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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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67話 真なる力

よろしくお願い致します。

 ──ミシッ、ミシッ


──空気が軋む。巨大な怪物『滅びの時』、その尖兵となるセクンドゥスが上げる雄叫びを口火に、戦いは始まった!


 ─────


 まず、俺は魔剣を上段に構えたまま、怪物に向けて全力で疾走する。そして奴の直前で高く跳躍し、空中へと跳んだ!

 次に頂点で宙返りをしながら、セクンドゥスに向け魔剣の触手を伸ばし、空中からの強襲を試みる!


 だが、その強襲となる触手の攻撃は、奴の手に持つ巨大な剣によって薙ぎ払われ、防がれる事となってしまった。

 しかし、二本の剣を横に薙ぎ払った事によってセクンドゥス、奴の巨大な胸元が、がら空きとなった。


 そこへ奴の身体に魔剣の触手を突き立て、引き寄せる! 次に俺は空中からの全体重を乗せた魔剣の一撃を、がら空きとなった場所へと叩き込んだ!


 怪物の肉が切り裂かれ、鮮血が飛散する!


 力を吸収しながら奴の身体を蹴り上げ、そのまま後方へ空高く跳躍した!


 俺が見下ろす下方では、バルバトス、カレン達三人が、それぞれ手にした武器を振り上げながら、セクンドゥスに向かって突進している。

 その後方ではフォリーが、精霊召喚の詠唱を始めているようだった。


 ──ノエルの願い事の内、まずはひとつ。誰ひとりとしてやらせやしないっ!


 俺は空中から魔剣を持つ右手と、持たない左手にそれぞれ魔力(マナ)を込める。そして自身を含む全員に防御となる魔法を発動させた!


「──光の(ライティング)防御壁(・ウォール)! 魔力の(レジスト)防御壁(・マナ)!」


 空中から放たれる魔法によって、下方にいる仲間となる全員の身体が、光り輝く半透明な壁と青く輝く光りによって包まれていく。


 ──足らない。もっと、もっとだっ!


 俺は地面に着地するまでの間、何度も何度も、防御系の魔法を仲間達に重複させた!


 やがて、俺が着地するのと同時に、フォリーの魔法の詠唱が完了し、出現した炎の魔人(エフリート)が、炎の礫となって轟音を発しながら巨大な怪物に向かって突進して行く!

 爆音が轟き、噴煙が立ちのぼる中、怪物が繰り出す鎌の腕による斬撃をかわし、バルバトスがそれに向かって巨大な大剣を振り下ろす!

 カレン達、三人も絶妙な連帯攻撃を、その怪物の鎌の腕に叩き込んでいた!


 その様子を確認した俺は、次に左手のひらを前へと突き出し、聖なる光(ホーリーレイ)の魔法を放った!

 怪物セクンドゥスに向かって、白い閃光を放つ光線が一直線に伸びていく!

 そして俺は光線の後を追いかけるように駆け出した。その俺の後へと続いてくるフォリー。


 やがて、ふたり共、同時に跳躍し、怪物の身体を駆け上がって行く。そしてふたり示し合わせたように同じタイミングで、ホーリーレイが直撃した怪物の胸の傷跡に向けて、俺は魔剣を! フォリーは刺突剣グロリアスを! 


「──でりゃあああっ!!」


「──はあぁぁーっ!!」


 それぞれの剣の攻撃を放った俺達、ふたりは同時に地に足を着け、振り返った。


 セクンドゥスは胸を大きく切り裂かれ、鮮血を吹き上げながら身体を揺らめかせ、そして傾けさせる。続いて怪物の蛇のような足元にドスンッと音を立て、獣王バルバトスの大剣で切断された怪物の鎌の腕、一本が落ちてきた。


 セクンドゥスはゆっくりと傾いた身体を起こしながら、足元に立つ俺達、ひとりひとりを、順に確認するように視線を巡らしている。


 ─────


『成る程、素晴らしいものじゃ。怒りや憎しみでもなく、負の感情以外から発せられるその力……戦いとなるものに於いて、よもや正の感情。それが勝るとも思えぬが……』


 怪物セクンドゥスは、自身の身体が大きく破損させられているのにも関わらず、静かに笑いながら言う。


 ……何だ、こいつ。身体に痛みを感じないのかよ……。


『フフッ、それが次に創られる世界に必要な可能性、『答え』という訳か』


 その言葉に俺は答える


「さあ、それはどうだろうな。どっちが勝ってて、どっちが劣ってるなんて分からない……だけど、正の感情も負の感情もどちらも持ち合わせている……」


 俺は奴に向けて魔剣を突き向ける。


「それが俺達、『人間』だから!」


 セクンドゥスは、再びその顔に笑みを浮かべる。


『それを自覚しているのならば、このまま静かに『滅びの時』を向かい受ける事ができるのではないのか?』


 俺は頭を振り、否定する。


「だからこそさ。負の感情を持ち合わせてるからこそ、思いやるやさしさや、愛する事。そして楽しくて笑ったりする事。そんな正の感情の大切さが良く分かるんだ。だから、『滅びの時』、そんなものは絶対に受け入れない!!」


 その俺の言葉が終わるのを待っていたように、獣王バルバトスが大剣を振りかざしながら、怪物に向け再び突進する!


