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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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75話 生きるという事

よろしくお願い致します。

 フォリーに付いて行き、俺達は王城の一室に入る。


 そこは予想外にも比較的、狭いと感じる空間の部屋だった。中央に長方形の長いテーブルが置かれ、一番奥、正面の席に司祭システィナの姿が。

 その右側に『守護する者』エリゴル、ウィリアム軍団長、神官戦士長クライド。そして左側にユーリィとセシルが、それぞれ並ぶように席に着いていた。


 部屋に入ってきた俺とフォリーに、システィナが声を掛けてくる。


「フォステリア様、デュオ様をお呼びに行って頂き、誠に申し訳ありませんでした。それとデュオ様に於かれましては、支援活動をご援助頂いていたようで、重ねてお礼を申し上げます。ありがとうございました」


「えっ? い、いや~」


 ……どういう事?


『支援活動ってさあ、ノエルがやってたの?』


 身に覚えがない事を言われた俺は、ノエルに問い掛けた。


『うん、まあ……ね。私も、ちょっとでも何かの役に立ちたかったから……それで』


『ふ~ん、そうだったんだ、がんばってたんだな……その、何だ……俺もさっきまでの事、悪かった。ごめん』


『ふふっ、私には実質被害がなかった訳だし、別にいいよ。私の方こそトマトジュースの件、ごめんね。でも、これで完全に仲直りだね』


『ああ、そうだな』


 そして俺とフォリーはシスティナの勧めを受け、彼女とは対面するように席に着いた。それを確認したシスティナが再び口を開く。


「さて、今ここでこの席を設けたのは、デュオ様とフォリー様にお話ししたい事があるからなのです。まずは私達、教国側から、お二方にご報告があります。これは、フォステリア様のご意見を踏まえて決定した事なのですが……」


 静寂の中、司祭システィナは言葉を続ける。


「前にも申し上げましたが、教国の現国王は、病で数日前にご崩御なされました。この事実は国に迫りくる危機に対し、大いに士気に関わる事なので、事態の収拾が図る目処が立つまで隠蔽し、(おおやけ)にするつもりはありませんでした」


 皆、一同に彼女の言葉に聞き入っている。


「ですが、今、この国は復興する為にも新たな王を必要としています。しかし、前国王の死により、王家の直系の血筋は途絶えました。これもこの教国を興した祖王の、罪深き業に向けられた当然の報いなのでしょう……しかし、その血筋を受け継ぐ者が僅かながら存在します。それが、私とここにいるユーリィなのです」


 そのシスティナの言葉に、キュッとユーリィの顔が引き締まる。そして席に着きながら両腕を組んでいたエリゴルが、そんなユーリィの様子を確認し、無言で大きく頷いている。


「私、個人としてはこの国に、もう王という名の存在は必要ないと考えてます。ですが、国をひとつにまとめ上げ、導く者は必要です。その役目を王家の血、そして獣人の血。両方を受け継ぐユーリィに担って貰う事としました。元王家の私と獣人の王、エリゴルとの間の息子である彼に。それにより我々、ふたつの異なる勢力は、過去に縛られた憎しみというしがらみを完全に絶ち切り、これから互いに協力し合いこの国を再び……いや、これまで以上に繁栄する事になるであろうと、確信致しております」


 そうシスティナは力強く、宣言となる言葉を大いに張り上げた。次に立ち上がり、俺の方へと視線を向けてくる。


「そしてこの国の危機を救い、我々が協力する関係に導いて頂いたデュオ様、フォステリア様に改めてお礼の言葉を申し上げたく思います。誠にありがとうございました。言葉では、とても感謝しきれません。デュオ様。貴方という存在が、私達という存在に関わりを持ってくれた……その事がとても幸福であった……今はそのように感じています」


 そしてその彼女の礼の言葉に合わせるように、一同一斉に起立し、俺とフォリーに向けて頭を深々と下げてくる。


 俺は慌てて立ち上がり、両手を前に突き出しながら声を上げた。


「……そ、そんな改まって、お礼なんていいですっ、私なんて、そんな大それた事してないし、何より皆さんが協力して、一生懸命になって努力した結果ですよ」


 すると、横に並び立ったフォリーが、俺の方へと目で合図を送りながら頭を下げ、返事の声を上げる。


「──はい、そのお礼なるお言葉。慎んでお受け致します」


 俺はフォリーの意図を汲み取り、仕方なくそれに合わせる。


 ……こういうの苦手なんだよな、何だか照れくさいし……。


「私もそう感じて頂いて嬉しく思います。この剣の力が、皆さんのお役に立てたのならば……その事が今の私にとって一番の励みとなります。感謝のお言葉、ありがとうございます」


