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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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84話 心臓というキーワード

よろしくお願い致します。



                   ◇◇◇                


 ───

 

「デュオ!……な、何という事だっ!!」 


 金色の髪の美しいハイエルフ、フォステリアが愕然と声を上げる。


 その彼女の前方で、ふたりの仮面を付けた男の姿とミッドガ・ダルの鎧を付けた兵士達の姿があった。


 ───


「──で、あのエルフの方はどうすんだ?」


 黒髪を逆立たせた、二本の剣を両手に持つ仮面の男が、もうひとりの赤黒い髪の仮面の男へと、問い掛ける。


「殺せ──」


 その答えに、黒髪の仮面の男の覗いた口元が歪にゆがんだ。


「ヒャハッ、そうこなくっちゃな」


 そしてゆっくりと振り返ったその男は、何人かのミッドガ・ダル兵士と共にフォステリアに向かって歩いて行く。


「さあ、お前ら、新しい存在と昇華したその力。今一度、その女で試してみろ!」


 そう黒髪の仮面の男が声を漏らす。それと同時に四人のミッドガ・ダル兵士がそれぞれ手に持つ武器を振り上げながら、馬上のフォステリアに向かい駆け出して行った。

   

「……デュオ。私は──」



    挿絵(By みてみん)



 ───


 打ち合う金属音が鳴り響き、馬上から降りたフォステリアと兵士達との戦闘が始まる。


 激しい打ち合いが続き、彼女の持つ精霊の刺突剣グロリアスが放つ青白い光が徐々に強くなっていく。しかし、例え4体1とはいえ、相手が通常の人間であれば、フォステリアに対してこの境遇など何の造作もない事。だが、今回に限ってそれは当てはまらない。


 やがて、フォステリアの劣勢が大きく確認できるようになってきた。


(──くっ、一体何なんだ。この者達の尋常ではない力は? この力は最早、人間の持つ領域の力ではない!……この者達は一体……)


 ───


 その戦いの様子を両腕を組みながら、しばらくの間眺めていた黒髪の仮面の男が、引き連れてきた残りのミッドガ・ダル兵士達に目配せをした。

 それに応じ、残った全員が動き出そうとする。


 ──が、それを手で制する黒髪の仮面。


「……やっぱいいわ。お前らはここにいろ」


 そして黒髪の仮面の男は、背中に交差させていた剣を再びその両手に持った。ヒュンッと一度、音を立てて、振るう。


「こんな上質な造形(かたち)獲物(おもちゃ)、お前らに()らせるのは勿体ない。裸にひん剥いてゆっくりとなぶって、その後で──」


 そう呟き、フォステリアに向かい、疾走しながら言い放つ。


「──俺が殺す!」


 こちらに仮面の男が向かってくるのを確認したフォステリアは、目の前で相手をしていた兵士を力任せに無理矢理蹴飛ばした。

 そしてレイピアを再び構え直した彼女は、向かってくる強敵と対峙する為、仮面の男の方へと振り向いた──


「──何っ! ば、馬鹿な!!」


 しかし、彼女が目の当たりにしたのは既にフォステリアに向かい、剣を振り下ろそうとする仮面の男の姿が目に映っていた。


「くっ、速い!!」


 放たれた剣撃を直ぐさまレイピアで弾き返す。だが、レイピアを振り払ったままの状態で、すかさず繰り出される、もう一本の剣による斬撃。


「くうっ、まだやられる訳には!──デュオ!!」


 フォステリアは片腕を失う覚悟を以て、その剣撃を手で打ち払う為に足掻こうとする……そして──


「ヒャッハッーーっ!!」


 ───


 ──ガアイィィィン!!─


 剣を受け止める音が響き、何が起こったのか? それを確認する為、フォステリア。彼女は自分の目の前の光景を確認する。


 そこには、彼女の前に立ち塞がったひとりの剣士が、自身の身の丈程もある片刃の長剣で、仮面の男の剣を受け止めている姿が確認できた。


「……何だあ、てめぇ」


 剣を打ち合わせた仮面の男が、吐き捨てるように呟く。


「………」


 剣を受け止めた長髪を後ろでまとめた剣士は、無言でその打ち合わさった長剣を真横へと払いながら、静かに言葉を発した。



     挿絵(By みてみん)