 迫りくるバルバトスを迎撃しようと、セクンドゥスの持つ左右、二本の剣が彼に向かい迫った! その一本の剣をバルバトスは手に持つ大剣で弾き返し、怪物の身体を蹴り上げる!


 そんなバルバトスに迫るもう一本の巨大な剣の斬撃を、後から続いてきたソニア、ダンがふたり掛かりで受け止め、カレンが手に持つシミターで斬り掛かった!


 三人の援護を受けたバルバトスは、そのまま怪物の身体に駆け上がって行き、蹴り上げ跳躍し、その身を捻りながら振り向き様、怪物の背中から盛り上がるように生えている鎌状の腕目掛けて、大剣を振り下ろした!


 再び切断され、音を立てながら地面に叩き付けられる、もう一本の怪物の鎌の形状をした歪な腕!


 そして剣を持つ怪物の腕もカレン達、三人の繰り出す攻撃を受け、ズタズタに切り裂かれ、腕としての機能を失っていた。


 そこへ俺とフォリーが、更なる追撃となる攻撃を仕掛ける!


 フォリーが再び放った炎の魔人(エフリート)の突進と並走するように、俺は駆け出した!


 炎の礫が着弾し、爆音が轟き噴煙が上がる。そんな中、俺は上方を見上げ怪物の首元を狙い、そこへと魔剣の触手を解き放ち、そして突き立てた!


 それを手繰り寄せ、引き寄せられるように、一気に上空へと飛び上がる!


 その途中で、それを防ごうと振り下ろされる怪物の剣を確認し、持つ剣ごとその腕を両断する!

 怪物の頭上へと飛び上がった俺は、空中で方向転換をしながら、次に怪物の遥か下にある足元の地面に向かい、触手を伸ばし突き立てる!

 それを引き寄せる勢いで、今度は下方へと移動しながら、もう一本の剣を持つ怪物の腕に魔剣を振り下ろした!


 怪物の切断された巨大なふたつの腕が、血飛沫を撒き散らせながら、音を立て地面に落下する!


 地面に着地した俺は魔剣を振りかざしながら上方を見上げた。その俺の目に入ってくる、続けて切断され、落下してくる怪物の鎌の形状をした二本の腕!


 どうやらバルバトス、フォリーのふたりの手によってそれは行われたらしい。やがて、俺の隣へと着地してくるバルバトスとフォリー、そしてカレン達、三人。


 激しい戦闘で祭壇のあらゆる所から音を立て、パラパラと小さな瓦礫が落ちてくる──そんな中。


 全ての腕を失い、胸を大きく切り裂かれ、焼き爛れた異臭を漂わせた巨大な怪物セクンドゥスが、小刻みに身体を打ち震わせながら立ち尽くしていた。


 瞳のない赤い眼球が狂ったようにギョロギョロと、目まぐるしく円運動を繰り返している──


 ────


「やったぜ! ざまぁみやがれってんだっ、これが俺達の愛と友情の力ってやつだ!」


「よ~しっ、一気に止めといっちゃうよーーっ! 覚悟してよねっ!」


 ダンとカレンが武器を構えながら声を上げる。


「待て、何か様子がおかしい……」


 バルバトスがふたりを制止するように言った。


「確かに……手応えがなさ過ぎる」


 フォリーが応じる。


「嫌な予感がする──みんな気を付けろっ!」


 最後に俺がそう叫んだ!



 ──“ドクンッ”──



 そしてそれは始まった。


 ─────


 全ての腕を失い、そびえ立っていた巨大な怪物セクンドゥス。うつ向かせた白髪で隠れたその顔から、低い唸り声のようなものが発せられた。

 それに伴って、身体を震わす動きが大きくなっていく。


 そして徐々にその形状を変化させていった。


 バクンッ、という突然の異様な音と共に、美しかった怪物セクンドゥスの巨大な上半身が、ふたつに大きく口を開くようにして割れた。


 そしてその空洞を埋めるように、ヌラヌラとした赤黒い筋肉の繊維のようなものがそれぞれ飛び出し、その隙間を包み込んでいく。


 次に変形を遂げた上半身の側面と蛇の下半身の両脇から、蜘蛛のような足が内側から突き破るように飛び出してきた。


 そして最後に──


 白い長髪を持つ美しいセクンドゥスの巨大な女性の顔が──それが真っ二つに割れた。その中から──


 ──美しい女性が姿を現す。


 スラッと伸びた手足。灰色の肌で理想となる見事な女性のプロポーションを象った身体に、括れた腰まで伸びた透き通った白い髪。その美しいと感じる顔は、怪物セクンドゥスと瓜二つ。しかし、今度の彼女の赤い目には妖しい光を宿した瞳が存在していた。


