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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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87話 大好き

よろしくお願い致します。




                   ◇◇◇




 ………………。


 …………。


 ………。



 ──私は今、何処にいるんだろう。何をしてたんだっけ?──


 ─────


 自分という自我が認識できた時。私は今、ある光景を眺めていた。


 辺りは綺麗に澄み渡る星の夜空が無限に広がっている。その下のとある洞窟の入り口にある岩場。その岩場に男の子と女の子が並んで腰掛けていた。そんな光景を、私は第三者として目にしている。


 それにしてもあの女の子、何処かで見たような……。


 私は女の子の姿を確認する。 


 茶色がかった色の首元に届く程度の髪。そしてその頭の中央から、特徴のある大きなくせ毛が前に垂れ下がっている。

 美人というよりは可愛いという色合いが勝っている、幼いながらも整っていると思える顔立ち。それと大きな目の青い瞳。


 ──あっ、これは私だ。でも何だろう、何か違和感がある……。


 私はもう一度、自分自身であろうと思われるその女の子を観察する。



       挿絵(By みてみん)



 顔立ちが幼いのは元々童顔だからいいとして、何だろう? もっと幼いような気がする……それにまるで感情がないようなこの表情。それと生気の感じられない光のない青い瞳──


 やがて、私はこの光を感じさせない青い瞳を見る事によって、全てを思い出した。


 ……これは昔の私だ……まだ感情が乏しかった頃の、自分の殻に閉じ込もっていた時の私だ……。


 それを認識した後、今のこの状況を考える。


 え~っと、私の目の前にいるこの女の子が昔の私で、今、洞窟の入り口にある岩場に、男の子と並んで座っている─っと……ん~、この状況は……?


 !!……あっ──


 私はその時の記憶を思い出す。


 これは四年前、攻め込んできた兵士の奪略行為に、巻き込まれた時に助けて貰った時の私……という事は隣にいるこの男の子は──


 私はそう考えた途端にもう、その男の子の顔をまともに見る事ができなくなってしまっていた。



 ───



「……あの、お礼を言うのが遅くなってごめんなさい。さっきは助けて頂いてありがとうございました」


 昔の私が隣の男の子にそうお礼の言葉を言う。あまり感情が込もってない声だ。


「えっ、ああ、いや別に礼なんていいよ。たまたま上手くいっただけだし……それに本当は、戦争の事とは絶対に関わるなって、師匠からも強く止められてたんだ」


 隣の男の子は言葉を続ける。


「今回はどう考えても俺ひとりの力じゃどうしようもない状況だった。本当は見て見ぬふりをしてそのまま通り過ぎるつもりだったんだ。俺は礼を言われるような……そんな人間じゃないんだよ」


「………」


 昔の私はしばらく間を空けてから、感情のない表情で彼に問い掛けていた。


「じゃあ、なんで今回は私の事を助けてくれたんですか?」


「………」


 その問いに男の子は直ぐ答えず、再び間が空く。やがて、ひっそりと呟くように彼は言った。


「……それは、君の目がとても暗かったから──」


「えっ……?」


「君の青い瞳に光が全く感じ取れなかったから──」


「………」


 昔の私は無表情のままで、何も言わず彼の方へと視線を向けている。


「君達が兵士達に襲われていた時、他のふたりは恐怖で顔を歪めていた。やがて、それは訴え掛けるような悲しみの表情へと、誰かに助けを求めるように──だけど、君だけは、まるで何も感じてないかのように怯えもせず、無表情のままだった」


 彼は続ける。


「それが何故か妙に気になって、俺はその場所に近付いた。そして君の目を見た。その光のない青い瞳を……その時に俺は思ったんだ。この子は今、一体何を考えているのだろうって……」


 私は男の子の言葉に聞き入る。昔の私も、無表情ながらも彼の言葉に聞き入っているようだった。


「そしてこう思ったんだ。この子の瞳に光を取り戻してあげたい。生きるっていう事、喜怒哀楽の感情の素晴らしさをこの子に教えてあげたいって……だからかな? そう考えた時には俺の身体はもう、兵士達に向かって走り出していた──」