「その特徴的な掛け声は確か、ストラトスの部隊の特攻隊長を務めるヒューリーだったか?」


「あん?」


 その声を聞き、黒髪の仮面の男は剣士の顔を凝視した。


「……誰だてめぇ……ぐうっ! 何だ……頭が、頭が……頭が痛ええぇぇーーっ!!」


 突然、絶叫を上げながら、仮面の男は頭を両手で抱え込み、地面にうずくまる。


 そんな様子を冷ややかな目で見ながら、剣士は周囲にいるミッドガ・ダル兵士達にも声を掛ける。


「お前達もやっと見つけ出す事ができたと思えば……そうか、既に遅かったか。もう人在らざる者へと変えられてしまったのだな。すまんな……」


 そう発せられる剣士の声を聞き、彼らも仮面の男同様に唸り声を上げながら、地面にそれぞれ崩れ落ち、もがくように突っ伏し、ある者は転げ回る。


 そんな中、その剣士はひとり馬上で残っている赤黒い髪の仮面の男に、長剣を突き付けた。


「そしてお前は、あの時に俺の軍門に下ったかつての同志。それでストラトスの副官でもあったオルデガ。そうだな?」


「………」


 ───


 すると、無言で仮面の男は馬上のまま近付いてきた。


「……成る程、お前がこの身体が人間だった時の(あるじ)と言う訳か。ミッドガ・ダル戦国の王、レオンハルトよ」


「さあ、知らんな。少なくとも今の俺は、只の一介の剣士。レオンハルトだ──」


 レオンハルトと名乗った剣士は、端正なその顔に皮肉めいた嘲笑を浮かべながら、そう答えた。


「……お前がミッドガ・ダル戦国の王、レオンハルトなのか! それは本当の事かっ!!」


 フォステリアが驚愕の声を上げる。


 レオンハルトはそれには答えず、赤黒い髪の仮面の男を見据えている……しばらくの間、無言でふたりは対峙し続けた。


「………」


「………」


 やがて、地面でうずくまっていた黒髪の仮面の男が、よろめきながら立ち上がる。


「……ぐぐっ、野郎! ぶっ殺してやるっ!!」


 ───


「…………」


 すると、突如として赤黒い髪の仮面の男が、馬の踵を返した。


「──引くぞ」


「あん? 何でだ! ぶっ殺さねーと俺の気が済まねぇっ!!」


()()()と言っている」


「ぐうっ……だから、何でだ! 納得いかねえ……」


「忘れたか、今の我々の目的は『心臓』を見つけ出す事だ」


「……ちっ、そうか……そうだったな。確か『心臓』だったな……」


 ───


 その仮面の男達ふたりの間で交わされる会話に、聞き耳を立てていたフォステリアが、彼女自身の心の奥底で何か引っ掛かるような違和感を強く感じていた。


(──心臓……)


 だが、それが何を意味するのか。その時はそこまで考えが及ばなかった。


 ───


 仮面の男達はいくらかのやり取りの(のち)、この場から立ち去ろうと動き出す。ミッドガ・ダル兵士であった者達もその後に続く。


 そして立ち去る際に赤黒い髪の仮面の男が、馬上から振り返らずに言葉を残した。


「今ここに過去、お前の部下だった者は誰ひとりとしていない。いや、人間と呼べる存在すら既にいない。何故ならば、我々は今、お前達が追っている『滅ぼす者』に近しい存在だからだ」


