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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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74話 私 VS アル。壮絶なる痴話?喧嘩

よろしくお願い致します。


 ───


 私は今、大浴場の出口に設置されているテーブルの椅子に座り、トマトジュースを味わっている。


 一口、口に含み、テーブルの上へとジュースが入ったグラスを置く。そしてまた手に取り、もう一口。……そう私は今、予告通りの飲み方を実践し、ゆっくりと味わっているのだ。



 ─────



「ふぅ~、いい湯だった……おっ、デュオ。何を飲んでいるんだ?」


 ちょうど浴場から出てきたフォリーさんが、私を見付け、声を掛けてきた。


「そんなの決まってるじゃないですか、トマトジュースですよ」


 フォリーさんは少し呆れたような笑顔で答えてくる。


「ふふっ、本当にお前はトマトが好きだな。どうだ、美味しいか?」


「もう最高ですっ!!……でも、もうひとりのデュオの方は今、私の中で悶絶してますけど──」 


 ───



     挿絵(By みてみん)



『うえっぷ……ご、拷問だ。一体、俺が何をしたっていうんだ……いっそ、もうひと思いに楽にしてくれ……う、うぷっ……おえっ……』


 ───


「成る程、トマトが好物なのはお前の方なのか、いつものデュオの方は?」


 私はニッコリと笑顔でフォリーさんに答えた。


「最大級の大苦手ですっ!!」


「……そ、それはいいのか?」


「その件に関しては今回に限り、全く気にしてません、むしろ、全然大オッケーです。それよりもフォリーさんもお風呂上がりに一杯どうです? 冷たくてとっても美味しいですよ。私、貰ってきましょうか?」


「そうだな、せっかくだからお願いしようか」


 その声に私は立ち上がる。


「分かりました。今から取りに行ってきますね。ちょっと待っていて下さい」


 そして私はフォリーさんに向けて人指し指を口に当て、ウインクをしながら悪戯っぽく笑う。


「それじゃあ、私も、もう一杯おかわりの方を──えへへ」


『!!……本気(マジ)か……う、嘘だろ……』



 ─────



 そして両手にトマトジュースのグラスを手にした私は、フォリーさんの所に戻り、彼女にそのひとつのグラスを手渡した。


「は~い、お待たせっ、フォリーさん。無理を言って特別サービスで作って貰いました~っ! トマト1.5倍!! 濃度増し増しの特注品ですっ!!」


『ノエル……お前、本気か……本気でそれを……もう俺は余裕で逝ける……もしも再び会えるのなら……また再会しよう……俺……ぐふっ……』




                   ◇◇◇




「──って言うんですよ、可笑しいですよね?」


「あははっ、確かにそれは面白いな」


 私とフォリーさんはしばらくの間、おしゃべりを楽しんでいた。トマトジュースのグラスは、もうふたつ共空になっている。


 ───


「おっと、大分時間が経ってしまったな。すまないが、私はシスティナ殿とこれから会う約束をしているんだ。それではデュオ、また後で」


「あっ、はい。また後で」


 フォリーさんは立ち上がり背を向けて歩き出したが、急に立ち止まり、振り返りながら笑顔を見せてきた。


「良かったな、もうひとりのデュオが帰ってきて。いつものオッドアイに戻っているぞ。それと……ふふっ、あんまり苛めてやるなよ。それではな──」


 手を上げ、そう言いながらフォリーさんは行ってしまった。


 ……確かにちょっとやり過ぎちゃったかな……。


 私は少し申し訳なくなり、アルに向かって声を掛ける。


『あの~アル、ちょっとやり過ぎちゃってごめんなさい。やっぱり怒ってる?』


『………』


『私もその~、何ていうか……裸を見られて恥ずかしくなっちゃって……頭に血が昇って、ちょっとテンションがおかしくなってたのかも……だから、本当にごめんね』


『………』


『何か言って欲しいんだけど……』


『……()っふっふっふっ……それがし、今は全くの平常心。全然、激怒なんてしてないでこざるヨ~。だから、至極安心して頂いて宜しいでござるヨ~──憤怒っ!』


 ……いや、明らかに怒ってるじゃないっ! ふんぬっていう掛け声が、どうも嫌な字に聞こて仕方ないんだけど!─っていうか、あんた一体誰だよっ!


 ───


 その時だった。急に雰囲気が変わり、緊張したアルの声が頭の中に響いてくる。


『──剣を手に取れ、ノエルっ、早く!!』


 アルの声に異変を感じた私は、剣を手に取り、握り締めた。


『どうしたのっ! アル!!』


『危険だっ、何かが迫って来ている! ノエル、交替だ!!』


『うん、分かった!』


 そして私達は入れ替わる。入れ替わってデュオとなったアルは、無言のまま剣を握り締めていた。


 私は堪らなくなり、彼に声を掛ける。


『危険って……一体、何が迫って来てるの?』


 その私の問い掛けにアルは……。



    挿絵(By みてみん)



『それは……な? ノエルにとって危険な、俺の『仕返し』が迫って来てるのさ……』


 そう、彼は冷静な声で答えてきた──


『アル……騙したな……』


 アルは無言で立っている。やがて言葉を発する事なく、剣を自らの背に装着した。


『仕返しって、一体何をするつもり?』


 私は何か凄く嫌な悪寒を感じ、そう問い掛けた。それに対し、アルは不意に何かを宣言するように大きな念話の声を上げる。


『今からこのまま、浴場の男湯の方に突撃を敢行するっ!!』


『──ええっ?』


『そして中にいるであろう、むさ苦しい男兵士達の裸体を、嫌という程にこの目に焼き付けてやるっ!!』


 ──え……?


