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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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73話 私とフォリーさん

よろしくお願い致します。

 

 ───


 ──バシャーーッと耳に届く水の音。


「ふう、さっぱりしたな」


「はい、とっても清々しいですっ」


 私は今、フォリーさんと一緒に王城にある大浴場の中にいる。そして先程お互いの背中を洗い合い、身体に水を流し終えた後だ。


 そしてさらにいうと、私はフォリーさんのこの世のものとも思えぬ、美しい見事なその身体に見とれてしまっていた。


 ─────


「うっわあ~っ、フォリーさん。すっごく綺麗です! 抜群のプロポーションです! まるで美の女神様みたい!」


 フォリーさんのあまりの美しさに、思わず興奮する私……まあ、実際に美の女神様なんてものにはお目に掛かった事なんてないのだけど……。


 私のその言葉にフォリーさんは、少し顔を赤らめた。


「そ、そうか……同性に面向かってそう言われると、さすがに恥ずかしいものだな。そんな大層なものでもないと思うが……」


「絶対にそんな事ないですよ。でも、フォリーさん、ずるいですっ、着ていても凄いのに脱いでも凄いだなんて、一度で二度美味しいみたいな。こういうのなんて言うんだっけ── 一網打尽??」


「……まとめて捕らえてどうするのだ……いや、デュオ。それを例えて言うのならば、一石二鳥、もしくは一挙両得だろう?」


 苦笑いを浮かべながら答えるフォリーさん……あれ、私、何か間違った?


「と、とにかくフォリーさんは凄く綺麗なんですっ!……それに比べたら、私なんて胸も大してないし、腰もキュッと括れてないし、スタイルは子供っぽいし……はあぁ~、何か、ますます自信喪失……」 


 すると、フォリーさんは私の身体をひとしきり見た後、やさしく微笑んだ。


「そんな事はない、デュオ。女の私から見てもお前は充分に綺麗だし、魅力的だと思う。ふふっ、それになんと言っても、とても可愛らしい(チャーミング)と感じるぞ」


 ──うっ、あうう。


「むきゅうう……」


 その言葉に恥ずかしくなった私は、顔を赤くしながら慌てて湯船に飛び込んだ。そして口元まで身体を沈める。


「あ、ありがとう、フォリーさん。お世辞でも嬉しいです……」


「お世辞なんかではない、もっと自分に自信を持て。いつもの強気は何処にいったんだ? ああ、それはもうひとりの方のデュオだったか?」


 そう言いながらフォリーさんは湯船に浸かり、私の隣に座った。


「………」


「何か悩み事があるのだろう? 言いたくないのであれば、別に構わないのだが、私で良ければ相談相手になるぞ」


 私の事を気遣ってくれるフォリーさんのやさしい言葉──思い切って聞いてみる事にした。


「フォリーさんは私が……デュオがふたりいるって事を、どうして知ってるんですか?」


「うん? 別に特別何も知らないさ、ただ私がそう感じただけだ。希に雰囲気が違うお前を見掛けた事が何度かあったからな」


「そう……なんですね……実は言うと私、今ちょっと不安なんです」


「それはいつものデュオがいないという事でか? そういえば、一体何処へ行ったんだ?」


「それは……私にも分からない。でも、私達ふたりはこの身体でひとつになって、それからひとりになってしまったのが今回、初めてだから……それで何だか寂しくなってしまって……もしかしたら、もう帰ってきてくれないかもって思ちゃったり……」


「………」


「でもダメだね、私がこんなに悲観的になってちゃ、もうひとりのデュオも嫌がって余計に帰りたくなくなっちゃうよね。あはは……」



        挿絵(By みてみん)



 力なく笑う私の頭の上に、フォリーさんがフワリと手を乗せてきた。


「そんなに心配する事はない。デュオはお前に帰ってくると言ったのだろう?」


「……はい、必ず帰ってくると言ってくれました」


「だったら必ず帰ってくるさ。だって、あのデュオは自分で言った事は必ずやり遂げる……そうだろう?」


 そのフォリーさんの言葉に私は気付いた。


 ──そうだ、アルはそういう奴だ。だったら、今の私が心配する事なんて何ひとつない!


 私は笑顔でフォリーさんに元気な返事を返す。


「はいっ!!」


 すると、フォリーさんは私の頭に乗せた手で、そのままやさしく頭を撫でてくれた。


「これからも何かあれば私にも頼ってくれ、そしていつかその時がくれば、本当の事を私にも話して欲しい……だって、いつものデュオ、そして今のデュオ、どちらも私の大切な家族なのだから……」


 フォリーさんのその言葉に、私は嬉しさで胸がいっぱいになり、思わず目から涙が溢れてくる。


「……ありがとう、フォリーさん。それとごめんね、いつか、その時がくれば必ず全て話すから、それまで待っていて……」


「……ああ、分かった」


 フォリーさんはしばらくの間、泣いてる私の頭を微笑みながら、ずっとやさしく撫で続けてくれていた……そんな時



 ──私が最も恐れていた事が起こってしまった──


 ─────


『──うっ、うわああああぁぁぁーーっ!!』


 私の頭の中でアルの大絶叫が鳴り響く!