 すると、昔の私は男の子から視線を逸らし、下へとうつ向いた。そしてポツリと呟くように声を漏らす。


「私にも良く分からないんです。何故、自分に感情というものが乏しいのかが、ずっと小さい頃から物心ついた時にはそうだったので……あ、え~っと、ごめんなさい」


「はははっ、多分、そこは謝るところじゃないと思うよ──あっ、そうだ!」


 そう言うと男の子は自分の腰の後ろに取り付けてあるカバンを前へと向けて、何やら中をゴソゴソ探り回っている……やがて


「ふぅ~。ああ、良かった。なくしたのかと思っちゃったよ」


 そう呟きながらカバンに手を突っ込み、何かを手で覆い隠すように取り出してきた。


「ごめん、ちょっと手を出してくれる?」


 昔の私に声を掛けてくる。

 

「はい」


 短くそう答え、昔の私は彼の方へと両手を差し出した。


 男の子は自分の手で隠すようにして、持つ物をそっと昔の私の手のひらに置いた。そしてゆっくりとその手を離す。


 その瞬間、昔の私の手のひらから、ぼんやりと虹色に揺らめく光が溢れ出した。


「……わあああぁぁ……綺麗──」


 さすがの感情に乏しい私も、その光に魅了され、思わず感嘆の声を漏らしていた。


 そんな昔の私の様子を、男の子はしばらく無言で眺めていた。


「凄い綺麗だろ? それ夜光石(ルミナスストーン)って言うんだってさ。俺の初めての冒険で運良く手に入れる事ができたんだ。何でも師匠が言うにはすっごく貴重な宝石だって言ってた。俺の記念品なんだ」


「そう、何ですか? それにしても本当に綺麗ですね……」


 昔の私はその光にまだ魅入っていた。


 すると突然、男の子は何かを思い付いたかのように再びカバンの中へと手を突っ込んだ。そして何かペンダントのような物と小型のナイフを取り出した。次にうつ向きながら、何やら作業を始めた様子だった。


「え~っと、まずはこれをっと……」


 そして昔の私の手のひらで虹色の光を放っている石を、ヒョイッと摘まみ上げる。


「ごめん、ちょっと貸してね~っ」


 その輝く石を手元に持っていき、再び作業を続ける。


「後はこれをこうやって……」


 彼は小型のナイフを小刻みに動かしながら、何かを作り上げようとしているようだった。


「はいっ、これで完成っと!」


 男の子の元気の良い声が響く。


「ごめん、ちょっと目を閉じててくれる?」


 その突然のお願いに、昔の私は少し戸惑いながらもそっと目を閉じる。


 少しだけ間が空いてから、男の子の手が昔の私の首元に触れ、何かを取り付けた。


「もう目を開けてもいいよ」


 そう言われ、昔の私はそっと目を開ける。


 ───


「──うわああああぁぁ……!」


 目を開けると昔の私の胸元で、あの夜光石と呼ばれた石が虹色の揺らめく光を放っていた。


「取りあえず簡易にペンダントにしてみました。それ、君にあげるよ」


 思いの外軽く言う彼の口調に、昔の私は両手を前に突き出しながら声を上げる。


「い、いいえ、とんでもないです。とてもじゃないけど、こんな貴重な物、頂くなんてできません。それに、これはあなたにとっても大切な記念品の筈じゃ……」


 すると、彼は昔の私の言葉を遮るようにして声を発してくる。


「いいよ、別に気にしなくても。俺、宝石には興味ないし……まあ、何かあるとしたら天国にいる師匠にどやされるくらいだろうから」


「それでも……」


 そう言葉を続けようとする昔の私に向けて、男の子は人差し指を自分の口元に立てて、それを制止する。


「俺が君にあげたいんだ。だから、受け取ってよ。それによって君の中で嬉しいっていう気持ちが少しでも感じ取れるのなら、その方が俺にとっても嬉しいと思えるから──」


「──あっ」


 ───


 その彼の言葉に、昔の私はどう感じたのだろう……? 


 見ず知らずの私の事を命懸けで助け出してくれて。そしてさらに今、自身の大切な物を私に与えようとしてくれている。


 今までに感じた事のない、暖かく。そして満たされるこの感覚……。


 ───



       挿絵(By みてみん)



