78話 戦友(とも)よ
今回は話の都合上、かなり文字数が少なくなっております。予めご了承下さい。
それではよろしくお願い致します。
俺とノエル。すなわちデュオは、ユーリィやカレン達と別れ、自室に戻る途中で寄り道をし、王城の外へと出ていた。
今夜は良く晴れている。きっと、綺麗な星空を眺める事ができるだろう。
俺の提案だった。
─────
「あ~、やっぱり綺麗だなぁ……」
星空を見上げた俺は思わずそう声を漏らす。
『アルって本当に星空を眺めるのって好きだよね』
『まあな……』
しばらく無言で空を見上げていると、後方から何者かが近付いてくる気配を感じ、同時に足音も聞こえてきた。
振り返ると、ここへと歩み寄ってくる人物。
獣人王、バルバトスだった。
……いや、その名は捨てたって言ってたっけ。今は水の大精霊を『守護する者』エリゴル。
彼はそのまま俺の横に並ぶようにして立つ。それを待つようにして声を掛けた。
「もしかして、今から出掛けるつもりですか?」
横を向き声を掛けた時、エリゴルは腕を組み、直立していた。やがて、前を向いたまま返事を返してくる。
「ああ、獣人族は夜目が良いのでな。今から出ようとしていた所だ。まだ、この地には野に隠れた同胞は多い。彼らを集め、また戻ってこようと考えている」
「そうですか……」
俺はそう答えながら、隣に立つエリゴルに再び目を向ける。
革製の動きやすそうな鎧を身に付け、肩には大きめの麻袋を掛けていた。そして背には例の大剣を取り付けている。
「お前達はいつ出立するのだ?」
「そうですね。明朝、準備が整い次第、出発しようと考えてます」
「そうか……」
しばらく静寂の時間が続く。そしてそれを破るかのようにエリゴルが話し出した。
「お前には感謝している。昔、私は一族の安住となる国を作り上げたいが為に、ただ、戦っていた。戦争という名の殺戮行為……それをひたすらに繰り返していた。そしてやがて、戦友と呼称した存在に裏切られ、我らは滅亡へと追いやられた」
「………」
「ふっ、最初、奴と出会った時、気が合った楽しい奴でもあったよ。あの頃は間違いなく信頼し合える友人と呼べる存在だった。そのように今も思う……だが、強欲、独占、嫉妬……あらゆる負の感情が、奴を変えてしまったのだろう……」
エリゴルは話し続ける。その目は何処か遠くを見ているようにも感じられた。
「そして私は今の時に転生という形で甦り、復讐という負の感情にその心を取り込まれていた。復讐を果すべき奴はとうの昔にいなくなり、そして愛する我が娘も転生し、この世界で生きているというのに。復讐という名の殺戮行為が憎しみを生み、ただ負という感情だけが数多く、大きく膨れ上がらされていく……結局、私がしていた行為は、私が憎んでいた奴と何ら変わりなかったという事だ」
「………」
「負の感情から生まれてくる力は簡単に手に入り、そして且つ強力だ。だが、何かを守る為の勇気、人を思いやるやさしさ。それら正の感情の力は手に入れ難く、真なる力を発揮させるのは尚、難しい。だが、今回の戦いに於いて、正の感情の方が負の感情のそれよりも優れている。その可能性をデュオ、お前が指し示してくれたように思う。今も既に始まっている『滅びの時』、だが、お前ならば、この世界のあるべきひとつの可能性を、必ずや導き出してくれるだろうと、私は確信している」
エリゴルはそう言って俺の方へと顔を向ける。それに応じ、俺も彼と視線を合わせた。
「私はデュオ、お前と共に戦えた事を誇りに思っている……ありがとう。礼を言わせてくれ。お前なら、昔の戦友と呼んだ奴とは違い、その心を負に取り込まれる事はないだろう。期待している」
「そんな、私の事、買いかぶり過ぎですよ……でもその言葉、ありがたく受け取っておきます。まあ、精一杯にがんばってみますよ」
俺は少し笑みを浮かべながら、そう返した。
「ふっ、お前らしい返事だな……おっと、もうそろそろ行くとするよ」
そう言いながらエリゴルは俺から視線を逸らし、手を自分の首の上に乗せながら、何となく気まずそうな態度をし出し始めた。
「……何と言うか、私は別れの場とか、言葉というものはどうも苦手でな……で、あれば──」
そう言いながら、エリゴルは自身の右腕を立たせ、前へと突き出してきた。
『うん? アル、これって、どういう事?』
『これはな、ノエル。すなわち、こういう事さ!』
俺は自分の右腕を、エリゴルが突き出してきた腕に、勢い良く交差させるようにぶつけ合わせた。
──ガシッ!─
「──さらばだ戦友よ。また再会しよう」
「はい、エリゴルさんも健闘を。またお会いしましょう」
◇◇◇
翌朝、今、聖都クラリティの壊れて歪んだ城門の前で、旅立つ準備をしている俺とフォリーの姿があった。
俺達ふたり以外、周辺に人の姿はない。
というのも早朝から司祭システィナ、ユーリィとセシル。それとカレン達三人に別れの挨拶と出立の意向を伝え済ませていたからだ。勿論、いつ時に出発するまでは伝えてはいない。皆、こんな状況だから色々と作業に追われ忙しいだろうし、何より自惚れかも知れないけど、みんな揃ってのお見送りだなんて気恥ずかしくてごめん被りたかったからだ。
それに関してはフォリー、彼女も俺と同意見だった。
最後に馬に荷物を括り付け、準備を完了させる。
「さて、それではデュオ、そろそろ行くとするか」
「うん、行こう」
─────
そして俺達ふたりは馬に跨がり、走らせる。
空は晴れて綺麗に澄み渡り、とても気持ちの良い朝だ。辺りも静寂に包まれ、耳に届いてくるのは一定のリズムの蹄の音と、小鳥の囀ずりの声だけ。
まるで数日前に行われた激闘が、嘘のように感じられる。
そんな穏やかな空間の時。
─ピピピッ─
─チチチッ─
『本当に気持ちのいい朝だね。ふふっ、小鳥の声も心地好い……』
『ああ、そうだな。確かに綺麗な声だ』
俺とノエルは頭の中で何気ない会話となる念話をしている。
─ピピピッ─
─チチチッ─
本当に綺麗な声だな。それにしても、なんて清々しい朝なんだ。
─ピピピッ─
─チチチッ─
─────
─ズドドドドッ!!─
………。
『『ズドドドドッ!?』』
俺とノエルはその異常な音に驚き、馬上で振り返る。
その異常な音の発信元は直ぐに確認できた。
カレンが物凄い勢いで俺達ふたりを、全力疾走で追い掛けてくる姿が目に飛び込んでくる。
まさに脱兎の如く。い、いや、カレンだけに猪突猛進。猪の突進の方が似合ってるな……。
後から少し遅れてソニアとカレンもきているようだ─っていうか、遅れたふたりはバテバテじゃないかよ……カレン、そういう冗談っぽい事に関してはさすがに半端ないな。
「そこなるおふた方、待てい! 是非とも待たれーーいっ!!」
そう、彼女が声を張り上げた。