「──うっきゃーーっ!」


 そのアルの大音量の声に驚き、私も大声を上げてしまう。


 咄嗟に事態の異変に気付いた私は、フォリーさんを見ないようにして、天井を見上げながら立ち上がる。


「フォリーさんっ、緊急事態が発生しました! 只今より待避行動に移行します。お先に失礼します! また後でっ!」


 そしてなるべく自分の身体を見ないように、天井を見上げたままの状態で、大浴場の出口に向かって行った。


 後ろからフォリーさんの声が聞こえてくる。


「緊急事態とは、一体何事だ? デュオ」


 私は振り向かず、出口に向かったままそれに答える。


「いつもの方のデュオが帰還した模様です! なので、速やかにこの場から退出致しますっ!」



 ─────



『──な、なんで裸のフォリーがいるんだっ─ってか、ノエルもなんで裸なんだよっ! 俺のいない間にお前達は一体、何をしてたんだ!』


『見れば分かるでしょっ! ふたりでお風呂に入ってただけじゃない! それよりもアル、あんたまさかフォリーさんの裸を見たんじゃないでしょうね!?』


『……あーっ、見てないよ、湯気で良く分かんなかったし……まあ、ぼんやりと輪郭くらいかな─って、見てないっ、見てないっ!』


 う~ん、本当かな~、何か怪しい……まあ、取りあえず


『早く出ちゃうよ! 後から誰か入ってくるかも知れないし』


『お、おう……』


 そして浴場から飛び出した私は、衣服を着る為に、自分の身体をなるべく見ないようにタオルで拭き始める。やがて、胸に差し掛かった時に、ふとフォリーさんの形の良いふくよかな胸が思い浮かんできた。


 ……あ~あ、それにしてもフォリーさん、綺麗だったなぁ~。それに比べれば、私なんて……。


 そう思いながら私は、自分の胸を見る為に下を向く。そこにはフォリーさんに比べて明らかに小振りな自分の胸が目に入ってきた。

 それを確認した私の口から、思わず溜め息が漏れそうに───


『──ぐふっ! ノエル、お、お前は一体、何をっ!』


 !! しまった──


『……アルっ、見たな……』


 感情を押し殺した私の声が、頭の中で響く。


『……見た─っじゃなくて、見えたんだっ! っていうか、だいたい見たのはノエルだろーがっ!』 


 ……確かにアルの言う通り、全ての原因は私にあるのだけど。


 さっき、私は自分の胸を割としっかり観察してしまっていた……形どころか、その先端部分さえも……ええ、それはもうガッツリと──


 という事はだ。つまり、今見た光景と同じものがアルにも見られたって訳だ……。


 ──見られた、見られた、アルに見られた………う、ううっ、ぐぬぬっ!


 私は自分の浅はかさに悔しくなり、恥ずかしさも入り交じって、涙が滲み、カーッと顔が赤くなるのを感じる。


『──報復してやるっ!!』


『へ?……何だって?』 


 私はアルに返事は返さず、身体を見ないようにして、まずは下着を着け、服を着始めた。この作業はもう何回もこなしているので手慣れたものだ。


 最後に(アル)を背中に宛がう。それに応じ、触手によって身体に剣を固定させるアル。


 それを確認した私は、足早にある場所へと向かった。



 ─────



『……ノエル。一体、何処へ行くつもりなんだよ?』


『………』


 少し無言の間が空き、私は答える事なく逆にアルに問い掛ける。


『ねぇ、アル。この教国の特産物って、何だか知ってる?』


『はあ? な、何だそれ……いや、知らないけど』


 私の口から妖しい笑みが溢れる。


『ふふっ、私もね今日、初めて聞いたんだけど、水の大精霊の清らかな水によって、育まれた豊潤なるもの。何でも『トマト』らしいんだよ。しかも、味がと~っても『濃厚』で美味しいって『有名』なんだって!』


『………』


『しかも何故か都合良く、この大浴場の近くにそれを味わさせてくれる場所があるのだよ』


『………』


『ここまで言ったら、さすがに分かるよね?』


『ぐふっ……』


『──ふっふっふっふっ……お風呂上がりに、冷た~いトマトジュースを飲んでやるっ!』


『ま、本気(マジ)か……』


『教国特産の『超濃厚』なトマトジュースをまず、鼻先でその芳醇な香りを楽しみ、次にそれを口に一口含んでから、ゆっくりと舌先で転がし、時間を掛けてねっとりとなぶるように堪能して、そして最後の一滴までその全てを味わい尽くしてやるっ!!』


 ─────


『……ええっ!?』


『──ふっ』


 ─────


『──ぎいやああああぁぁぁーーっ!! や、やめてくれっ、そんなやらしい淫靡な飲み方は! せめて普通に飲んでくれっ!!』


 私は歩く速度を落とす事なく、確実にその場所へと向かって行った。


 ─────


『ふははははっ、覚悟致せっ、アル坊!!』


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