「ありがとうございます。私、一生大切にしますねっ!」


 その言葉に反応し、彼はゆっくりと昔の私の方へと目を向けた。


「良かった。やっと笑ってくれた……」


 そうやさしく声を掛けてくれた。そんな微笑む彼の笑顔を呆けたように見入って、昔の私は頬をほんのりと紅潮させている……。


 ───


 そっか。この時から私はあの人の事を好きになったんだ──


 ───


 第三者として、今の私は、昔の私と隣に座るあの人の事を眺めている。


 この光景が自分の中で、夢の事なのか。ただ思い出を思い出しているだけなのか。頭が混乱し、もう訳が分からなくなってくる。


 ……でも、夢でも思い出でも、あの人は今、実際にここにいる。だったら、久しぶりにじっくりとその顔を見ておきたい。


 そして私は昔の私に向けられている彼の顔を見た。


 一年ちょっと振りに見るあの人の笑顔。



 ──私に生きる喜びと勇気を教えてくれた人。


 ──私に幸せを与えてくれた人。


 ──大切な、私の大好きな人。



 久しぶりに振りに見るその無邪気な笑顔は、やっぱり四年前の彼なのでかなり子供っぽかった。


 まあ、それから三年後。17才の時の彼も私と同じで、幼い顔立ちなんだけれども……。


 ふふっと、私は笑みの声を漏らす。そして並んで座っているふたりを眺めながら、星が煌めく夜空へと身体を浮かせていく。


 どんどん小さくなっていくふたりの姿。


 いい夢だったな。いや思い出かな? そう考えながら意識が遠退いていった。


 ─────


 改めて自覚する、募るこの想い……。


 ──ああ、やっぱり。


 ──『大好き』──


 ……………。


 …………。


 ………。



 ─────



 ──パチッと、まさにそんな感じで私は目を覚ました。


 そして今の仰向けに寝転んだ状態のまま、胸元をまさぐり目当ての物を探し出す。やがて、見付けた私はそれを取り出して目の前に持ってきた。


 蓋付きのペンダント。あの人に貰った物を後日、ロケットに改良して貰った物だ。ちなみにアルはこの存在を未だに気付いてはいないようだった。


 飾りの装飾系の物に全く興味がないのか、はたまた、このロケットが私の身体に馴染み過ぎているのか、それは分からないのだけど。


 私は仰向けのまま上へと手を伸ばし、片方の手でゆっくりと蓋を開けた。


 カチッと音が鳴り、虹色に揺らめく光が手の中から溢れ出す……でも、あまりその輝きは強くはない。それというのも、辺りは幾らかの明るさが保たれている場所のようだったから。


「………」


 私はその光を見ながら、何か肝心な事を忘れているような、そんな感覚に陥る。


 ──んんっ、何だろ? 何か忘れているような……。


 ……!!


 私はガバッと勢い良く飛び起き、ペンダントの蓋を閉め、再び胸元の軽鎧(ライトアーマー)の中へと忍び込ませる。


 そして両手で頭を抱え込み、盛大に叫び声を上げた!


「──あーーっ!! 忘れてたああぁぁーーっ!!」


 そうだった! 今は夢や思い出なんかに浸っている場合じゃないっ! もう、私の大バカ! 卑しい食いしんぼ! この貧乳女!─っていう程胸、小っさくないわっ!!


 ─って、や、やめよう。これ以上、自分で自分の事を(おとし)めるのは……ってか、そうじゃないでしょう? 私!


「取りあえず、今の状況を把握しないと……」 


 え~っと、確か、私とアルは崖の上から落とされて……はっ! アル!!


 私は背中に手を伸ばし、剣の有無を確認した。が、やはり自分の背に剣は今、存在していない。


『アルっ! アルっ!!』


 次に頭の中で呼び掛けてみる。


「……アル」


 やはり返答はない。いや、そもそも自分の身体の中にアルの存在がないという認識が、私には何故か分かるのだった。


 ふと直ぐ近くの足元に水溜まりがあったので、そこに自分の顔を映し出してみる。


 水溜まりに歪んで見える自分の顔。予想通りオッドアイではなく両目が青い色の瞳だった。


「………」


 私はそのままの状態でしばらくの間、動けなくなる。


 そっか……私とアルは離ればなれになってしまったんだ……また、ひとりぼっちになっちゃった。


 ──その時だった! 自分の後ろで何かの気配を感じた。


 ───


 ──キシャァァァーッ!


 続いて、何か得体の知れない雄叫びのようなものが、私の耳に聞こえてくる。


 ……何かいる……。


 私は後ろを振り向かずに前方へと走り出す。そしていくらか距離を取って、その()()を確認する為、後ろへと振り向いた。


 ──キシャァァァーーッ!


 再び聞こえてくる雄叫び。


 そこには、鋏のような顎を持つ巨大な百足か蚯蚓(ミミズ)を連想させる魔物が、巨体を持ち上げるようにしてその無機質な目を、私の方へと向けている姿が飛び込んできた。


「う、嘘でしょう……?」


 ───


 ──これってもしかしなくても、私って今、大ピンチ!?




 

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