 レオンハルトは何も言わず、その後ろ姿を見据えている。


「………」


「また近い時に相まみえる事となるだろう」


 やがて、黒い鎧を身に纏った集団は、その姿を消して行った。



 ─────



 ──そしてこの場所で再び異なる対峙が始まる。


 フォステリアがレイピアを手にし、その剣先をレオンハルトに向けていた。


 ───


「ミッドガ・ダル王、レオンハルト! 貴様、今度は如何なる企みを企てるつもりだ! 答えろ!!」


 一方のレオンハルトは表情を変えずに無言のまま、長剣を腰の鞘に納める。


 ──チンッ─


 そして


「……ふむ。それがエルフの助けて貰った時の礼儀というものなのか?」


 その言葉に対し、不快を顕にしたフォステリアは、少しむきになって声を上げる。


「だ、黙れ! 助けて貰った事に関しては感謝している。だが、今問題なのはそこではない!!」


「……そうだな。確かにお前の言う通り、今問題なのはそこではない」


 そう言うと、レオンハルトは切れ長の鋭い目をさらに鋭いものと変えた。そして再びフォステリアに問い掛ける。


「風の大精霊を『守護する者』フォステリア。お前と行動を共にしていた黒い剣士、デュオ・エタニティは今、何処だ?」


 その名前を聞き、フォステリアはレイピアを構える身体をさらに硬直させる。


「──貴様、何故私の名を? それに、デュオを一体どうするつもりだ! その返答次第ではこの場にてミッドガ・ダル王、レオンハルト。私が即刻貴様を討つ!!」


 そんなフォステリアの様子に、レオンハルトは少し困惑の表情を浮かべ、小さくため息を漏らす。


「やれやれ、エルフといった種族は中々頑固な思考の持ち主ようだな。先程言ったばかりだろう? 今問題なのはそんな些細な事などではない。俺にとっての最大の問題は今はそのデュオと会う事。それにもう俺とミッドガ・ダルとは関係ない。今は只のひとりの剣士だ」


「……しかし、そう簡単には信じる事などできない」


 レオンハルトはもう一度、小さなため息をつく。


「先程の件も、お前は目にしていた筈だが? 今の俺と黒の魔導士側とは敵対関係にある。それに仮にもし偽ってデュオと会い、彼女に俺が危害を加えようと試みても、逆に俺の方が返り討ちに合うのは既に目に見えている。いつも近くにいたお前ならば、彼女の持つ力が如何に強大なものか分かっているのではないのか?」


「………」


 レオンハルトの言葉にフォステリアは無言になりながらも、彼に向けたレイピアはまだ下ろさない。


「とにかくだ、今の只のひとりの剣士レオンハルトである俺と、お前達ふたりが目指している目的は同じものだ。それだけは信じて貰えると助かるのだがな」


 その言葉にようやくフォステリアは、レオンハルトへと向けていたレイピアを下に下ろした。


「やれやれ、久しぶりに饒舌となってしまった。初対面の者と話すのはあまり好まんのだが……」


 レオンハルトはそう声を漏らしながら、フォステリアに問い掛ける。


「それでデュオ・エタニティは今、何処だ?」


 すると、フォステリアは少し顔を歪めながら下唇を噛み、うつ向くように視線を下に落とした。


「……確かに、お前の言う通りだ。今問題なのは先程までいたデュオが、今のこの場にいない事だ……」


 彼女のその言葉に反応し、レオンハルトは少し声を荒らげる。


「何? それはどう言う事だ」


「実は先程の戦闘の際で──



 ─────



「──成る程、この崖から転落した訳か……」


 片膝を着きながら、レオンハルトは崖下を覗き込んでいる。その遥か下方で激しい水の激流が崖下の岩肌を叩き付けるように流れているのが確認できた。

 あれに呑み込まれてしまえば、おそらく通常の人間ならば助からない。確実に命を失う事になるだろう。


「………」


 レオンハルトは立ち上がり、何かを思案しながら、デュオが転落した崖下を無言で見下ろし続けている。


 デュオ、フォステリアのふたりがこのノースデイ王国に入り、そして現在デュオがこの崖下へと転落する。それまでの経緯を、レオンハルトはフォステリアの口から説明を受けていた。


 ───


「……ひとつ疑問に思う事があるのだが、デュオ。彼女程の力があれば、このような事態になる前に敵となる者を殲滅する事は容易な事だと思うのだがな……」


 レオンハルトは振り向き、後ろにいるフォステリアに問い掛けた。


「……おそらくそれは、敵となる相手がミッドガ・ダル兵士だったからだろう。彼女は敵が人間である事に躊躇し、如何に殺さずして事態の収集を図ろうと模索した。本来の力を使用する事なく……それによりこのような結果になってしまった。まあ、それがデュオの良い所でもあり、同時に欠点でもあるのだが……」


「ふむ。確かにそれはあまり感心せぬ心掛けだな……お前もそうなのか?」


 レオンハルトは再び彼女にそう聞き返してくる。


「……私は己の信念。それを貫き通すのに必要な事であれば、人間をこの手に掛ける事も厭わない!……筈だったのだが、デュオと共に旅を続ける事によって、その件に関してはもう自信が持てなくなった」


