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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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89話 視て虚を突く!

よろしくお願い致します。


 ───


 ─キシャァァァーーッ!


 もう嫌だーっ、この叫び声、いい加減聞き飽きた!


 三体の内、一体が大きくその身体を揺らしながら、鎌首を持ち上げ始める。


 !!……あいつ、今、こようとしているな。


 私はその魔物に対し、剣を構え神経を集中させる。


 ──『視』て、『虚』を『突』くんだ!──


 記憶の中のアルの声が、私の頭に響いてくる。


 視て虚を突く……ああ、確かアルにそう教えて貰った!


 あれは確か、何処かの街の宿で珍しく入浴できる機会に恵まれたので、アルと私が入れ替わり、身体の主導権を握った私が入浴を済ませた後だったっけ──




                   ◇◇◇




『ノエル、ちょっと時間いいか? 今、ちょうど入れ替わってるし、いい機会だから』


 私は少し不機嫌そうな声を上げる。


「ええ~っ、せっかく今からお風呂上がりに冷たい飲み物を頂こうと思ってたのにっ!」


『声に出して言うなよっ!……で、ちなみに何を頂こうとしてたんだ?』


『言わないと分からない?』 


『お、お前、本気(マジ)か……』


 アルがそう念話の声を漏らしながら絶句している。いつもの日常だ。


『なんで、こんな場所にトマトジュースがあるんだよ。大体そんな都合良く……一体、この世界はどうなってんだ? 皆どんだけトマト好きなんだよ!』


『それはトマト嫌いのアルの勝手な偏見でしょ?』


『あ~っ、悪うござんしたね。どうせ俺はトマトが嫌いなお子様ですよ! それに比べてお前は確か、食いもんの好き嫌いがないっていう特殊能力(スキル)持ちだったっけ? へんっ!』


『またバカにして!……まあ、でも私は選ばれた人間だからね?』


『はあ?』


『だって私は漆黒の魔剣(アル)に選ばれた特別な女の子だもん』


『……ぐふっ!……いやいや、そんなんで誤魔化そうたって、もう騙されねぇぞ!』


 こうやってアルとやり取りするのって凄く楽しいけど、そろそろ本題に戻らなきゃ。


『まあ、いいや。ところで私に何の用事?』


 私はアルに心の中で問い掛ける。


『……ブツブツ……』


『んんっ?』


『嫌だ……トマトジュースだけは勘弁してくれ。大体、これは何に対しての罰なんだ。俺、何か悪い事したか?』


『……おーい! 帰ってこーい、アルく~ん!』


『──はっ、もしかして……いや、それはあり得ないな……うん?……いや、でもどうだろう……?』


『おーい、アルく~ん!』


『とにかく今回は頭を下げて謝ろう。全く身に覚えがないんだけど……トマトジュースだけは是が非でも回避するのだ!……でも、後が怖いしなぁ……だが、待てよ……あっ、そういえば──』


『だーーっ! もういい加減、長いわっ! いいから帰ってきなさいっ、アル!』


『……ヤだ……トマトジュース。やめてくんなきゃ、ヤだ……』


 ──ビキッ!


『──いいから早く帰ってこいっ!!』 


『ぐふっ……は、はい……』


 ───


 そして私達、デュオは宿屋の食堂の空いた席に着く……まあ、今回は残念だけどトマトジュースは我慢する事とする。


『それで、改めて私に何の用事なの?』


 私は再度、問い掛ける。


『ああ、うん。今、俺達はノエルの身体でふたつの精神を宿している。それがデュオだ』


『うん、そうだね』


『そうである以上、これから先、もしかしたらノエル。お前がそのデュオとして戦わないといけない場面に遭遇する可能性は否めない。だから──』


『……うん』


『その時の為に、最低限の戦い方の心得ってやつを、これからお前に教えようと思う』


『………』


『うん? どうした、返事は?』


 私はボソッと心の中で呟くように声を漏らす。


『……私にできるかな?』


 ちょっと不安になっている私の声に、アルは元気付けるような口調で私に返してきてくれる。


『大丈夫さ。きっと、ノエルにだってできるよ。お前だってデュオなんだから』


 彼は続ける。


『俺とノエルはふたりでひとり……ずっと一緒にいるって契約しただろ? だから……』


 その言葉に、私の中から何か熱いものが込み上げてくる。そして、それは私の意志の強さへと変わっていった。


『ありがとう、アル。良く分かった。色々と再確認できたよ。じゃあ、教えて、その戦い方っていうのを──私がデュオであるその為に!』




                   ◇◇◇




 私は漆黒の小型剣を構え、今、複数の百足のような魔物と対峙していた。 


 ───


 ──『基本、敵との戦闘はまず相手となる者の動きを良く()()』──


 再び私の頭の中で、記憶のアルの声が響いてくる。


 ──『次に、攻撃できる隙。言わば()を見つけ出す。或いは自分の手で作り出す』──


 私はその記憶の声を確認しながら、剣を握った手にギュッと力を込める。


 ──『後はその虚を攻撃する。すなわち()()だ。「()」て「()」を「()」く。これが最低限の心得ってやつだ。凄く簡単だろ? でも、戦いに於いてこの事が最も重要な要点となる。必ず覚えておいてくれ』──


 ───


 ─キィシャァァァーッ!