 ──ふう、緊張する。


『まあ、こんなもんかな?』


『大丈夫、大丈夫。ちゃんと言えてるよ、アル』


 そして再び皆、それぞれの椅子に着席する。


 再びシスティナが俺に問い掛けてくる。


「さて、デュオ様。これからのご予定は、もうお決めになっているのですか?」


「はい、水の大精霊は全ての大精霊に会い、精霊石の欠片を受け取るようにと言ってました。四つ集め集う時、自らの大きな力になる。そうとも……それがどんな力なのか、私には全く分かりませんが……」


 その時、ふと隣にいたフォリーの身体が、ピクリと反応するのを感じた……目を向けると彼女の様子に特別、異変は感じられない。


 なんだ、気のせいか……。


「今、私の身体の中に、風と水の精霊石の欠片を所持しています。ですので、次の目的は火と大地の大精霊の元に行く事。そうなります。このティーシーズ教国から近いのは火の大精霊、ノースデイ王国なので、まずはそちらに向かおうと考えてますが……」


 俺の答えにシスティナは静かに頷き、ウィリアムに向けて声を掛けた。


「分かりました。それでは、まずウィリアム軍団長、我が国に於ける今の戦況、及びミッドガ・ダル軍の現状を説明して頂けますか?」


「はっ!」


 ウィリアムはそれに応じ立ち上がる。


「前に報告した通り、我が国に浸入、交戦中であったミッドガ・ダル軍は、全軍自国内へと撤退したとの事です。尚、ノースデイ王国に放っていた物見によりますと、王国へ侵攻中であったストラトスを大将としたミッドガ・ダルの軍勢も、突如として自国領へと撤退を開始した模様との事……ただし、その時に異常な光景を目撃したようなのですが……」


 神官戦士長クライドが口を挟む。


「異常とは何だ? まさか、『滅ぼす者』か!」


「否、何でも撤退の最中にミッドガ・ダル軍同士が交戦をしたようなのだ。同士討ちとなる戦闘、それもかなりの激戦だったようだ」


「……仲間割れか?」


「さあな……だが、それによって分かれたミッドガ・ダルの自国に戻らなかった方の軍勢は、そのままノースデイ王国の中へ、消えるように姿をくらましたそうだ」


「………」


 ミッドガ・ダル戦国か。あの時、共に戦ったレオンハルト王は何を考えているのか、得体の知れないような所も見受けられたけど、俺は信用できる人物だと思ったんだが……実際はどうなのだろう?


 そう考えている間にもシスティナが、次なる言葉を発する。


「分かりました、ありがとうございます。ウィリアム軍団長」


「はっ!」


「では次にクライド、我が国の被害状況と、生存者の救出活動の報告の方を」


「はい、承知致しました」


 今度はクライドが立ち上がり、報告を始める。


「現在、確認できる範囲内の報告となりますが、まず聖都クラリティに於いては神殿を含め、およそ四分の一が全壊、または半壊の模様。一番大きい被害として城塞都市ヨルダムが全壊、消滅し、都市としての原形を留めていないとの報告です。尚、それについてはフォステリア様にも御同行願い、共に確認済みです。またミッドガ・ダル軍の撤退により、その他に占拠されていた砦や街は、ほぼ被害の報告はありません」


 システィナが静かな面持ちで無言のまま頷く。


「そして生存者の救出作業ですが、聖都の方は獣人勢達の助力もあり、ほぼその全てをこの王城内に搬送済みです。また、城塞都市ヨルダムに於いてはその状況により、最早、救出作業は無意味かと……尚、今も引き続き、生存者を捜索作業中です」


「分かりました、ご苦労様です。夜間は作業を中断し、また明日、明朝より引き続きお願いします」


「はっ!」


 すると、システィナは静かに目を閉じ、しばらくの間そのままで思いに耽っている様子だった。そして


「長くなって申し訳ありません。デュオ様、フォステリア様。以上が我が国の現状です。ミッドガ・ダルの脅威も去り、我々は当面、復興作業にその力を注ぐ事ができるでしょう。まだ、ユーリィも若く学ぶ事も多いので、しばらくは私が代理としてこの国の再興に微力ながら、その責を果たそうと考えています……そう、私達はもう憎むべき(かたき)同士ではないのだから……」