 フォステリアはデュオが落ちていった崖の方へと目を向けながら、寂し気な表情で呟くように続ける。


「自分自身よりもまず周りの者の事を気遣う。そして守ろうとする……そんなやさしい奴なんだよ、デュオは……」


「………」


 そしてレオンハルトは一言呟く。


「……そうか」


 レオンハルトは崖下へと視線を戻し、再び無言で何かを考えているようだった……やがて


「この崖下の水流の流れに沿い、デュオを捜索する事としよう」


 そう言いながら、レオンハルトはフォステリアの方に視線を向ける。


「その先を見ろ」


 続けてある場所を指差した。


 フォステリアは差された指の先に目を向ける。


 その先にデュオが転落した崖から水の流れに沿って、左右ふたつに大きく分断されるように分かれた地点が確認できた。


「その場所から先、崖下の河川はふたつの方向に大きく分かれる。ならば、ここは二手に分かれて捜索する事としよう。デュオ・エタニティ、あの者ならば、この程度の事で命を落とす事などない。俺はそう思うのだが」


 その言葉にフォステリアは力強く頷く。


「勿論、私も同じ考えだ……私はそなたをまだ信用している訳ではない。だが、よろしく頼む、レオンハルト」


 すると、レオンハルトは少し口元を緩めながら答える。


「これは前にデュオにも言ったのだが、俺の事はレオンと呼んでくれていい。長くて呼び辛いだろうからな」


 それに対し、フォステリアも鼻でフッと苦笑いを漏らしながら返した。


「ならば、私の事はフォリーと略してくれ。理由はそなたと同じだ」


「了承した」


 そう返事を返しながら、レオンハルトは自分の愛馬の元へ移動する。そして馬上に跨がった。


「ではフォリー、デュオを見つけ出す事ができたのならば、特に異変がない限り、また再びこの場所にて落ち合う事としよう」


 軽く右手を上げ、レオンハルトは馬の足を進めさせる。だが、直ぐに立ち止まりフォステリアに向かい、振り向いて声を上げた。


「ひとつ忠告しておく。先程の奴らと再び遭遇する事となっても絶対に相手をしない事だ。特に仮面を付けたふたりにはな……あれに関してはおそらく俺やお前。通常の範疇に於いて只の強い力を持つだけでは敵う相手ではない。よしんば勝利を納める事ができたとて、こちらの被害も尋常ではないだろう。デュオ、彼女でなければ……充分に注意する事だ」


 そしてレオンハルトは、枝分かれした分岐点の一方へと馬を走らせて行く。


「分かった、忠告ありがたく受け取っておく。そなたこそ充分に気を付けてくれ、また後で会おう。レオン」


 ───


 フォステリアも馬に騎乗し、崖の分岐点をレオンハルトとは別の方向へと馬を走らせた。


(取りあえず、今はデュオを探し出さねば……)


 彼女は馬上で思いを巡らす。


(……奴らは明らかにあの場所で待ち伏せをしていた。狙いは本当にデュオだったのか?)


 フォステリアは思考を続ける。何か大切な事を見落としているような気が彼女の中でずっと、くすぶり続けているのだ。


(……あの時、仮面の男は心臓と言う言葉を口にしていた。『心臓』を見つけ出す事が目的だと……)


「……!!」


 フォステリアは突然、馬の手綱を大きく引き寄せた。


 ──ヒヒヒンッ─


 それに応じ、彼女を乗せた馬は、頭を奮わせながら大きな嘶きを一声上げ、そして立ち止まる。


 フォステリアの中でずっと引っ掛かっていたその言葉が、ある重要な事と結び付く事に気付いたのだ。


(そうか! 奴らの今の目的は──)


 すると、彼女は急に馬の踵を返し、今までとは反対の方向へと馬を走らせた。


(デュオの方はレオンがいてくれている。取りあえず彼女の方は彼に任せるとして、今のこの事実。この事に気付いているのはおそらく私だけ……ならば、取るべき道はひとつ!)


「──せやっ!」


 フォステリアは馬の速度を速める。


 ───


「──『心臓』……今はクリスティーナが危ない!」


 そして彼女は突き進む。火の大精霊の寺院の方角へと──






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