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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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88話 私は魔人、魔人デュオ!

よろしくお願い致します。

 

 ───


 ─キシャァァァーーッ


 ど、どうする? 私、取りあえず落ち着け。そして考えるんだ……そもそも今、私がいる場所は一体何処なのっ!?


 私は前方にいる魔物に注意を払いながら、横目で自身の周囲の様子を確認する。


 辺りは薄暗く、天井があった。そしてその天井と地面とを繋ぐようにして、無数の歪な形状の細い岩のような物が伸びている。


 天井から差し込んでくる僅かな日の光。遠くからは水が流れるような音も聞こえてくる。


 そうか、ここは地下。地下洞なんだ……でも、水の流れる音が聞こえるっていう事は、私はここに流されて来たって事なのかな?


 ─キィシャァァァーーッ!


「あっ、忘れてた! しかも何故か、さっきより怒ってる?」


 もしかして私がこいつの事、忘れてたから怒ってるのかな?─って──あっ!!


 私がそう考えていると、その百足のような魔物は鋏の顎を大きく開けて、噛み付こうと突っ込んで来た。


「──うえええぇ~っ!」


 このままじゃ、取りあえず避けないと!


 私は何とかそれをかわそうと、後方に跳んでみる。


 ──ドガッ!─


 激しい衝突音と共に、魔物の頭が地面にのめり込んでいる。


 その姿を遠く離れた場所で目にしていた。


「──え? う、嘘……」


 私は確かに攻撃を避けようと後方へ跳んだ。だけど……。


 そう、私は自分が跳んだその距離に驚いていた……そしてある考えに到達する。


 ……もしかして。


 すると、地面に頭をめり込ませていた魔物が、再び頭を振り上げ、まるで狂ったかのように私に向かって突撃してきた!


 その魔物の攻撃を、今度は上方へと跳んでかわしてみる。


「す、凄い!」


 今、私の身体は魔物の遥か上で宙に浮いていた。そして目に入ってくるのは下方で私と遠く離れて、小さくなった魔物の姿だ!


 魔物は突っ込んだ勢いで私の下方を通り過ぎていく。やがて、私はそのまま、地面に着地した。


 足に軽く衝撃が走り、足と地面の接触面が土埃を上げながら亀裂を発生させる。


 もう間違いない。アルは剣が力を吸収して身体を強化させるって言ってた。(アル)と離れてしまって今、私の手元に剣はないけれど……その力。失った訳じゃないんだ!


 攻撃をかわされ、怒り狂った魔物が再度、のたうつように鋏の顎を広げて私に向かって突進してくる!


 その時、突然私の頭の中でひとつの言葉が閃く。



 ──視て虚を突く──



 ──えっ、今のは何!?


「………」


 次は直ぐに動かず、相手の動きを見極めるようにして、()()事に集中する。


「うん、ちゃんと見えてる!」


 そしてその攻撃が当たる寸前、紙一重の所で瞬時に真横に跳び、それをかわした。


 それにより、魔物の無防備な胴体が顕になり、私の視界に入ってくる!


 ──攻守交代! 次は私の番!!


 私は拳に力を込め、渾身となる一撃をその魔物の胴体に叩き込んだ!


「いっけえええええぇぇぇーーっ!!」


 強烈な打撃音と共に拳に圧が掛かる! そして何かが弾け飛ぶような感覚と同時に、私の拳に加わっていた圧力が急になくなり、私はその勢いで前のめりに前方に頭から転びそうになった。


「わわっ、危なっ!」


 咄嗟に地に手を着き、頭からの地面の激突を防ぐ……が、それが不味かった。


 地面に手を着く事により、私の身体は一回転し、そして盛大に地面に尻餅を着いてしまう事になってしまった。


「──い、痛っあ~いっ!!」


 私はお尻の痛みに耐えながら立ち上がる。


 痛たたっ……やっぱ、アルみたいにカッコ良くはいかないか……。


 そして後ろへと振り返った。


 ─ギギギッ……ギィ……ギ


 そこには先程の百足のような魔物が胴体を破壊され、ふたつに分断された状態で弱々しく痙攣していた。


 やがて、動かなくなる。


 私はその場で棒立ちになって考え込んでいた。


 私、倒せちゃった……凄いっ、凄いよ! この力! まるで人間じゃないみたい!!


「……ん?」


 そしてさっき思った感想を、もう一度、心の中で復唱してみる。


 ……()()()()()()みたい……?