 システィナはエリゴルの方へ目を向ける。それに無言で、しかし、力強い頷きで答えるエリゴル。


「デュオ様、フォステリア様。お二方に私達がお力添えできる事は限られ、大きくは敵いませんが、微力ながらにも少しでもそのお力になりたいのです。何かあれば遠慮なくお申し付け下さい。そしてお二方の目的が無事に達成できる事を心からお祈り申し上げております……おそらくはそれが私達、いや、この世界の未来──」


「はい、ありがとうございます」


 そう返事を返しながら俺は思う。


 ──ああ、この人はなんて強く、そしてやさしい人なんだろう。


 と──


 しかし、あの時、黒の魔導士アノニム。その存在によって放たれた負の感情。それにより、このシスティナと言う名のひとりの人間も、周囲の者達と同じく、負という感情に心を黒く染め上げられ、ただひたすらにひとつの言葉を繰り返していた。


 ──“憎い敵を殺せ”─


 その時の存在も、また間違いなく、このシスティナと言うひとりの人間なのだ。


 人とは一体何なのだろう?


 ──喜び、怒り。 幸福、絶望。 愛情、憎悪。 勇気、恐怖。 思いやり、蔑み、嘲り。 やさしさ、冷酷。──


 正の感情を持つという事は、必然的に対極となる負の感情を持つという事になる。


 『感情』──それを与えられた唯一の存在。それが人、人間だ。  


 憎しみや悲しみ、痛み。それを知るからこそ人は時にやさしく、そして強くなる。


 正と負。どちらかが欠ければ、それは既に『感情』と呼べるものではなくなる。言い換えれば、それは『人』ではなくなるという事だ。


 それが例え、どんな人格者であったとしても。今、目の前にいる司祭システィナや、もしくはアストレイア王国の聡明なリオス王であっても……そして俺自身さえも。


 全ての人間が感情を持つ人である限り、感情という名の天秤は、常に『正』と『負』へ。まるで振り子のように同じ傾きの動きを繰り返す。 


 聖人と悪人──正と負は表裏一体。


 未来永劫、それはずっと繰り返し、動き続けるのだろう。 


 感情を持つ人という存在が、この世界からなくなるその時まで──


 だったら何故、人に感情というものを与えたのだろうか……?


 ─────


 俺がまだ、自分が剣である事すら知らなかった暗闇の世界。もしも気付いた時に、感情がない存在の者だとすれば──


 空腹になれば食って腹を満たし、敵と見なせば闘争する。そして繁殖期になれば交尾し、種を増やす。ただ、それだけを繰り返すだけの存在。


 だが、気付いた俺には感情があった。


 それから今に至るまでたくさんの感情を経験してきた。勿論、その中に怒りや憎しみという負の感情もある。でも、それは何かを守る、またはやり遂げるという力に変換し、コントロールする事ができた。


 そして俺は、色んな景色や様々な人々と出会い、別れ、それら全ての体験は、自分にとってのかけがえのないものへとなっていく。


 ─────




 ──アル、私達はずっと一緒だよ──



 


 ああ、そうか、簡単な事だったんだ。生きていると実感する為に『感情』というものがあるんだ。


 ─────


「デュオ様、どうかなされましたか?」


 少し考え込んでいた俺に、システィナが声を掛けてくる。


「あっ、い、いえ……そうですね」


 自分でも想像もつかない程の、強力な力を持つ漆黒の剣という存在の俺。


 いつかの時、魔剣の黒髪の女性は、その力を使用する目的となるものは、自身で選べと言っていた。俺が自らの意思で選ぶものだと──


 だったら、俺は感情というものが人に与えられているこの、『今の世界』を守りたい! 


「全力でがんばりますっ!!」


 背筋をシャンと伸ばし、思わずそう大声を上げてしまう俺だった。


 この場にいる者、全員がその声の大きさに驚き、ギョッとした様子だったが、直ぐにそれは手を叩く拍手の音へと変わっていった。

 皆が立ち上がり、自分に向けられる拍手の中、俺はノエルに話し掛ける。


『……生きているって素晴らしい事だよな』


『あはっ、何それ、急にどうしたの?』


 彼女は笑いながら答えてきた。


『別に。ただ、今、無性にそう言いたくなっただけ』


『そうなんだ。でも、アルっぽくていいよね。それ』


 自分にあったわだかまりが解け、決意を新たにする。


 必ずこの世界を──その為のこの魔剣(ちから)だ!


 ─────


 俺はそっと目を閉じ、背にある魔剣の力を感じ取っていた。


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