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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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61話 魔人 VS 獣王

よろしくお願い致します。

 ──ギィィン! ギィィン!


 剣と剣が打ち合う金属音が、辺りに鳴り響き、その度に互いの剣から火花が飛び散る。その両者が繰り出す攻撃の速さは最早、常人の目では捉える事ができない速さだった。

 ただ、デュオが持つ魔剣の紅い光と、バルバトスの魔力(マナ)を帯びた白い光が放射線を描くようにして、激しくぶつかり合う。


 その常人の域を遥かに超えた攻防に、獣人達、教国戦士達も、お互いに戦い合っていた手を止め、呆然とその戦いに目を捉えられていた。




 ──────────




 バルバトスは空気をも震わすような大剣の一撃を、俺に向かって打ち下ろしてくる! それを魔剣で受け止め、お互いの剣から発せられる閃光を浴びながら、力比べとなるつばぜり合いが始まった!


 ─────


「ふふふ、ははははっ! たぎる! このような我が身がたぎる戦いは、忘れて等しい。さすが噂に違わぬその力、我らの力はほぼ互角のようだな。だが、それでこそ倒しがいがあるというものよ!」


 ギリギリと音を立て、打ち合わさる互いの剣。


「……確かにバルバトス、あんたの力は獣人の王というだけあって、その力は強大だ。だけど、私は今回の戦いの中で、獣人達の命こそ奪ってはないが、たくさんの獣人達をこの魔剣で切り付け、その力を私のものとさせて貰った。そして今も……そう、バルバトス、あんたの持つ強大な力も──」


「……!?」


 バルバトスは最初、俺が言った言葉が何の意味を成しているのか、その事を理解できていないようだったが、やがて、その事に気付いたのか、自身の身体を確認し始めた。


「むう、これは……まさか、いつの間に」


 バルバトスの身体には無数の浅い傷が、その身体中に切り付けられていた。それぞれの傷口からは少量の血が滴り落ちている。


「私は自分の目的となるものを達成させる為に、もっと強くならなくっちゃいけない。だから、あんたの獣人の王としてのその力も貰い受けたよ……さすがに凄いな。自分自身が、更に強くなってるのが充分に実感できる」


 そう、言葉を言う俺のオッドアイの右目が、血の色に紅く、そして妖しい光を放つのが感じられる。


 そんな俺の右目に見据えられたバルバトスが、驚愕の声を上げる。


「まさか、この私が、恐怖を感じているだと……」


 俺はつばぜり合いを続けている魔剣に力を込め、受け止めているバルバトスの大剣ごと、力任せに大きく横に薙ぎ払った!


「──ぐぬおっ!!」


 その力に耐えきれず、バルバトスは後方に吹っ飛び、壁へと身体を打ち付けられ、地面にひれ伏す。


 土埃が舞い上がり、視界が悪くなる中、俺はバルバトスの元へと歩み寄った。獣人の王は立ち上がり、再び手に持つ大剣を構える。


「どうやら、私はデュオ、お前を甘く見ていたようだ。我が獣王の名に懸けて、これからは全力の力を以てして掛からせて貰おう──受けてみよ!」


 バルバトスはその声と共に、構えた大剣を前に踏み込みながら、大きく振り下ろした!


「──断!!」


 そして俺へと迫ってくる目に見えない斬撃の衝撃波!──だが


 ──ガギィィン!


「──何だとっ!」


 本来なら予知できないその見えない攻撃を、俺は感じ取り、魔剣で弾き返した。何故ならもうこの攻撃は魔剣の吸収によって、俺の知る事となっていたからだ。


「……むう──断!!」


 バルバトスは、今度は十文字に大剣を薙ぎ払い、ふたつの衝撃波を俺に向かって放ってきた!


 ──ガギィィン! ガギィィン!


 それを再び魔剣を振るい、弾き返す! ひとつ、返す剣でもうひとつと──そして


「──断!」


 俺はその声と共に、魔剣をバルバトスに向け振り下ろした!


 振り下ろされた先に真空の刃が発生し、衝撃波となって獣王に迫る!


「なっ、馬鹿な──!」


 しかし、それはバルバトスの身体には触れず、奴の持つ大剣に直撃する! 打ち響く金属音の中、バルバトスは、憎々しげな目で俺の事を睨み付ける。


「……お前は一体、何者だというのだ!……うぬっ、ならば、受けてみよ! 我が必殺の剣!!」


 猛々しい声で吠えたバルバトスは、大剣を両手に持ち、大きく上へと振りかぶりながら構えた。そしてピタリと動きが止まる──


「滅せよ!──連断獣王剣!!」


 獣の咆哮を上げ、大剣を振り上げた獣王バルバトスが、俺に向かい疾走する!


 連断獣王剣──今の俺の中にある知識では、それは、相手となる者に向かって複数の衝撃波を、同時に放ち、それを追うようにして自らも突進し、手に持つ武器の連撃を追い討ちとして放つ、恐るべき剣による連続攻撃!