 彼女の右手には剣と槍ともとれる異形状となる長い黒い武器を手にしていた。身体の局部には歪な形状をした鎧のようなものを身に付けている。


 ─────


『うぬらの力、(しん)に見事じゃ──今からは妾、自らが相手をしてやろうぞ! さあ、存分に『苦痛』と『絶望』、負なる力。それを堪能するがいい!』


 新たに姿を現した真の尖兵、セクンドゥス!


 そして割れた巨大な怪物の頭が閉じ、それも単独の怪物となって不気味な変貌を遂げていた。その頭上に新しく誕生したセクンドゥスが着地し、手にした武器を真横へと振りかざした!


 その瞬間、単独となり独立した巨大な怪物の切断されたそれぞれの腕の傷口から、数え切れない程の無数の赤い触手のようなものが飛び出し、こちらへと追尾するように伸びてきた!


「──くっ! くそっ、何だこれは!!」


 次々に伸びてくるそれを魔剣で斬り払うが、数が多過ぎて捌き切れず、やがて、伸びてきた触手達はその尖った先端を俺の身体に突き立てようとすり抜けてくる!

 それを身に受ける度に身体に施された防御系魔法の光の壁が現れ、それが直撃するのを何とか凌いでいる。


 だが、やがてその防御魔法が限界に達し、身体を包んだ光の壁が、ピキッ、と音を立て破壊された!


 同時に堰を切るように多数の触手が迫ってき、その内一本の鋭い先端が肩口に深々と突き刺さる! 激痛が走る中、俺の身体はその無数の触手達によってがんじがらめにされ、自由を奪われた。


 そしてゆっくりとがんじがらめとなった身体を、複数の触手達によって上方へと持ち上げられていく。


「……ぐうっ、くそ! みんなはどうなった!?」


 俺は身動きができる範囲で、皆の状態を確認する。


 フォリー、バルバトスのふたりが俺と同じように複数の触手達によって、身体の自由を奪われているのが目に入った。おそらくはカレン達、三人も同様の状態に陥ってる事だろう。


 そんな中、真の姿をさらけ出したセクンドゥスが声を発する。


『……ふむ、この張りぼての祭壇も少々邪魔じゃな──』


 そして武器を持たない左手を前へと突き出した!

 巨大な魔法陣がセクンドゥスの背に出現し、突き出す手のひらに黒い球体が発生する!


『──破壊の黒線(カタストロフィ)!』


 セクンドゥスの手のひらから、一筋の黒い光線が一直線に飛んで行き、祭壇の壁に直撃する!


 直撃を受けた壁は爆発と共に瓦礫となり、それを辺りに飛散させる!

 ──崩れ落ちる祭壇の壁!


 セクンドゥスは、黒い光線を放ったままの腕を横へと薙ぎ払った!


 祭壇を支える柱が次々に薙ぎ倒され、壁が爆風と共に崩れる! やがて、柱を失った部分の屋根が崩落し、瓦礫が雨となって降り注いでくる!


 半壊した祭壇の天井には黒く淀んだ曇天の空が覗いていた。


 尚もセクンドゥスは、魔法の黒い光線で辺りを薙ぎ払い続け、同じく分裂し、醜悪な姿となった巨大な怪物が、身体から生える蜘蛛のような足で祭壇内を破壊し続ける!


 そして次に、俺達を束縛した触手の力を強め、締め上げてきた!


 その力を徐々に強め、まるでいたぶるように締め上げていく!


「……ぐうっ! く、くそっ、このままじゃ……」


 そう思いを巡らすのと同時に、俺の身体が飛ぶような感覚に襲われ、振り回された触手の力によって激しく身体を壁に打ち付けられた!


「──ぐぅあっ!!」


 身体に激痛が走り、口内に鮮血が溢れ出る……。


 周囲からもフォリー達、仲間の苦痛に耐える複数の声が俺の耳に届いてくる……。


 ……ふと亀裂が走り、大きく傾いたティーシーズ教国の象徴である女神像が俺の目に入ってきた。その腕の中には宙に浮く、青い光を放つ水晶のような石の姿が……。


 ──あれ、は……あれは守るべき、水の精霊石だっ!!


 ─────


『アル! 今が踏ん張り所だよ! 魔剣の力は、あなたの力はこんなものじゃないでしょうっ!?』


 俺の心の中に響いてくるノエルの一喝!



 ──Just as she said……My master


 

 !?……確かにそうだ──!!


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