 ……え、え~っと……へ??



      挿絵(By みてみん)



 ──な、何ですとおおおぉぉーーっ!


『ちょ、ちょっと……冗談……でしょ?』


 すると突然、アルは浴場の方に向かって歩き出した。


『見てやるっ! じっくりと見てやるっ! ガン見してやるーーっ!! 特に下半身とか、主に下半身とか、極端に下半身だけとかああああぁぁーーっ!!』


『やだあああぁーっ、やめてえええぇーっ! それにそんな凶悪な事を、三度も復唱しないでええええぇーーっ!!』


 ──ううっ、冗談じゃない! ど、ど、どうしよう?─って、ちょ、ちょっと待って!


 ……ふむ。


 私は彼を止める、ある妙案を思い付く。


『アルって、今はデュオだよね?』


『はあ? なに当たり前の事言ってんだよ』


『いや、女の子であるデュオが、アルが今から実行しようとする事をしちゃえば、それはすなわち『変態』だよね?』


『……うっ』


『いいのかなぁ~アル。それ以降、デュオは変態さんになっちゃうよ?』


『……ぐう、ぬぐぐっ……』


 ──ふふっ、勝った。えっへん!!


 私は心の中で大きくガッツポーズを決めた。


 ───


 しばらく間が空き


『……ノエルの嫌いな食いもんって、何だっけ……?』


 ……アル。こやつめ、まだ諦めてないのか──しかし、まだ甘い!!


『ふっふっふっ、私は生まれながらにして特殊能力(スキル)。『全食物美味覚化』を所持している。よって、私に食べ物の好き嫌いなど存在しないのだよ、残念だったなアルくん……えっへん!!』


『……いや、それって、ただ単なる長所ってやつだろ。しかもすっごく平凡な……』


 アルの声の勢いが落ちてきてる……もう諦めてくれたのかな?


『アル、本当にごめんなさい。もう仕返しなんて諦めて、仲直りしよっ、ね?』


 その私の言葉にようやくアルは足を止め、その場に立ち尽くす……ほっとひと安心する私。


 しかし、彼は立ち止まったまま、ポツリと一言呟いた。


『──狩りに行く』


『ほへっ?』


 意味が分からず、私はすっとんきょうな念話の声を溢してしまう。


『腹が減った……ので、今から狩りに出る! そして蛙や蛇を乱獲しまくって、腹いっぱいになるまで食いまくってやるっ!!』


 アルの大きな声の内容を聞き取り、私は驚きの声を上げた。


『うええええええぇぇーーっ!!』


『心配すんな、俺が調理してやる。ちゃんと料理すれば中々に美味いもんだぞ? ああ、でもそうだなーっ、丸焼きも捨てがたいよな~、うん。何か楽しみになってきた!』


 ……カエル? ヘビ??……まる焼き……???


 ──えっ?


『──嫌だああああぁぁーっ! 許してええええぇぇーっ!!』


 アルはきびすを返し、浴場とは逆の方向へと向かい足早に歩き始めた。



      挿絵(By みてみん)



『──わはははははははっ! ノエル! 俺はもう止まらんぞっ!!』


 いつもは比較的、冷静なアルが怒り狂ってる……さすがは偉大なる食物の王様、別名アレキサンドライト(私が勝手に言ってるだけだけど……)の異名を持つトマト様。そのお力、恐るべし!──って、バカな事言ってる場合じゃない!!


『アル、ごめんなさああああぁぁーーいっ!!』


 ─────


 その時、私にとって救世主となる、ある人の声が響いてきた。


「デュオ、まだここにいたのか」


 それはフォリーさんだった。彼女は私達、デュオに近付き声を掛けてきた。


「さっきから、同じ場所を行ったりきたり、お前は一体何をしてるのだ?」


 アルは慌てて誤魔化すように答える。


「あっ、もしかしてフォリー、見てた? こ、これは。え~っと、何というか。その……そ、そう。トマトジュースを飲み過ぎちゃって、ちょっとお腹を小慣らす為に、散歩などを──べ、別に怪しい事なんて何もしてないぞ!」


 ……うわあぁ、わざとらしい。アルって、相変わらず誤魔化すの下手だなぁ~。


 すると、フォリーさんはこっちに向かい軽く微笑んだ。


「ふふっ、そうか。今はいつものデュオって訳だ」


「……へっ?」


 もちろん、今のアルには何の事を言ってるのか、さっぱり分からないだろう。後でアルにもちゃんと説明しないとね。


「まあ、ちょうどいい。私はデュオ、お前を呼びにきたんだ。何でもシスティナ殿が、これからの事で私達に話があるそうだ。バルバトス。いや、今はもうエリゴル殿か。後、ウィリアム軍団長とクライド殿も既に待っている。さあ、行こうか?」


「あっ……うん、分かった。行こう、フォリー」


 そう答えるアルの声は、もう既にいつもの冷静さを取り戻していた。


 はあ~~、良かった。フォリーさん、助かりました──そしてアル、本当にごめんね。




 ─────




 こうやって私とアルとの、とっても幼稚で青くさい大喧嘩は、幕を閉じました。


 ちょっとやり過ぎた感はぬぐえませんが、でも実はと言うと──


 アルがまた私の所に帰ってきてくれた事が実感できて、ちょっぴり楽しかったのは秘密です!!


 ○ まるっ。 ちゃん、ちゃんっ♪



      挿絵(By みてみん)







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