 一体の魔物が鋏の大顎を開いて、私に向かい突進してきた!


 『視て』


 私は攻撃してこようと突進して来る魔物の動きをじっくりと見据える。そして──


 『虚を』


 その魔物の顎の攻撃を寸前の所でかわした。それによって生じる敵の隙。そこに右手に持つ剣を──


 『突く』


 振り下ろす!!


 ─グギャァッ、シャァァァ!


 身体を分断され、緑色の体液を撒き散らしながら、魔物が断末魔の雄叫びを上げた。


 その姿を横目で確認し、私は前方に振り返る。


 ─キィッシャァァァーッ!


 残り二体の魔物が咆哮を上げ、内、一体が顎を大きく開けながらこちらへと向かってきた!


 私は再び良く視る。


 すると動き出した魔物の動きに合わせるように、残りの一体が少し遅れて突出を開始する。


「もうその手には乗らないよっ!」


 私は一体目の魔物の攻撃を最小限の動き。上半身を捻る事によって、それを何とか回避する。続いて繰り出される後続の二体目の攻撃! 今度は真横に軽く跳んでかわす。

 そして発生したその隙目掛けて、剣による斬撃を放った!


 ─ギギャッ、シャァァァ!


 再び身体を両断された魔物の絶叫が響く……そして──


 ──タンッ─


 その場で高く跳躍し、私の身体は宙を舞う。


 次に下方に見える残り一体の魔物、その頭に向けて、自身の体重を乗せた剣の一撃を突き立てた!


「たあぁぁーーっ!!」


 魔物の身体が崩れ落ち、激しい音を立てながら、地面に叩き付けられるようにして倒れていく。


 それはそのまま絶命した。


 私は魔物の頭から剣を引き抜き、軽く跳んで地面に着地する。


 ───


 ふぅ……何とかなったみたい。


 三体の倒れた魔物の姿を確認して大きく呼吸をする。


「はあ~、さすがに疲れた……」


 両膝に手を着き、少し前屈みになりながら、私はそうポツリと愚痴をこぼした。


 でも勝てた。私なんかでも何とかできた。全部あなたのおかげだよ、ありがとう。アル……。


 私は彼に対して感謝の言葉を心の中で述べた……そんな時──


 ───


「わお! すごい、すごい!」


 不意に後ろから、何者かの声が聞こえてきた。


「……誰!?」


 私の声に反応し、天井と地面とを繋げる岩の柱の影から、何者かが姿を現した。


「ホンマ、すっごいわ! 例えたかが妖蟲(ワーム)ゆうたって、あんな簡単にあっちゅう間にやってまうなんて。姉さん、メッチャ強いやん! 僕、思わず見とれてしもうてたわ」


 そう言いながら姿を現したその人物。大分小柄だ、身体には白い法衣(ローブ)を纏っている。左手には自身の身の丈を優に超える金属製の杖のような物を手にしていた。ただ、その顔はフードを目深に被る事によって隠され、確認する事はできない。


 声は何か女の子っぽいな……後、何ていうか、訛りがすっごいんですけどっ!


「誰? あなたは一体、何者?」


 私はもう一度、同じ質問をする。


「それは僕の台詞や。姉さんこそ何者なん? どっからきたん? 見た感じやと、そんな悪そうな奴には見えへんけど、実際どうなん?」


 ローブの子はそう返してくる。


「……え、え~っと」


 ……何者なん? きたん? どうなん?──なん?? 


 私はその独特の癖のある口調に戸惑いながらも答える。


「私は黒い鎧を身に付けた奴らに襲われて、崖から突き落とされたんだ。そして気が付いたらこの場所にいた……ねえ、君。この場所、何処だか分かる?」


 すると、その子はクスッと軽く笑い声を漏らした。


「ふふっ、ふ~ん、そうなんや。やっぱ思てた通りや。姉さんも僕と同じクチなんやな?」


 そしてその子は被っていたフードを外し、下へと下ろした。


 隠されていた容姿が顕になる。





      

          挿絵(By みてみん)



 ───


 藍色の髪を首元の長さで綺麗に切り揃えている。そして金色に輝く瞳。その瞳孔は、何か異質な雰囲気を漂わせているようにも感じる──見事に整った顔立ち。


 ──まだ幼いが、美しいと感じる完璧な美少女だった。


 その姿に少し唖然としながら、私はある事を思い出した。


 ……訛りが酷い美少女──はっ、これってもしかしてフォリーさんが言ってた人じゃ……火の大精霊を『守護する者』、名前は、え~っと確か──


 ああ、そう。『クリスティーナ』!


「んんっ? なんや、さっきからどうしたん? けったいな姉さんやな」


 ───


 やっぱりすっごく酷い、なまりが……。




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