 途端に私はガックリと両肩を落とし、頭を下げて大袈裟に落ち込むような格好になってしまっていた。


 次にこういう状況に陥った女の子が発言するであろう、お決まりの台詞を私はボソッと声にして漏らした。


「……もう、お嫁に行けない……」


 そして自分でも訳の分からない事を思わず、口走ってしまう。


「こんな身体になってしまったのは元はと言えば剣……いや、アルのせい!」


 続けて定番の台詞を口にする。


「身体をこんなにしちゃった責任を取って貰わなきゃ─って、こういう場合、やっぱりお嫁さん?」


 顔がカーッと熱くなり、見悶える私。


「……はわわわわっ!!」


 ……何やってんだか─ったく。


 何だかんだでひとり、うきゃうきゃ、のたうち回っていると……。


 ─キィシャァァァーー


 その聞き覚えのある雄叫びに、私は恐る恐る頭を上へと上げた。


「うっ、うえぇーーっ!! 冗談……だよね?」


 私を取り囲むようにして前回と同じ形状の魔物が三体。いや、前のより幾分大きいかも……それらが鎌首をもたげながら、鋏の大顎を今にも噛み付こうと全開にして雄叫びを上げていた。


 ─キシャァァァーッ!


 三体の内、一体が私に向かい、その鋏の開いた頭を振り下ろしてきた!


「わわっ、ちょっと待っ─!!」


 それを横に跳んでかわしたが、着地と同時にもう一体が襲い掛かってくる! その不意討ちとなる攻撃に対応が遅れながらも、何とか回避する事ができた。

 だが、その際に身体を掠めるようにようにして魔物の打撃を受けてしまった。


 その強力な力に、私は身体を大きく後ろに飛ばされる。


 何とか空中で体勢を立て直し、足からの着地を成功させた……そして屈み込んだまま頭を上げ、目の前の魔物を再確認する。


 私の目に再び鎌首を持ち上げるようにして、三体の魔物がこちらに向かい、鋏の顎を開いている様子が確認できた。

 三体の内、二体はやはり、さっき倒したやつよりも一回り身体が大きい。


「……これは大分、不味いかも……」


 頬に伝う複数の冷や汗を感じ、私の表情は険しくなっていく。


 ……!?


 その時だった。私の右肩に何かの存在を感じた。いや、存在していたものに気付いたといった方が正しいのかも知れない。


 私はそれを確認する為に、自分の右肩を振り向くようにして覗き込んだ。


 そこには右肩の後ろ側から生えているようにして一本の垂れ下がっている、見慣れたあの漆黒の剣の触手が目に入ってきた。


 そして次に私がその存在を認識したと同時に、力なく下へと垂れ下がっていた触手が突然動き出し、私の右手の中へ、まるで滑り込んでくるようにその黒くて細い自身を伸ばしてきた!


 触手は私の手の中で紅く、そして妖しい光をぼんやりと発光し始める。


 ……私の右手の中で『(アル)』を感じる。


 ずっと一緒にいる。その契約、守ってくれてたんだね……私の身体の中にアルが残してくれた欠片(かけら)がある!!


 ──だったら。


「アル! お願いっ、私に力を貸して!!」


 私の声に反応し、右手にある触手が放つ紅い光を強めながら、その形状を変化させていく。


 目が眩むような閃光を一瞬放ち、そして、それは紅い光の発光の強さを和らげた。


 私の目に入ってきたのは漆黒の小型剣。その黒い刀身は例の如く紅く妖しいぼんやりとした光をその身に宿していた。


 私はその右手にある剣を力強く握り締めた。そして立ち上がる!


 ──ヒュンッ─


 立ち上がり様、一度剣を真下へ振り下ろしてみせた。


 私の剣を握り締める右手から、力が溢れ出すのを感じ取れる!


 私の身体の中にアルがいる限り、私はノエルじゃない。今の私は──!!


「私はふたりでひとり! 一心同体の魔人──魔人デュオ・エタニティだ! えっへん!!」


 私は片手を腰に当て、胸を大きく後ろに反らしながら、もう片方の手で魔物を指し示す。


 そして得意満面で大声を上げた。



    挿絵(By みてみん)



 ──どやあああああぁぁぁーーっ!!


「一回言ってみたかったんだよねっ! あーっ、別に強がってる訳じゃないからっ!」


 その私の声に反応して、三体の魔物の動きがハタッと金縛りにあったように静止しているのは……さて、気のせいだろうか……?


 ─キッ、キシャ……??


 ─キキッ、キッシャ……??


 ……!?


 ─ギギッ……ギギギッ……ギギギギッ!


 三体の魔物はまだ動き出さない。


 何かヤな予感……もしかして私、またやっちゃった?


 私のその予感は見事に的中し、三体の百足のような魔物が大きな鋏の大顎を、ガチガチと打ち鳴らしながら怒りに狂った大音響の雄叫びを上げた!


 ──ギャッシャァァァァーーッ!!!


 はわわわっ! お、怒ってらっしゃるううぅ~っ!!


 ───


 ──ええいっ、私ってホントにおバカ!!


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