引く炎の渦となって、意思を持つ生命のように全てのものを呑み込み、焼き尽くしながら駆け巡っていく!


 ──メキッ、メキッ─


 私の身体に現れた光の壁が、軋むような悲鳴の音を立てる。


「くっ、うう……」


 私は両腕で身体を守るようにして、何とかそれに耐える為に、地に着く足に力を入れ踏ん張った。


 そして耐える為に閉じた目を、半開きにして視界を回復させる……。


 そこには想像を絶する炎の世界が飛び込んできた。


 ─────


 この広い地下洞内を、青い炎が燃え盛り渦巻いている。

 数え切れない程のワーム達が、音を立てる時間さえ与えられずに、その身を黒い炭と化し、消し飛んでいく……。


 洞窟の岩肌さえ焦がす灼熱の炎──


 全てを焼き尽くし、無に帰す終わりの炎──


 青い。ひたすらに青い炎──


 ──そんな炎の世界──


 私は凄く不安な感情に襲われ、思わず声を漏らしていた。


「……怖い……アル……」


 その光景が『滅ぼす者』がもたらす『滅びの時』……その時を連想させて──


 悲しくてやるせない。そんな負の感情に押し潰されていく──


 気付けば、一筋の涙が頬を伝っていた。


 やがて、全てを無に帰した青い炎は、その役割を終えるように最後に自らの姿も無に帰す。


「………」


 辺りは静かで、くすぶる煙と焦げ臭い異臭が立ち込める中、シュウシュウと熱く焼け(ただ)れた岩肌から、発生する水蒸気の音だけが聞こえてくる。


 何百体いたのだろうか、巨大な龍のような個体も含め、数え切れない数のワーム達が消滅し、その存在をこの世界から()()()()とされている。


 ─────


「デュオ姉。周り熱せられて熱いから、まだ動いたらあかんで」


「……クリス君」


 そう声を掛けてくる方へと目を向ける。

 

 そこには杖を手にした白い法衣の後ろ姿が目に入ってきた。彼は後ろに振り返らずに言葉を続ける。


「……僕はな。クリスティーナっていう名前も嫌いやけど、ホンマの事ゆうたら、おかんの事も好きちゃうねん……」


「………」


「おかんはタマゴから(かえ)った僕の姿を見て、メッチャ落胆したと思うわ。なんで女の子ちゃうんやって……それは多分、子を思う親のやさしさってやつなんやろって思う。でも……でもな……」


 クリス君は前を向いたまま話し続ける。その声は心なしか、震えている気がする。


「そのやさしさを……そんなおかんを認めてしもうたら、今の男として生まれてきた自分を否定してしまう! 確かに、僕は望まれて生まれてきたんじゃないかも知らへん。そやけど、男として生まれてきた僕も、同じ命を持つおかんの子や! その僕を否定する……そんなおかんなんて……」


「………」


「……嫌いや……」


 私の頬に、また涙が伝っていく。


 この子、ずっと戦ってるんだ。強い子だな。


「……クリス君」


 私の呼び掛けに、彼はゆっくりと振り向き答える。


「ごめん。デュオ姉、何か辛気くさい話してもて……」


「いや、そんな事ないよ。私、そのクリス君の気持ち良く分かる。私も生まれてきた時。誰も私の存在を喜んでくれなかっただろうから……」


「そう……なんや……」


 そう短く呟くと、クリス君は再び前を向き、そのまま後ろにいる私に向かって話を続ける。


「でも僕自身は、男に生まれてきて良かったと思うてる。そのおかげで火の一族の族長になれた!」


「うん!」


 私は相づちを打つ。


「火の大精霊を『守護する者』に選ばれた!」


「うん!」


「そんでこの力を手にする事ができた!」


「うん!」


「そやから、僕は男に生まれてきた事を誇りに思っとる! 女やない。男に生まれたからこそ手に入れたこの力で、絶対アレンを救い出したる! この世界に危機が迫ってるんやったら、この力で変えたるんや!!」


「うん!!」


 そう答えながら私は思う。 


 うらやましい。私も強くなりたい。クリス君のように。アルのように……強く……もっと強く。


 右手に持つ黒い剣に視線を落とし、私は小さく呟く。


「──アル」


 彼は今、何処でどうしているのだろう? おそらく剣の姿で動けなくなってしまっているのだろう。だったら、今の私がするべき事は、動けなくなったアルを見付け出し、助け出す事。

 そして再び、私の身体でひとつとなって、完全なデュオ・エタニティに戻る事。


 私はもうあの漆黒の剣と──アルと離れたくない!!


 アル。待ってて、私が必ず見つけ出すから!


 私は右手に持つ黒い剣を握る力をギュッと強める。


 今度は、私があなたを助け出すから!


「よし。ほな、ぼちぼち行くで。デュオ姉」


 クリス君がそう言いながら、後ろにいる私に手を差し伸べてくる。私はその手を取り、返事を返した。


「うん。行こう!」


 ─────


 私は強くなる! だから、待ってて。アル!!




 

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