 それをまともに食らったのならば、間違いなく木っ端微塵となって消し飛ぶ事だろう。そんなバルバトスが放った強力な攻撃に対抗する俺の手段は──


 俺は魔剣を大きく振りかぶりながら、獣王を向かえ討つように駆け出す!


 そして、“連断獣王剣”──彼と全く同じとなる技。それを放った。


 俺とバルバトスとの身体が重なり合うまでに、まず、互いの剣から繰り出された複数の衝撃波が、ぶつかり合う!


 ──ガギィィン! ガギィィン! ガギィィン!──そして


 ──ギイィィィンッ!!


 ─────


 重なり合った俺とバルバトスは、剣を振り抜き、そのまま、それぞれ逆方向へと駆け抜けた!


「……ぐっ、むうぅ!」


 獣王の口から、苦悶の声が漏れる。


 俺は振り返り、片膝を地面に着けたバルバトスへと近付く。


 ─────


「……成る程、私の力ではデュオ、お前には最早、敵わぬか……だが、私は立ち止まる訳にはいかぬのだ! 我らが受けた無念! 我が姫が受けた屈辱! そして、その復讐を果たす為、例え、この身が朽ち果てようとも!!」


 バルバトスはそう雄叫びを上げながら立ち上がり、再び手に持つ大剣を、俺に向かい振るってきた!


 奴の腹部からは魔剣による攻撃で、血が流れているのが確認できる。その傷が思っていたよりも深くない事に、取りあえずは良かったと感じる俺だった。

 そんなバルバトスの大剣を魔剣で受け止めながら、俺は呟いた。


「虚しいよ……」


「……何!?」


 俺のその呟きに反応し、獣王は動きを止める。


「もう復讐を果たす事さえ、どうにもならないこんな状況でも、あんたは復讐の念にがんじがらめに捕らわれ続けている……本当はもう分かっているんじゃないのか? あんた自身、本当はこんな事は望んでいない事に。自分達、獣人の存在意義を、復讐という形でしか見出してない現実に……そんなのは凄く悲し過ぎる……」


『確かに、アルの言う通り……こんなのおかしいよ。絶対に間違ってる』


「………」


「過去にあった事実。それはあんた達、獣人にとっては決して消し去る事のできない、忌まわしい出来事なのかも知れない。だけど、私達は『今』を生きている。だからこそ、過去にあった悲劇を再び繰り返しちゃいけないんだ……嫌な事、辛い事でも逃げ出さずに、我慢してがんばって作って行くんだ。創り直された世界なんかじゃなくて、今あるこの世界の未来を──」


『……アル』


 そう静かに話す俺の言葉に、バルバトスは打ち合わさっていた大剣を、ゆっくりと下へと下ろす。


「デュオ、お前は、一体……」


 ─────


 その時だった。祭壇中央の空中に突如として、バチッバチッと音を立ながら、黒い球体が姿を現す。やがて、その球体は消滅し、ひとりの人物が宙を浮くようにして立っていた──それは


 ──黒の魔導士、アノニムだった。


 この場にいる者、全員がその光景を目の当たりにする中、俺は大声で叫んでいた。


「──アノニム!!」


 その声に反応するかのように、黒の魔導士が、無機質な声を頭を覆った黒い鉄仮面から発する。


『──デュオ、お前はこの世界とは干渉せぬ、異端なる存在の者とはいえ、やはり貴重な人物のようだ。私が考えるに次に創造する世界の指導者になるに相応しい……だが、感情を持つ人である以上、それは最早、敵わぬ事……』


「………」


 俺は黒の魔導士アノニムを睨み付ける。


『白と黒、正と負は常に表裏一体。例え、どう足掻いた所で、それは決して変えられぬ、世界の(ことわり)となるもの。さあ、異端の者デュオよ、正か負、いずれが勝りそして残るのか、今一度、その可能性を私に示してみせよ!』


 そして黒の魔導士アノニムは、天に向けてその右手を掲げた!


「くそっ、お前の思い通りにはさせるかよっ!!」


 俺はアノニムに向かって駆け出す!


 その間にも天に掲げた奴の右手から、何やら黒い(もや)のようなものが発生し、そしてそれは、この祭壇に広がり始め、やがて、視界が遮られる程に充満されていった。


「こ、これはもしや、負の感情!?」


 いつの間にか俺に近付いていたフォリーが、そう呟く。


「……負の感情……」


 俺はその言葉を口にしながら、反芻するより先に、反射的に身体が動いていた!


 魔剣の触手をアノニムのいる場所の壁に突き立てる! それを引き寄せ、跳びながら空中に立つアノニム目掛けて魔剣を振り下ろした!

 だが、その攻撃が当たる寸前に、奴は瞬時にその姿を掻き消す。


「くそっ、また逃がしたか! しかし、一体奴は何を考えて──」


 空振りに終えてしまった俺は、地面に着地する。それと同時にこの場に広がる異常な雰囲気に気付いた。


「……何だ、これは……」


『アル、気を付けて!』


 そこにはこの祭壇にいる全ての者が、地面にうずくまながら頭を抱え、何かに苦しむように身悶えている異常な光景が目の前に広がっていた──





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